高校化学では、酸化還元反応を「酸化数の変化」で判定し、酸化剤・還元剤を覚え、半反応式を組み合わせて化学反応式を作ります。
酸化数のルールは便利ですが、「なぜそのルールなのか」という問いには答えてくれません。
大学化学では、酸化還元反応を電子の移動として統一的にとらえます。
酸化数のルールは「電気陰性度に基づいて共有電子対をどちらの原子に帰属させるか」という明確な根拠を持ち、
半反応式の組み合わせは電子の授受を体系的に記述する方法になります。
そして、電子移動の「しやすさ」を定量化するのが標準還元電位であり、反応が自発的に進むかどうかを数値で予測できるようになります。
高校化学では、酸化還元反応を次のように学びます。
酸化数は、次のようなルールに従って決めます。
これらのルールを使えば、ほとんどの化合物で各原子の酸化数を決定でき、酸化還元反応を正しく判定できます。 しかし、「なぜ H が $+1$ で O が $-2$ なのか」「なぜ例外が生じるのか」という問いに対して、ルールそのものは答えを持っていません。
次のセクションでは、大学の視点を導入することで、これらのルールに明確な根拠を与えられることを確認します。
大学化学では、酸化還元反応を電子の移動として統一的にとらえます。 高校で学ぶ「酸化数の変化」や「酸化剤・還元剤」という概念は、すべてこの電子移動の描像から導かれます。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. 酸化数のルールが「電気陰性度に基づく電子の帰属」から導かれることを説明できる
2. 酸化数のルールの「例外」が例外ではなく、電気陰性度の大小関係から自然に出てくることを理解する
3. 半反応式を体系的な手順で組み立て、全反応式を作成できる
4. 電子移動の「しやすさ」を定量化する標準還元電位の概念を理解し、C-5-2 への準備ができる
この統一的な理解の出発点は、「酸化数のルールの根拠」です。 次のセクションでは、電気陰性度という高校で学んだ概念を使って、酸化数のルールがどのように導かれるかを確認します。
高校で学ぶ酸化数のルールは、一見すると「便宜上の約束事」に見えます。 しかし、これらのルールには明確な根拠があります。 それは、共有結合の電子対を、電気陰性度の大きい方の原子に完全に帰属させるという操作です。
酸化数とは、化合物中の各原子について、次のルールで電子を帰属させたときの「形式的な電荷」です。
酸化数は自然界に実在する物理量ではなく、電子の帰属に関する定義・規約です。 実際の共有結合では電子は2つの原子核の間に確率的に分布しており、 一方の原子に完全に帰属するわけではありません。 しかし、この規約を使うと、電子の移動を追跡する強力な道具になります。
水分子の O-H 結合を考えます。 電気陰性度は O(3.44)> H(2.20)なので、各 O-H 結合の共有電子対は O に帰属されます。
帰属操作の結果を数えます。 酸素原子は、孤立電子対 2 組(4 個)と、2 つの O-H 結合から帰属された共有電子対 2 組(4 個)を合わせて、計 8 個の電子を持つことになります。 中性の酸素原子の価電子は 6 個なので、形式的な電荷は $6 - 8 = -2$ です。 これが酸化数 $-2$ に対応します。
一方、水素原子は共有電子対を O に奪われるので、電子を 0 個持つことになります。 中性の水素原子の価電子は 1 個なので、形式的な電荷は $1 - 0 = +1$ です。 これが酸化数 $+1$ に対応します。
つまり、高校で暗記した「H は $+1$、O は $-2$」というルールは、電気陰性度 O > H に基づく電子の帰属から自動的に出てくるのです。
高校では「O の酸化数は $-2$(ただし過酸化物では $-1$、$\text{OF}_2$ では $+2$)」と習います。 電気陰性度の観点から、これらの「例外」を確認します。
過酸化水素 $\text{H}_2\text{O}_2$:O-O 結合では同じ元素どうしなので電子対を等分し、O-H 結合では O に帰属します。 各酸素原子は孤立電子対 2 組(4 個)と O-O 結合の 1 個と O-H 結合の 2 個、合計 7 個の電子を持ちます。 中性の酸素原子の価電子は 6 個なので、形式的な電荷は $6 - 7 = -1$ です。 酸化数 $-1$ が自然に出てきます。
