高校化学では、金属のイオン化傾向を「Li > K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > (H) > Cu > Hg > Ag > Pt > Au」と覚え、この順序を使って「亜鉛は銅イオンを還元できる」「銅は銀イオンを還元できる」といった反応の方向を判定します。
しかし、この並びは暗記するものであり、「なぜこの順序になるのか」「どのくらいの強さの差があるのか」は問いません。
大学化学では、各半反応に標準還元電位 $E^\circ$ という数値を割り当てます。
$E^\circ$ の大きい半反応が還元側に回り、小さい半反応が酸化側に回る ── この単純な規則により、イオン化傾向の暗記は不要になり、反応が進む方向と電池の起電力を定量的に予測できるようになります。
高校化学では、金属の反応性をイオン化傾向の順序で整理します。 イオン化傾向が大きい金属ほど陽イオンになりやすく(酸化されやすく)、小さい金属ほど陽イオンになりにくい(還元されやすい)と学びます。
この順序を使うと、次のような判定ができます。
また、電池の単元では、ダニエル電池や鉛蓄電池の構造と反応を学び、電気分解ではファラデーの法則を使って計算します。 これらはすべて「どの金属がどちらのイオンを還元するか」をイオン化傾向の順序から判定することに基づいています。
しかし、イオン化傾向には二つの限界があります。 第一に、この順序は「暗記するもの」であり、定量的な差がわかりません。 Zn と Fe のイオン化傾向の差と、Fe と Cu の差は同じなのか、それとも大きく違うのか ── 高校の範囲では答えられません。 第二に、金属以外の酸化還元反応(たとえば $\text{MnO}_4^-$ と $\text{Fe}^{2+}$ の反応)にはイオン化傾向は使えません。
次のセクションでは、これらの限界を解消する大学の道具を導入します。
大学化学では、あらゆる半反応(還元反応の形で書いたもの)に標準還元電位 $E^\circ$ という数値(単位:V)を割り当てます。 イオン化傾向の「順序」が $E^\circ$ の「数値」に置き換わることで、反応の方向だけでなく、起電力やエネルギー変化まで計算できるようになります。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. 標準水素電極(SHE)が $E^\circ$ の基準($0 \; \text{V}$)であることを説明でき、これが「定義・規約」であることを理解している
2. $E^\circ$ の表を使って、任意の酸化還元反応が自発的に進む方向を判定できる
3. 電池の起電力を $E^\circ_{\text{cell}} = E^\circ(\text{cathode}) - E^\circ(\text{anode})$ で計算できる
4. $\Delta G^\circ = -nFE^\circ_{\text{cell}}$ を使って、起電力とエネルギー変化を結びつけることができる
5. ダニエル電池・鉛蓄電池の起電力を実際に計算できる
$E^\circ$ を定義するには、まず「基準となる電極」を決める必要があります。 次のセクションで、その基準 ── 標準水素電極 ── を導入します。
電位(電圧)は、2点間の電位差として測定される量です。 温度や圧力と違い、電位には「絶対的なゼロ点」がありません。 標高を測るのに海面を基準にするように、電極電位を定義するにも「この電極を $0 \; \text{V}$ とする」という基準が必要です。
国際的な規約として、次の条件をすべて満たす電極を標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode, SHE)と定め、その電位を $0 \; \text{V}$ と定義します。
このとき、SHE 上で起こる半反応は次の通りです。
$$2\text{H}^+(aq) + 2e^- \rightleftharpoons \text{H}_2(g)$$
$$E^\circ(\text{H}^+/\text{H}_2) = 0 \; \text{V} \quad \text{(exactly)}$$
この値は実験で測定された結果ではなく、国際的な規約(約束)として定められたものです。 すべての標準還元電位は、この SHE を基準にした相対値として測定されます。 標高における「海面 = 0 m」と同じ役割を果たしています。
ある半反応の $E^\circ$ を測定するには、その半反応の電極と SHE を組み合わせた電池(半電池)をつくり、両者の電位差を電圧計で読み取ります。
たとえば、$\text{Cu}^{2+}/\text{Cu}$ 電極($\text{Cu}^{2+}$ 濃度 $1 \; \text{mol/L}$)と SHE を組み合わせると、電圧計は $+0.34 \; \text{V}$ を示します。 このとき、銅電極が正極(電位が高い側)になっているので、$E^\circ(\text{Cu}^{2+}/\text{Cu}) = +0.34 \; \text{V}$ と報告します。
