高校化学では、「アルカンは置換反応をする」「アルケンは付加反応をする」と学びます。
これは事実として正しく、入試でも頻出の知識です。
しかし、なぜアルカンは置換反応なのか、なぜアルケンは付加反応なのか ── その理由は高校では説明されません。
大学化学では、結合の種類($\sigma$ 結合と $\pi$ 結合)に着目することで、
「電子の偏りがあるところに反応が起こる」という一つの原理から、
炭化水素の反応をすべて統一的に理解できるようになります。
高校化学の知識を出発点に、結合の区別を導入し、
反応機構とマルコフニコフ則まで段階的に見ていきましょう。
高校化学では、炭化水素の反応について次のような知識を学びます。
これらは事実として正しく、入試でも十分に使える知識です。 しかし、高校化学ではここで止まります。 つまり、「アルカンは置換、アルケンは付加」という反応の種類を覚えることが目標です。
ここで、いくつかの疑問が残ります。
大学化学では、これらすべてに明確な答えを与えます。 その鍵となるのが、結合の種類を区別すること、そして電子の偏りに注目することです。
具体的な説明に入る前に、大学の視点を学ぶと何が変わるのかを先に示します。
電子の偏りがあるところに、反応が起こる。
アルカンは $\sigma$ 結合しかもたず、電子は結合軸上にしっかり収まっています。 外部の試薬が電子にアクセスしにくいため、通常の条件では反応が起こりません。 光や熱で強引にラジカル(不対電子をもつ活性種)を発生させて、初めて反応が進みます。
アルケンは $\pi$ 結合をもち、電子が分子の上下に露出しています。 この電子を求めて求電子剤(電子を欲しがる試薬)が近づき、付加反応が起こります。
つまり、「置換反応か付加反応か」を暗記するのではなく、 結合の種類 → 電子の偏りの有無 → 反応の種類 という論理の流れで理解できます。
この原理を使うためには、まず $\sigma$ 結合と $\pi$ 結合の違いを知る必要があります。 次のセクションで、高校化学では扱われないこれらの概念を導入します。
ここで用いる$\sigma$ 結合・$\pi$ 結合の概念は 📖 第2章 §2(共有結合・σ/π結合) で詳しく解説しています。また混成軌道については 📖 第2章 §3(混成軌道とVSEPR理論) で導入しています。以下では、この記事で必要な要点を確認します。
高校化学では、共有結合を「原子間で電子対を共有する結合」と学びます。 二重結合は「共有結合が2本」、三重結合は「3本」という説明です。 これは正しいのですが、実はその2本や3本の結合は、すべて同じ種類の結合ではありません。 この区別が、反応性を理解する上で決定的に重要になります。
「二重結合 = 同じ結合が2本」だと考えると、二重結合は単結合の2倍の強さになるはずです。 しかし実際には、二重結合は単結合より強いものの、2倍にはなりません。 しかも、二重結合のほうが単結合より反応しやすいという、一見矛盾した性質をもっています。
この矛盾を解くには、二重結合を構成する2本の結合が異なる種類の結合であることを知る必要があります。 1本目は強くて安定な結合($\sigma$ 結合)、2本目は弱くて反応しやすい結合($\pi$ 結合)です。
$\sigma$(シグマ)結合は、2つの原子核を結ぶ線(結合軸)の上に電子密度が集中する結合です。 電子が2つの原子核の間にしっかりと挟まれているため、結合が強く、安定しています。
高校化学で学ぶ単結合(C-C結合、C-H結合など)は、すべて $\sigma$ 結合です。 $\sigma$ 結合の重要な特徴は、電子が結合軸上に閉じ込められているため、 外部の試薬が電子にアクセスしにくいという点です。
$\pi$(パイ)結合は、結合軸の上下に電子密度が広がる結合です。 $\sigma$ 結合のように原子核の間に電子が閉じ込められるのではなく、 分子平面の上と下に電子雲がはみ出しています。
この「はみ出している」という点が極めて重要です。 電子が分子の外側に露出しているため、外部の試薬がアクセスしやすいのです。 このことが、$\pi$ 結合をもつアルケンが反応しやすい直接の原因になります。
| $\sigma$ 結合 | $\pi$ 結合 | |
|---|---|---|
| 電子の位置 | 結合軸上(原子核の間) | 結合軸の上下(分子平面の外) |
| 結合の強さ | 強い(C-C の実測値:約350 kJ/mol) | 弱い(C=C の $\pi$ 部分の実測値:約270 kJ/mol) |
| 反応性 | 反応しにくい(電子が閉じ込められている) | 反応しやすい(電子が露出している) |
| 回転 | 結合軸まわりの回転が可能 | 回転すると結合が切れる |
この区別を使うと、二重結合と三重結合の正体が見えてきます。
つまり、二重結合は「同じ結合が2本」ではなく、「強い $\sigma$ 結合 1本 + 弱い $\pi$ 結合 1本」という構成です。 付加反応では、弱い $\pi$ 結合だけが切れて、強い $\sigma$ 結合は残ります。 これが「付加反応では二重結合が単結合になる」ことの本質です。