$\text{OF}_2$:フッ素の電気陰性度(3.98)は酸素(3.44)より大きいため、O-F 結合の共有電子対は F に帰属されます。 酸素原子は孤立電子対 2 組(4 個)のみを持ち、$6 - 4 = +2$ です。 酸化数 $+2$ が出てきます。 これは「例外」ではなく、フッ素が酸素より電気陰性度が大きいという事実の直接的な帰結です。
高校で暗記する酸化数のルール(H は $+1$、O は $-2$)は、「電気陰性度の大きい原子に共有電子対を帰属させる」という一つの原理から導かれます。
「例外」と呼ばれるケース($\text{H}_2\text{O}_2$ の O が $-1$、$\text{OF}_2$ の O が $+2$、金属水素化物の H が $-1$)も、電気陰性度の大小関係をたどれば自然に説明できます。暗記ではなく理解の対象になるのです。
ただし、酸化数は「定義・規約」であり、原子が実際にその電荷を帯びているわけではない点には注意が必要です。
高校では「金属水素化物中の H は $-1$」と習います。 $\text{NaH}$ において、Na の電気陰性度(0.93)は H(2.20)より小さいため、電子対は H に帰属されます。 水素原子は 2 個の電子を持ち、$1 - 2 = -1$ です。 ナトリウムは電子を 0 個持ち、$1 - 0 = +1$ です(実際、$\text{NaH}$ はイオン結合性が強く、$\text{Na}^+$ と $\text{H}^-$ として存在します)。
ここまでで、酸化数のルールが電気陰性度という一つの原理から導かれることを確認しました。 酸化数は共有電子対の帰属に関する規約であり、酸化数が変化する反応とは「電子の帰属先が変わる反応」、すなわち電子が移動する反応です。 次のセクションでは、この電子移動を半反応式として体系的に記述する方法を整理します。
セクション3で確認した通り、酸化還元反応の本質は電子の移動です。 半反応式(half-reaction)は、この電子移動を「電子を受け取る側」と「電子を放出する側」に分けて書いたものです。
たとえば、亜鉛が銅(II)イオンを還元する反応は、次の2つの半反応式に分けられます。
$$\text{Zn} \to \text{Zn}^{2+} + 2e^- \quad (\text{酸化})$$
$$\text{Cu}^{2+} + 2e^- \to \text{Cu} \quad (\text{還元})$$
上の式では亜鉛が電子を放出し(酸化され)、下の式では銅(II)イオンが電子を受け取っています(還元されています)。 2つの半反応式を足し合わせると、電子 $e^-$ が消えて全反応式が得られます。
$$\text{Zn} + \text{Cu}^{2+} \to \text{Zn}^{2+} + \text{Cu}$$
この「半反応式に分けて考える」方法は、単純な金属のイオン化だけでなく、 水溶液中の複雑な酸化還元反応にも体系的に適用できます。
高校では主な酸化剤・還元剤の半反応式を暗記しますが、 電子移動の観点から体系的な手順で組み立てることができます。 以下の手順は、酸性水溶液中の反応を想定しています。
Step 1. 酸化数が変化する原子を含む化学種を左辺と右辺に書く
Step 2. 酸化数の変化から、移動する電子の数を決め、$e^-$ を書き加える
Step 3. 酸素原子の数を $\text{H}_2\text{O}$ で合わせる(酸素が多い側に $\text{H}_2\text{O}$ を加える)
Step 4. 水素原子の数を $\text{H}^+$ で合わせる
Step 5. 両辺の電荷の総和が等しいことを確認する
この手順は「暗記の代替」ではなく、電子・酸素・水素の収支を論理的に合わせるアルゴリズムです。 高校で暗記した半反応式もすべてこの手順で再現できます。 塩基性水溶液中の反応では、Step 4 で $\text{OH}^-$ と $\text{H}_2\text{O}$ を使います。
酸性水溶液中で過マンガン酸イオンが還元される半反応式を、上の手順で組み立てます。
Step 1. $\text{MnO}_4^-$ 中の Mn の酸化数は $+7$、還元後は $\text{Mn}^{2+}$(酸化数 $+2$)です。
$$\text{MnO}_4^- \to \text{Mn}^{2+}$$