同様に、$\text{Zn}^{2+}/\text{Zn}$ 電極と SHE を組み合わせると、亜鉛電極が負極(電位が低い側)になり、電圧計は $0.76 \; \text{V}$ を示します。 亜鉛側は SHE より電位が低いので、$E^\circ(\text{Zn}^{2+}/\text{Zn}) = -0.76 \; \text{V}$ と報告します。
このように、$E^\circ$ の符号は SHE に対して電位が高いか低いかを表しています。 $E^\circ$ が正の半反応は SHE よりも還元されやすく、負の半反応は SHE よりも酸化されやすいことを意味します。
ここまでで、SHE という基準の設定と、$E^\circ$ の測定方法がわかりました。 次のセクションでは、$E^\circ$ の値を使って反応の方向を判定する方法を確立します。
以下は、代表的な半反応の標準還元電位 $E^\circ$ です。 すべて還元反応の向き(電子を受け取る向き)で書かれており、$E^\circ$ の値が大きいほど還元されやすいことを意味します。 これらの値は SHE を基準にした実測値です。
| 半反応(還元の向き) | $E^\circ$ / V |
|---|---|
| $\text{F}_2 + 2e^- \to 2\text{F}^-$ | $+2.87$ |
| $\text{MnO}_4^- + 8\text{H}^+ + 5e^- \to \text{Mn}^{2+} + 4\text{H}_2\text{O}$ | $+1.51$ |
| $\text{Cl}_2 + 2e^- \to 2\text{Cl}^-$ | $+1.36$ |
| $\text{Ag}^+ + e^- \to \text{Ag}$ | $+0.80$ |
| $\text{Cu}^{2+} + 2e^- \to \text{Cu}$ | $+0.34$ |
| $2\text{H}^+ + 2e^- \to \text{H}_2$ | $0$ (SHE, 定義) |
| $\text{Pb}^{2+} + 2e^- \to \text{Pb}$ | $-0.13$ |
| $\text{Ni}^{2+} + 2e^- \to \text{Ni}$ | $-0.26$ |
| $\text{Fe}^{2+} + 2e^- \to \text{Fe}$ | $-0.44$ |
| $\text{Zn}^{2+} + 2e^- \to \text{Zn}$ | $-0.76$ |
| $\text{Al}^{3+} + 3e^- \to \text{Al}$ | $-1.66$ |
| $\text{Na}^+ + e^- \to \text{Na}$ | $-2.71$ |
| $\text{Li}^+ + e^- \to \text{Li}$ | $-3.04$ |
この表を見ると、上に行くほど $E^\circ$ が大きく(還元されやすく)、下に行くほど $E^\circ$ が小さい(酸化されやすい)ことがわかります。 高校で暗記したイオン化傾向の順序は、実は $E^\circ$ の小さい順に並べたものにほかなりません。
二つの半反応を組み合わせたとき、$E^\circ$ の大きい半反応が還元側(電子を受け取る側)に回り、$E^\circ$ の小さい半反応が酸化側(電子を放出する側)に回ります。
これは「電子は電位の低い側から高い側へ流れる」と言い換えることもできます。$E^\circ$ が低い金属が電子を放出し(酸化され)、その電子は $E^\circ$ が高い金属イオンに受け取られます(還元されます)。
$E^\circ$ の表を使って、亜鉛板を硫酸銅(II)水溶液に浸けたときに起こる反応を予測してみます。
関係する二つの半反応は次の通りです。
$E^\circ$ は $\text{Cu}^{2+}/\text{Cu}$ の方が大きいので、この半反応が還元側に回ります。 一方、$\text{Zn}^{2+}/\text{Zn}$ は $E^\circ$ が小さいので酸化側に回り、半反応を逆向きにします。
両者を足し合わせると、全反応が得られます。
$$\text{Zn} + \text{Cu}^{2+} \to \text{Zn}^{2+} + \text{Cu}$$
これは高校で学んだ通りの結果です。 $E^\circ$ を使うと、イオン化傾向を暗記していなくても、表の数値を見るだけで反応の方向を判定できます。
誤解:$E^\circ(\text{Zn}^{2+}/\text{Zn}) = -0.76 \; \text{V}$ だから、亜鉛の半反応は起こらない。