$\sigma$ 結合と $\pi$ 結合の区別は、炭素原子の混成軌道という概念と密接に関わっています。 混成軌道の詳しい理論は 📖 第2章 §3(混成軌道とVSEPR理論) で詳しく解説しています。ここではこの記事に必要な要点のみ確認します。
炭素原子は、結合する相手の数に応じて、軌道の形を変えます。 これを混成といい、結合の仕方によって3つのタイプがあります。
| 混成 | 分子の形 | 結合角 | 例 | $\sigma$ / $\pi$ |
|---|---|---|---|---|
| $sp^3$ | 正四面体型 | 約109.5° | メタン、エタン | $\sigma$ 結合のみ |
| $sp^2$ | 平面三角形型 | 約120° | エチレン | $\sigma$ + $\pi$(二重結合) |
| $sp$ | 直線型 | 180° | アセチレン | $\sigma$ + $\pi$ 2本(三重結合) |
重要なのは、$sp^3$ 混成の炭素(アルカン)は $\sigma$ 結合しかもたないため反応しにくく、 $sp^2$ 混成の炭素(アルケン)は $\pi$ 結合をもつため反応しやすい、という対応関係です。 混成の種類が変われば分子の形が変わり、結合の種類が変わり、反応性が変わる ── すべてがつながっています。
ここでは「$sp^3$ は正四面体、$sp^2$ は平面三角形、$sp$ は直線」という結果だけを使いました。 「なぜ $s$ 軌道と $p$ 軌道を混ぜるのか」「混ぜるとなぜその形になるのか」については、 📖 第2章 §2(共有結合・σ/π結合) と 📖 第2章 §3(混成軌道とVSEPR理論) で詳しく解説しています。
ここまでで、$\sigma$ 結合と $\pi$ 結合の区別、そしてアルカンとアルケンの結合の違いが分かりました。 次に、この違いが反応性にどう影響するかを具体的に見ていきます。 まずは、$\sigma$ 結合しかもたないアルカンの反応からです。
セクション3で見たように、アルカンの炭素は $sp^3$ 混成であり、$\sigma$ 結合のみで構成されています。 電子は結合軸上に閉じ込められており、外部の試薬が電子にアクセスする手がかりがありません。 「電子の偏りがあるところに反応が起こる」という原理に照らすと、 電子の偏りがないアルカンは、通常の条件では反応しないことが理解できます。
実際、アルカンは酸や塩基、多くの試薬に対して安定です。 アルカンに反応させるには、光(紫外線)や高温という「強引な手段」で、 分子中にラジカル(不対電子をもつ、非常に反応性の高い化学種)を発生させる必要があります。
通常、共有結合の電子は2つで一組(電子対)として存在します。 結合が切れるとき、2つの電子が1つずつ各原子に分かれることがあります。 この切れ方を均等開裂(ホモリシス)といい、 不対電子を1つもった原子やフラグメントのことをラジカルと呼びます。
ラジカルは電子対を完成させようとして非常に反応性が高く、 周囲の分子から電子を奪い取ろうとします。
アルカンとハロゲン(ここでは塩素 $\text{Cl}_2$)のラジカル置換反応は、 メタン $\text{CH}_4$ を例にとると、次の3段階で進みます。
紫外線のエネルギーで $\text{Cl-Cl}$ 結合が均等に開裂し、2つの塩素ラジカルが生じます。
$$\text{Cl}_2 \xrightarrow{h\nu} 2\,\text{Cl}\cdot$$
$h\nu$ は光のエネルギーを表す記号です。$\text{Cl}\cdot$ の「$\cdot$」は不対電子を示します。
生成した $\text{Cl}\cdot$ は非常に反応性が高く、メタンの C-H 結合から水素原子を引き抜きます。
$$\text{Cl}\cdot + \text{CH}_4 \to \text{HCl} + \text{CH}_3\cdot$$
生じたメチルラジカル $\text{CH}_3\cdot$ は、今度は別の $\text{Cl}_2$ 分子と反応します。
$$\text{CH}_3\cdot + \text{Cl}_2 \to \text{CH}_3\text{Cl} + \text{Cl}\cdot$$
ここで再び $\text{Cl}\cdot$ が生成するため、この2つの反応が繰り返されます。 これが「連鎖反応」と呼ばれる理由です。ラジカルが消費されても別のラジカルが再生されるため、 反応が次々と進行します。
2つのラジカルが出会うと、不対電子同士が結合して安定な分子になります。 これによりラジカルが消失し、連鎖が断たれます。
$$\text{Cl}\cdot + \text{Cl}\cdot \to \text{Cl}_2$$
$$\text{CH}_3\cdot + \text{Cl}\cdot \to \text{CH}_3\text{Cl}$$
$$\text{CH}_3\cdot + \text{CH}_3\cdot \to \text{C}_2\text{H}_6$$
この反応全体をまとめると、次の通りです。
$$\text{CH}_4 + \text{Cl}_2 \xrightarrow{h\nu} \text{CH}_3\text{Cl} + \text{HCl}$$