Step 2. 酸化数は $+7 \to +2$ で 5 減少しているので、電子を 5 個受け取ります。
$$\text{MnO}_4^- + 5e^- \to \text{Mn}^{2+}$$
Step 3. 左辺に酸素が 4 個、右辺に 0 個あるので、右辺に $4\text{H}_2\text{O}$ を加えます。
$$\text{MnO}_4^- + 5e^- \to \text{Mn}^{2+} + 4\text{H}_2\text{O}$$
Step 4. 右辺に水素が 8 個あるので、左辺に $8\text{H}^+$ を加えます。
$$\text{MnO}_4^- + 8\text{H}^+ + 5e^- \to \text{Mn}^{2+} + 4\text{H}_2\text{O}$$
Step 5. 電荷を確認します。左辺は $(-1) + (+8) + (-5) = +2$、右辺は $+2$ で一致します。
高校で暗記する過マンガン酸イオンの半反応式が、電子・酸素・水素の収支を合わせるだけで得られました。
酸化還元反応の全反応式は、酸化の半反応式と還元の半反応式を組み合わせ、電子 $e^-$ を消去することで得られます。 2つの半反応式で電子の数が異なる場合は、最小公倍数になるように係数を調整します。
たとえば、酸性水溶液中で過マンガン酸カリウムがシュウ酸を酸化する反応を考えます。
還元の半反応式(酸化剤):
$$\text{MnO}_4^- + 8\text{H}^+ + 5e^- \to \text{Mn}^{2+} + 4\text{H}_2\text{O}$$
酸化の半反応式(還元剤):シュウ酸 $\text{H}_2\text{C}_2\text{O}_4$ 中の C の酸化数は $+3$、$\text{CO}_2$ 中では $+4$ です。
$$\text{H}_2\text{C}_2\text{O}_4 \to 2\text{CO}_2 + 2\text{H}^+ + 2e^-$$
電子の数を合わせます。還元側が $5e^-$、酸化側が $2e^-$ なので、最小公倍数は 10 です。 還元の半反応式を 2 倍、酸化の半反応式を 5 倍して足し合わせます。
$$2\text{MnO}_4^- + 16\text{H}^+ + 5\text{H}_2\text{C}_2\text{O}_4 \to 2\text{Mn}^{2+} + 8\text{H}_2\text{O} + 10\text{CO}_2 + 10\text{H}^+$$
両辺の $\text{H}^+$ を整理すると($16 - 10 = 6$)、
$$2\text{MnO}_4^- + 6\text{H}^+ + 5\text{H}_2\text{C}_2\text{O}_4 \to 2\text{Mn}^{2+} + 8\text{H}_2\text{O} + 10\text{CO}_2$$
電子が完全に消去され、原子と電荷の収支が一致していることを確認できます。
誤解:酸化剤は「酸化する」ものだから、電子を放出する(酸化される)側だと思ってしまう。
正しい理解:酸化剤は「相手を酸化する」物質です。相手から電子を奪うことで相手を酸化し、自身は電子を受け取って還元されます。 半反応式では、酸化剤は還元の半反応式(電子を受け取る式)に登場します。 「酸化剤 = 電子を受け取る = 自身は還元される」という対応を、電子移動の観点から整理しておくと混乱しません。
ここまでで、酸化数の根拠(セクション3)と半反応式の体系的な組み立て方(セクション4)を確認しました。 酸化還元反応は電子の移動として統一的に記述でき、半反応式はその移動を「受け取る側」と「放出する側」に分けて書く道具です。 次のセクションでは、「どちらの方向に電子が移動するか」を決める原理 ── 標準還元電位 ── の概念を予告します。
セクション4で、酸化還元反応を2つの半反応式に分けて記述する方法を学びました。 しかし、半反応式を書けただけでは、「その反応が実際に自発的に進むかどうか」はわかりません。
たとえば、亜鉛板を硫酸銅(II)水溶液に浸すと、亜鉛が溶けて銅が析出します。
$$\text{Zn} + \text{Cu}^{2+} \to \text{Zn}^{2+} + \text{Cu}$$
逆に、銅板を硫酸亜鉛水溶液に浸しても、何も起こりません。