正しい理解:$E^\circ$ の符号は SHE を基準にした「相対的な位置」を示しているだけです。 $E^\circ$ が負であっても、相手の半反応の $E^\circ$ がさらに負であれば、亜鉛側が還元に回ることもあります。 反応の方向は、2つの半反応の $E^\circ$ の大小関係で決まるのであって、個々の $E^\circ$ の符号だけでは決まりません。
ここまでで、$E^\circ$ の値から反応の方向を判定する方法がわかりました。 次のセクションでは、2つの $E^\circ$ の差から電池の起電力を計算し、さらにギブズエネルギー $\Delta G^\circ$ との関係を導入します。
セクション4で、$E^\circ$ の大きい半反応が正極(カソード、還元側)、小さい半反応が負極(アノード、酸化側)になることを学びました。 電池の起電力 $E^\circ_{\text{cell}}$ は、正極と負極の $E^\circ$ の差として計算されます。
$$E^\circ_{\text{cell}} = E^\circ(\text{cathode}) - E^\circ(\text{anode})$$
$E^\circ(\text{cathode})$:正極(還元が起こる電極)の標準還元電位
$E^\circ(\text{anode})$:負極(酸化が起こる電極)の標準還元電位
正極は $E^\circ$ が大きい方、負極は $E^\circ$ が小さい方です。 したがって $E^\circ_{\text{cell}}$ は常に正の値になります。 $E^\circ_{\text{cell}} > 0$ であることが、その反応が自発的に進む(電池として機能する)条件に対応しています。
この式は、右辺の2つの $E^\circ$ がどちらも「還元電位」(還元の向きで書いた半反応の電位)であることに注意してください。 負極の半反応は実際には酸化の向きに進みますが、$E^\circ$ の表の値をそのまま使い、引き算で起電力を求めます。 半反応を逆向きに書いて符号を反転させるといった操作は不要です。
電池の起電力は、化学反応が「電気的な仕事をする能力」を表しています。 この能力をエネルギーの言葉で表現するのが、ギブズエネルギー変化 $\Delta G^\circ$ です。
電池が電荷を移動させるとき、移動する電荷量 $q$ と電位差(起電力)$E^\circ_{\text{cell}}$ の積が、系が外部に行う最大仕事 $w_{\text{max}}$ です。 反応で $n \; \text{mol}$ の電子が移動するとき、移動する電荷の総量は $q = nF$ です($F$ はファラデー定数、$96485 \; \text{C/mol}$)。
外部への最大仕事は $w_{\text{max}} = nFE^\circ_{\text{cell}}$ であり、熱力学では系が仕事をすると $\Delta G$ が減少するので、次の関係が得られます。
$$\Delta G^\circ = -nFE^\circ_{\text{cell}}$$
$\Delta G^\circ$:標準ギブズエネルギー変化(J/mol)
$n$:反応で移動する電子の物質量(mol)
$F = 96485 \; \text{C/mol}$:ファラデー定数(定義値)
$E^\circ_{\text{cell}}$:標準起電力(V)
この式は、電気的な仕事とギブズエネルギーの定義から導かれます。 $E^\circ_{\text{cell}} > 0$ のとき $\Delta G^\circ < 0$ となり、反応は自発的に進みます。 ギブズエネルギーについては 📖 C-8-2 ギブズエネルギー で詳しく扱いますが、ここでは「$\Delta G^\circ < 0$ なら自発的」ということを認めて先に進みます。
ステップ1:電池が外部に行う最大仕事は $w_{\text{max}} = nFE^\circ_{\text{cell}}$ です。$n$ は移動する電子の mol 数、$F$ は電子 $1 \; \text{mol}$ あたりの電荷です。
ステップ2:熱力学の一般論から、一定温度・一定圧力で系が外部に行う最大仕事は $-\Delta G$ に等しくなります。つまり $w_{\text{max}} = -\Delta G^\circ$ です。
ステップ3:ステップ1と2を等しいとおくと、$-\Delta G^\circ = nFE^\circ_{\text{cell}}$ となり、$\Delta G^\circ = -nFE^\circ_{\text{cell}}$ が得られます。
この式の物理的な意味は明快です。$E^\circ_{\text{cell}}$ が大きいほど(起電力が大きいほど)、$\Delta G^\circ$ は大きな負の値をとり、反応がより強く自発的に進みます。
$\Delta G^\circ = -nFE^\circ_{\text{cell}}$ において $n$ と $F$ は常に正の値なので、$E^\circ_{\text{cell}}$ と $\Delta G^\circ$ の符号は常に反対になります。
$E^\circ_{\text{cell}} > 0$ ならば $\Delta G^\circ < 0$:反応は自発的に進む(電池として機能する)。
$E^\circ_{\text{cell}} < 0$ ならば $\Delta G^\circ > 0$:反応は自発的には進まない(電気分解に相当する)。
$E^\circ_{\text{cell}} = 0$ ならば $\Delta G^\circ = 0$:反応は平衡状態にある。
ここまでで、$E^\circ$ から反応の方向を判定し、起電力を計算し、さらにエネルギー変化まで求められるようになりました。 次のセクションでは、これらの道具を使って、高校で学んだダニエル電池と鉛蓄電池の起電力を実際に計算します。
ダニエル電池は、高校化学でも詳しく学ぶ代表的な電池です。 亜鉛 Zn を負極、銅 Cu を正極とし、素焼き板で二つの溶液を仕切った構造をしています。 $E^\circ$ を使って起電力を計算してみます。
セクション4の表から、関係する半反応の $E^\circ$ は次の通りです。
起電力を計算します。
$$E^\circ_{\text{cell}} = E^\circ(\text{cathode}) - E^\circ(\text{anode}) = (+0.34) - (-0.76) = +1.10 \; \text{V}$$
この値は、ダニエル電池の実測値(約 $1.1 \; \text{V}$)と一致します。 高校では「ダニエル電池の起電力は約 1.1 V」と習いますが、$E^\circ$ を使えばその値を計算で導くことができます。
さらに、$\Delta G^\circ$ も計算できます。この反応では $n = 2$(電子 $2 \; \text{mol}$ が移動)なので、
$$\Delta G^\circ = -nFE^\circ_{\text{cell}} = -2 \times 96485 \times 1.10 = -2.12 \times 10^5 \; \text{J/mol} = -212 \; \text{kJ/mol}$$
$\Delta G^\circ < 0$ なので、この反応は自発的に進みます。$212 \; \text{kJ/mol}$ という値は、この反応が外部に取り出せる最大仕事の大きさです。
鉛蓄電池は、自動車のバッテリーとして広く使われている二次電池(充電可能な電池)です。 高校では、放電時の反応を次のように学びます。
これらの半反応の $E^\circ$ は次の通りです。
起電力を計算します。
$$E^\circ_{\text{cell}} = E^\circ(\text{cathode}) - E^\circ(\text{anode}) = (+1.69) - (-0.36) = +2.05 \; \text{V}$$
鉛蓄電池のセル1つあたりの起電力は約 $2 \; \text{V}$ です。 自動車用バッテリーは6つのセルを直列に接続しているため、端子電圧は $2.05 \times 6 \approx 12 \; \text{V}$ となり、実際の仕様(12 V バッテリー)と一致します。
$\Delta G^\circ$ を計算すると、
$$\Delta G^\circ = -nFE^\circ_{\text{cell}} = -2 \times 96485 \times 2.05 = -3.96 \times 10^5 \; \text{J/mol} = -396 \; \text{kJ/mol}$$
ダニエル電池($-212 \; \text{kJ/mol}$)よりも大きな負の $\Delta G^\circ$ を持っており、鉛蓄電池の方がエネルギー的に「駆動力」が大きいことがわかります。
高校の酸化還元滴定で頻出の反応も、$E^\circ$ で定量的に扱えます。
$E^\circ$ は $\text{MnO}_4^-/\text{Mn}^{2+}$($+1.51 \; \text{V}$)の方が $\text{Fe}^{3+}/\text{Fe}^{2+}$($+0.77 \; \text{V}$)より大きいので、$\text{MnO}_4^-$ が還元側に回り、$\text{Fe}^{2+}$ が酸化側に回ります。 つまり、$\text{MnO}_4^-$ は $\text{Fe}^{2+}$ を $\text{Fe}^{3+}$ に酸化します。
$$E^\circ_{\text{cell}} = 1.51 - 0.77 = +0.74 \; \text{V}$$
$E^\circ_{\text{cell}} > 0$ なので、この反応は自発的に進みます。 高校で「過マンガン酸カリウムは強い酸化剤である」と習う根拠は、$E^\circ = +1.51 \; \text{V}$ という大きな値にあります。 $E^\circ$ が大きいということは、その半反応が強く還元を引き起こす(相手を酸化する)能力を持っているということです。