$$\text{Cu} + \text{Zn}^{2+} \to \text{Cu}^{2+} + \text{Zn} \quad (\text{自発的には進まない})$$
高校では、この方向の予測にイオン化傾向を使います。 イオン化傾向が大きい金属(Zn)ほど電子を放出しやすく、イオン化傾向が小さい金属のイオン($\text{Cu}^{2+}$)を還元します。 金属のイオン化傾向の順列(Li, K, Ca, Na, Mg, Al, Zn, Fe, Ni, Sn, Pb, $(\text{H}_2)$, Cu, Hg, Ag, Pt, Au)を暗記して使います。
この方法は金属の反応には有効ですが、次のような疑問が残ります。
大学化学では、各半反応の「電子を受け取りやすさ」を標準還元電位 $E^\circ$ という数値で表します。 これは、標準水素電極(SHE)を基準として実験で測定される電位差であり、値が大きいほど還元されやすい(電子を受け取りやすい)ことを意味します。
たとえば、以下のような値が知られています(いずれも実測値、SHE 基準)。
| 半反応式(還元方向) | $E^\circ$ / V |
|---|---|
| $\text{Zn}^{2+} + 2e^- \to \text{Zn}$ | $-0.76$ |
| $\text{Cu}^{2+} + 2e^- \to \text{Cu}$ | $+0.34$ |
| $\text{Ag}^+ + e^- \to \text{Ag}$ | $+0.80$ |
| $\text{MnO}_4^- + 8\text{H}^+ + 5e^- \to \text{Mn}^{2+} + 4\text{H}_2\text{O}$ | $+1.51$ |
$E^\circ$ が大きい半反応ほど、還元される(電子を受け取る)方向に進みやすいことを示しています。 $\text{Cu}^{2+}$($+0.34$ V)は $\text{Zn}^{2+}$($-0.76$ V)より $E^\circ$ が大きいので、$\text{Cu}^{2+}$ が電子を受け取り、$\text{Zn}$ が電子を放出する方向に反応が進みます。 これは、高校で学ぶイオン化傾向の順列(Zn > Cu)と一致します。
イオン化傾向は $E^\circ$ の小さい順に並べたものだと理解できます。 つまり、イオン化傾向は標準還元電位の定性的な表現であり、$E^\circ$ はその定量版です。
2つの半反応を組み合わせたとき、全反応の起電力(電位差)は $E^\circ_{\text{cell}} = E^\circ(\text{cathode}) - E^\circ(\text{anode})$ で計算されます。 $E^\circ_{\text{cell}} > 0$ のとき、反応は自発的に進みます。
Zn-Cu の反応では、$E^\circ_{\text{cell}} = (+0.34) - (-0.76) = +1.10$ V > 0 なので自発的に進みます。 逆方向の Cu-Zn の反応では $E^\circ_{\text{cell}} = (-0.76) - (+0.34) = -1.10$ V < 0 となり、自発的には進みません。
この起電力とギブズエネルギーの関係($\Delta G^\circ = -nFE^\circ_{\text{cell}}$)については、 📖 C-5-2 および 📖 C-8-2 で詳しく扱います。
高校で学ぶダニエル電池は、上で議論した Zn-Cu の反応を利用した装置です。 亜鉛が電子を放出し(負極)、銅(II)イオンが電子を受け取ります(正極)。 2つの半反応を物理的に分離し、電子を外部回路を通して移動させることで、電気エネルギーを取り出します。
この電池の起電力は、先ほど計算した $E^\circ_{\text{cell}} = +1.10$ V に対応します。 標準還元電位を使えば、任意の半反応の組み合わせについて「電池にしたときの起電力」を予測できるのです。
標準還元電位 $E^\circ$ の体系的な使い方 ── 反応の方向予測、起電力の計算、ギブズエネルギーとの関係 ── については、 📖 C-5-2 標準電極電位で詳しく扱います。
酸性水溶液中で二クロム酸イオン $\text{Cr}_2\text{O}_7^{2-}$ が還元されて $\text{Cr}^{3+}$ になる半反応式を、セクション4の手順で組み立てます。
Step 1. $\text{Cr}_2\text{O}_7^{2-}$ 中の Cr の酸化数を求めます。 酸化数の合計が $-2$ なので、$2x + 7 \times (-2) = -2$ より $x = +6$ です。 還元後は $\text{Cr}^{3+}$(酸化数 $+3$)です。
$$\text{Cr}_2\text{O}_7^{2-} \to 2\text{Cr}^{3+}$$
Step 2. Cr 1 個あたり $+6 \to +3$ で 3 減少、2 個で計 6 個の電子を受け取ります。
$$\text{Cr}_2\text{O}_7^{2-} + 6e^- \to 2\text{Cr}^{3+}$$
Step 3. 左辺に酸素が 7 個あるので、右辺に $7\text{H}_2\text{O}$ を加えます。
$$\text{Cr}_2\text{O}_7^{2-} + 6e^- \to 2\text{Cr}^{3+} + 7\text{H}_2\text{O}$$
Step 4. 右辺に水素が 14 個あるので、左辺に $14\text{H}^+$ を加えます。
$$\text{Cr}_2\text{O}_7^{2-} + 14\text{H}^+ + 6e^- \to 2\text{Cr}^{3+} + 7\text{H}_2\text{O}$$
Step 5. 電荷を確認します。左辺は $(-2) + (+14) + (-6) = +6$、右辺は $2 \times (+3) = +6$ で一致します。
$\text{S}_2\text{O}_3^{2-}$ 中の S の酸化数を求めます。 酸化数の合計が $-2$ なので、$2x + 3 \times (-2) = -2$ より $x = +2$ です。
セクション3で学んだ電気陰性度の観点から確認します。 $\text{S}_2\text{O}_3^{2-}$ は、中心の S に 3 つの O と 1 つの S が結合した構造を持ちます。 O(3.44)> S(2.58)なので、S-O 結合の電子対は O に帰属され、S-S 結合の電子対は等分されます。 ただし、この構造では 2 つの S 原子は等価ではないため、平均酸化数として $+2$ が得られますが、 各 S 原子の形式的な酸化数は異なる可能性があります(中心 S は $+5$、外側 S は $-1$ とする考え方もあります)。
このように、酸化数は構造に依存して一意に決まらない場合もあります。 重要なのは、反応全体で電子の総数が保存されるという原理であり、個々の原子の酸化数は追跡のための道具にすぎないという点です。
実際の応用として、過マンガン酸カリウムによるシュウ酸の酸化還元滴定を考えます。 セクション4で得た全反応式を使います。
$$2\text{MnO}_4^- + 6\text{H}^+ + 5\text{H}_2\text{C}_2\text{O}_4 \to 2\text{Mn}^{2+} + 8\text{H}_2\text{O} + 10\text{CO}_2$$
この反応式から、$\text{MnO}_4^-$ と $\text{H}_2\text{C}_2\text{O}_4$ のモル比は $2 : 5$ であることがわかります。
$0.0200 \; \text{mol/L}$ の過マンガン酸カリウム水溶液 $20.0 \; \text{mL}$ で、 濃度未知のシュウ酸水溶液 $10.0 \; \text{mL}$ をちょうど酸化できたとします。 シュウ酸の濃度を求めます。
$\text{MnO}_4^-$ の物質量は $0.0200 \times 20.0 / 1000 = 4.00 \times 10^{-4} \; \text{mol}$ です。 モル比 $2 : 5$ から、$\text{H}_2\text{C}_2\text{O}_4$ の物質量は $4.00 \times 10^{-4} \times 5/2 = 1.00 \times 10^{-3} \; \text{mol}$ です。 シュウ酸の濃度は $1.00 \times 10^{-3} / (10.0 / 1000) = 0.100 \; \text{mol/L}$ です。