Q1. 標準水素電極(SHE)の電位が $0 \; \text{V}$ であるのは、「実験で測定した結果」と「国際的な規約」のどちらですか。その理由も説明してください。
Q2. $E^\circ(\text{Ag}^+/\text{Ag}) = +0.80 \; \text{V}$、$E^\circ(\text{Fe}^{2+}/\text{Fe}) = -0.44 \; \text{V}$ です。鉄板を硝酸銀水溶液に浸けると何が起こりますか。全反応式も示してください。
Q3. $E^\circ_{\text{cell}} = +0.46 \; \text{V}$、$n = 2$ の電池反応における $\Delta G^\circ$ を計算してください。$F = 96485 \; \text{C/mol}$ とします。
Q4. 高校で学ぶイオン化傾向の列と、標準還元電位 $E^\circ$ の表はどのような関係にありますか。
次の半反応のうち、最も強い酸化剤として働く物質を含む半反応はどれですか。また、最も強い還元剤として働く物質を含む半反応はどれですか。理由とともに答えてください。
(a) $\text{Ag}^+ + e^- \to \text{Ag}$ $E^\circ = +0.80 \; \text{V}$
(b) $\text{Zn}^{2+} + 2e^- \to \text{Zn}$ $E^\circ = -0.76 \; \text{V}$
(c) $\text{Cl}_2 + 2e^- \to 2\text{Cl}^-$ $E^\circ = +1.36 \; \text{V}$
(d) $\text{Fe}^{2+} + 2e^- \to \text{Fe}$ $E^\circ = -0.44 \; \text{V}$
最も強い酸化剤:(c) の $\text{Cl}_2$。$E^\circ$ が最も大きい($+1.36 \; \text{V}$)半反応の左辺の物質が、最も強く電子を受け取ろうとする(最も還元されやすい)ので、最も強い酸化剤です。
最も強い還元剤:(b) の $\text{Zn}$。$E^\circ$ が最も小さい($-0.76 \; \text{V}$)半反応の右辺の物質が、最も電子を放出しやすい(最も酸化されやすい)ので、最も強い還元剤です。
次のデータを使って、銀 Ag とニッケル Ni を電極に用いた電池について答えてください。
$E^\circ(\text{Ag}^+/\text{Ag}) = +0.80 \; \text{V}$、$E^\circ(\text{Ni}^{2+}/\text{Ni}) = -0.26 \; \text{V}$、$F = 96485 \; \text{C/mol}$
(a) どちらの金属が正極、どちらが負極になりますか。
(b) 全反応式を書いてください。
(c) 起電力 $E^\circ_{\text{cell}}$ を計算してください。
(d) $\Delta G^\circ$ を計算してください。
(a) $E^\circ(\text{Ag}^+/\text{Ag}) = +0.80 \; \text{V}$ の方が大きいので、Ag が正極、Ni が負極です。
(b) 正極(還元):$2\text{Ag}^+ + 2e^- \to 2\text{Ag}$(係数を2倍)、負極(酸化):$\text{Ni} \to \text{Ni}^{2+} + 2e^-$。足し合わせると、
$$\text{Ni} + 2\text{Ag}^+ \to \text{Ni}^{2+} + 2\text{Ag}$$
(c) $E^\circ_{\text{cell}} = E^\circ(\text{cathode}) - E^\circ(\text{anode}) = (+0.80) - (-0.26) = +1.06 \; \text{V}$
(d) $n = 2$(電子 2 mol が移動)なので、
$$\Delta G^\circ = -nFE^\circ_{\text{cell}} = -2 \times 96485 \times 1.06 = -2.05 \times 10^5 \; \text{J/mol} = -205 \; \text{kJ/mol}$$
半反応の係数を2倍にしても $E^\circ$ の値は変わりません。$E^\circ$ は示量性ではなく示強性の量(物質量に依存しない)であるため、半反応の係数によらず一定です。一方、$\Delta G^\circ$ は移動する電子の mol 数 $n$ に比例して変化する示量性の量です。
過マンガン酸カリウム $\text{KMnO}_4$ の酸性水溶液による $\text{Fe}^{2+}$ の滴定反応について、次の問いに答えてください。
$E^\circ(\text{MnO}_4^-/\text{Mn}^{2+}) = +1.51 \; \text{V}$、$E^\circ(\text{Fe}^{3+}/\text{Fe}^{2+}) = +0.77 \; \text{V}$、$F = 96485 \; \text{C/mol}$
(a) 全反応式を書いてください(電子の数を合わせること)。
(b) 起電力 $E^\circ_{\text{cell}}$ を求めてください。
(c) $\Delta G^\circ$ を求めてください。$n$ の値に注意すること。
(a) $\text{MnO}_4^-$ は 5 電子を受け取り、$\text{Fe}^{2+}$ は 1 電子を放出します。電子の数を合わせると、$\text{Fe}^{2+}$ の半反応を5倍する必要があります。
$$\text{MnO}_4^- + 8\text{H}^+ + 5\text{Fe}^{2+} \to \text{Mn}^{2+} + 4\text{H}_2\text{O} + 5\text{Fe}^{3+}$$
(b) $E^\circ_{\text{cell}} = 1.51 - 0.77 = +0.74 \; \text{V}$
(c) 全反応で移動する電子は $n = 5 \; \text{mol}$ です。
$$\Delta G^\circ = -nFE^\circ_{\text{cell}} = -5 \times 96485 \times 0.74 = -3.57 \times 10^5 \; \text{J/mol} = -357 \; \text{kJ/mol}$$
$\text{Fe}^{2+}$ の半反応を5倍しても $E^\circ(\text{Fe}^{3+}/\text{Fe}^{2+}) = +0.77 \; \text{V}$ は変わりません($E^\circ$ は示強性の量)。しかし、$\Delta G^\circ$ の計算では $n = 5$ を使います。これは、全反応で実際に移動する電子の総数が 5 mol だからです。
以下の3つの半反応の $E^\circ$ を用いて、問いに答えてください。
(i) $\text{Cu}^{2+} + 2e^- \to \text{Cu}$ $E^\circ = +0.34 \; \text{V}$
(ii) $\text{Fe}^{2+} + 2e^- \to \text{Fe}$ $E^\circ = -0.44 \; \text{V}$
(iii) $\text{Al}^{3+} + 3e^- \to \text{Al}$ $E^\circ = -1.66 \; \text{V}$
(a) Cu, Fe, Al の3種類の金属を $E^\circ$ の値に基づいてイオン化傾向の大きい順に並べ、その根拠を述べてください。
(b) Al と $\text{Cu}^{2+}$ を組み合わせた電池の起電力 $E^\circ_{\text{cell}}$ を計算してください。
(c) (b) の電池反応における $\Delta G^\circ$ を計算してください。全反応式を示し、$n$ の値を明記すること。
(d) (b) の電池と、Fe と $\text{Cu}^{2+}$ を組み合わせた電池を比較したとき、どちらの起電力が大きいですか。その理由を $E^\circ$ の差として説明してください。
(a) イオン化傾向は $E^\circ$ が小さい順なので、Al($-1.66$) > Fe($-0.44$) > Cu($+0.34$) です。$E^\circ$ が小さい金属ほど酸化されやすい(陽イオンになりやすい)からです。
(b) 正極は $E^\circ$ が大きい Cu($+0.34 \; \text{V}$)、負極は Al($-1.66 \; \text{V}$)です。
$$E^\circ_{\text{cell}} = (+0.34) - (-1.66) = +2.00 \; \text{V}$$
(c) 電子の数を合わせるために、Cu の半反応を3倍、Al の半反応を2倍(逆向き)にします。
還元:$3\text{Cu}^{2+} + 6e^- \to 3\text{Cu}$
酸化:$2\text{Al} \to 2\text{Al}^{3+} + 6e^-$
全反応:$2\text{Al} + 3\text{Cu}^{2+} \to 2\text{Al}^{3+} + 3\text{Cu}$
$n = 6$ なので、
$$\Delta G^\circ = -6 \times 96485 \times 2.00 = -1.16 \times 10^6 \; \text{J/mol} = -1160 \; \text{kJ/mol}$$
(d) Al-Cu 電池の起電力は $+2.00 \; \text{V}$、Fe-Cu 電池の起電力は $(+0.34) - (-0.44) = +0.78 \; \text{V}$ です。Al-Cu 電池の方が大きいです。これは Al の $E^\circ$($-1.66 \; \text{V}$)が Fe の $E^\circ$($-0.44 \; \text{V}$)より小さく、Cu との $E^\circ$ の差がより大きいからです。