半反応式から全反応式を組み立て、モル比を読み取り、滴定の計算に使う ── この一連の手順が、電子移動の観点から体系的に理解できます。 ここで使ったモル比 $2 : 5$ は、「$\text{MnO}_4^-$ 1 個が $5e^-$ を受け取り、$\text{H}_2\text{C}_2\text{O}_4$ 1 分子が $2e^-$ を放出する」という電子の収支から直接導かれたものです。
Q1. 酸化数のルールにおいて「化合物中の O の酸化数は $-2$」とされますが、$\text{OF}_2$ では $+2$ になります。これを電気陰性度の観点から説明してください。
Q2. 半反応式 $\text{MnO}_4^- + 8\text{H}^+ + 5e^- \to \text{Mn}^{2+} + 4\text{H}_2\text{O}$ において、$\text{MnO}_4^-$ は酸化剤・還元剤のどちらですか。理由とともに答えてください。
Q3. $\text{Zn}^{2+}/\text{Zn}$ の標準還元電位が $-0.76$ V、$\text{Cu}^{2+}/\text{Cu}$ の標準還元電位が $+0.34$ V のとき、どちらの金属がイオン化しやすいですか。理由を述べてください。
Q4. 酸化数は「実測値」「定義・規約」「導出値」「理論的原理」のどれに分類されますか。
次の各化合物・イオンについて、下線を引いた原子の酸化数を求めてください。 また、そのうち 1 つを選び、電気陰性度の観点から酸化数がその値になる理由を説明してください。
(a) $\underline{\text{N}}\text{H}_3$ (b) $\underline{\text{S}}\text{O}_4^{2-}$ (c) $\text{H}_2\underline{\text{O}}_2$ (d) $\underline{\text{Cr}}_2\text{O}_7^{2-}$
(a) $x + 3 \times (+1) = 0$ より $x = -3$
(b) $x + 4 \times (-2) = -2$ より $x = +6$
(c) $2 \times (+1) + 2x = 0$ より $x = -1$
(d) $2x + 7 \times (-2) = -2$ より $x = +6$
(c) の電気陰性度による説明:$\text{H}_2\text{O}_2$ において、O-O 結合では同じ元素どうしなので電子対を等分します。O-H 結合では O(3.44)> H(2.20)なので電子対は O に帰属されます。各 O 原子は孤立電子対 2 組(4 個)+ O-O 結合の電子 1 個 + O-H 結合の電子 2 個 = 7 個の電子を持ちます。中性の O の価電子は 6 個なので、$6 - 7 = -1$ です。
酸性水溶液中で、硝酸イオン $\text{NO}_3^-$ が還元されて一酸化窒素 $\text{NO}$ になる半反応式を、 セクション4の手順に従って組み立ててください。各ステップを明記すること。
Step 1. $\text{NO}_3^-$ 中の N の酸化数は $+5$、$\text{NO}$ 中では $+2$ です。
$\text{NO}_3^- \to \text{NO}$
Step 2. 酸化数が $+5 \to +2$ で 3 減少なので、$3e^-$ を加えます。
$\text{NO}_3^- + 3e^- \to \text{NO}$
Step 3. 左辺に O が 3 個、右辺に 1 個。差の 2 個分、右辺に $2\text{H}_2\text{O}$ を加えます。
$\text{NO}_3^- + 3e^- \to \text{NO} + 2\text{H}_2\text{O}$
Step 4. 右辺に H が 4 個あるので、左辺に $4\text{H}^+$ を加えます。
$\text{NO}_3^- + 4\text{H}^+ + 3e^- \to \text{NO} + 2\text{H}_2\text{O}$
Step 5. 電荷確認:左辺 $(-1) + (+4) + (-3) = 0$、右辺 $0$。一致します。
$0.0100 \; \text{mol/L}$ の二クロム酸カリウム $\text{K}_2\text{Cr}_2\text{O}_7$ 水溶液 $25.0 \; \text{mL}$ で、 鉄(II)イオン $\text{Fe}^{2+}$ を含む水溶液 $50.0 \; \text{mL}$ をちょうど酸化できました。 $\text{Fe}^{2+}$ の濃度を求めてください。
ヒント:$\text{Cr}_2\text{O}_7^{2-}$ は $6e^-$ を受け取り(セクション6の例題1)、$\text{Fe}^{2+} \to \text{Fe}^{3+} + e^-$ です。
$\text{Cr}_2\text{O}_7^{2-}$ の物質量:$0.0100 \times 25.0/1000 = 2.50 \times 10^{-4} \; \text{mol}$
$\text{Cr}_2\text{O}_7^{2-}$ が受け取る電子は 1 mol あたり $6 \; \text{mol}$ なので、
電子の総量:$2.50 \times 10^{-4} \times 6 = 1.50 \times 10^{-3} \; \text{mol}$
$\text{Fe}^{2+}$ は 1 mol あたり $1 \; \text{mol}$ の電子を放出するので、
$\text{Fe}^{2+}$ の物質量:$1.50 \times 10^{-3} \; \text{mol}$
$$[\text{Fe}^{2+}] = \frac{1.50 \times 10^{-3}}{50.0/1000} = 0.0300 \; \text{mol/L}$$
酸化還元滴定では、「酸化剤が受け取る電子の総 mol = 還元剤が放出する電子の総 mol」が成り立ちます。全反応式のモル比を使う方法と、電子の mol 数で直接合わせる方法は同じ結果になりますが、電子の mol 数で考える方が見通しがよいことが多いです。
次の表に示す標準還元電位をもとに、以下の問いに答えてください。
| 半反応式 | $E^\circ$ / V |
|---|---|
| $\text{Fe}^{3+} + e^- \to \text{Fe}^{2+}$ | $+0.77$ |
| $\text{I}_2 + 2e^- \to 2\text{I}^-$ | $+0.54$ |
| $\text{Sn}^{4+} + 2e^- \to \text{Sn}^{2+}$ | $+0.15$ |
(a) $\text{Fe}^{3+}$ は $\text{I}^-$ を酸化できますか。$E^\circ$ の大小関係から判断し、その反応式を書いてください。
(b) $\text{I}_2$ は $\text{Sn}^{2+}$ を酸化できますか。同様に判断してください。
(c) 上の結果から、$\text{Fe}^{3+}$、$\text{I}_2$、$\text{Sn}^{4+}$ を酸化力の強い順に並べてください。標準還元電位との関係を述べてください。
(a) $\text{Fe}^{3+}/\text{Fe}^{2+}$ の $E^\circ$($+0.77$ V)は $\text{I}_2/\text{I}^-$ の $E^\circ$($+0.54$ V)より大きいため、$\text{Fe}^{3+}$ は $\text{I}^-$ を酸化できます。
$2\text{Fe}^{3+} + 2\text{I}^- \to 2\text{Fe}^{2+} + \text{I}_2$
$E^\circ_{\text{cell}} = 0.77 - 0.54 = +0.23$ V > 0
(b) $\text{I}_2/\text{I}^-$ の $E^\circ$($+0.54$ V)は $\text{Sn}^{4+}/\text{Sn}^{2+}$ の $E^\circ$($+0.15$ V)より大きいため、$\text{I}_2$ は $\text{Sn}^{2+}$ を酸化できます。
$\text{I}_2 + \text{Sn}^{2+} \to 2\text{I}^- + \text{Sn}^{4+}$
$E^\circ_{\text{cell}} = 0.54 - 0.15 = +0.39$ V > 0
(c) 酸化力の強い順:$\text{Fe}^{3+}$ > $\text{I}_2$ > $\text{Sn}^{4+}$
標準還元電位 $E^\circ$ が大きいほど、その化学種は電子を受け取りやすく(還元されやすく)、相手を酸化する力が強いです。つまり、酸化力の強さは標準還元電位の大きさに対応しています。