高校化学では「アルカンは光を当てるとハロゲンと置換反応する」と学びますが、 その裏では、ラジカルの生成 → 連鎖的な水素の引き抜き → ラジカルの消滅、 という3段階のプロセスが進行しています。 「なぜ光が必要なのか」は、ラジカルを発生させるためです。
誤:「ラジカル反応は常に置換反応である」
正:ラジカル反応は反応機構の分類(ラジカルが関与する反応)であり、置換反応は結果の分類(原子が置き換わる反応)です。 ラジカルが関与する付加反応も存在します(例:アルケンへのHBrのラジカル付加)。 機構と結果を混同しないようにしましょう。
ここまでで、アルカンの反応が「$\sigma$ 結合のみ → 電子の偏りなし → 通常は反応しない → ラジカルを使って強引に反応させる」 という論理で理解できることを見ました。 次に、$\pi$ 結合をもつアルケンでは事情がどう変わるかを見ていきます。
アルケンはアルカンと対照的です。 アルケンの二重結合の炭素は $sp^2$ 混成であり、$\sigma$ 結合に加えて $\pi$ 結合をもちます。 この $\pi$ 結合では、電子が分子平面の上下に露出しています。 「電子の偏りがあるところに反応が起こる」という原理に従えば、 この露出した $\pi$ 電子に、電子を欲しがる試薬が引き寄せられるはずです。
大学化学では、試薬を「電子に対する振る舞い」で分類します。
アルケンの $\pi$ 電子は電子密度が高い場所ですから、そこには求電子剤が近づきます。 こうして起こる反応を求電子付加反応といいます。
最もシンプルな例として、エチレン $\text{CH}_2=\text{CH}_2$ に臭化水素 $\text{HBr}$ が付加する反応を見ましょう。
$\text{HBr}$ は $\text{H}$-$\text{Br}$ 結合に極性があり、水素は部分的に正の電荷($\delta^+$)を帯びています。 この $\text{H}^{\delta+}$ がアルケンの $\pi$ 電子に引き寄せられます。
$\pi$ 電子が $\text{H}^+$ に供給され、$\text{H}$-$\text{Br}$ 結合が切れます。 結果として、一方の炭素に $\text{H}$ が結合し、もう一方の炭素は電子を失って 正電荷をもつカルボカチオンになります。
$$\text{CH}_2=\text{CH}_2 + \text{H}^+ \to \text{CH}_3\text{-}\overset{+}{\text{C}}\text{H}_2$$
ステップ1で生じたカルボカチオン(正電荷をもつ炭素)に、 $\text{Br}^-$(負電荷をもつ求核剤)が近づいて結合します。
$$\text{CH}_3\text{-}\overset{+}{\text{C}}\text{H}_2 + \text{Br}^- \to \text{CH}_3\text{CH}_2\text{Br}$$
全体の反応式はこうなります。
$$\text{CH}_2=\text{CH}_2 + \text{HBr} \to \text{CH}_3\text{CH}_2\text{Br}$$
エチレンの場合は対称な分子なので、$\text{H}$ がどちらの炭素につくかで生成物は変わりません。 しかし、プロペンのような非対称なアルケンでは、$\text{H}$ がつく位置によって生成物が変わります。 どちらの炭素に付加するかを決めるのが、次に説明するマルコフニコフ則です。
プロペン $\text{CH}_3\text{CH}=\text{CH}_2$ に $\text{HBr}$ を付加する場合、 $\text{H}^+$ がつく位置によって2通りの生成物が考えられます。
実験では、経路Aの生成物 $\text{CH}_3\text{CHBrCH}_3$ が主生成物になります。 これは19世紀のロシアの化学者マルコフニコフが経験則として見いだしたもので、 マルコフニコフ則と呼ばれています。
アルケンへの $\text{HX}$ の付加反応では、水素原子($\text{H}$)は 水素がより多くついている炭素に付加する。
マルコフニコフ則は、単なる経験則ではなく、カルボカチオンの安定性から論理的に説明できます。
カルボカチオンの安定性は、正電荷をもつ炭素に結合しているアルキル基の数で決まります。 アルキル基は電子をわずかに押し出す性質(誘起効果)をもっており、 正電荷を帯びた炭素に電子密度を供給して正電荷を分散させ、安定化させます。
したがって、アルキル基の数が多いほどカルボカチオンは安定です。
安定性の順序:3級 > 2級 > 1級 > メチル
| カルボカチオン | アルキル基の数 | 安定性 |
|---|---|---|
| $\text{R}_3\text{C}^+$(3級) | 3つ | 最も安定 |
| $\text{R}_2\text{CH}^+$(2級) | 2つ | |
| $\text{RCH}_2^+$(1級) | 1つ | |
| $\text{CH}_3^+$(メチル) | 0 | 最も不安定 |
プロペンへの $\text{HBr}$ 付加に戻ると、経路Aでは2級カルボカチオン、 経路Bでは1級カルボカチオンが中間体として生成します。 2級のほうが安定なので、経路Aのほうがエネルギー的に有利であり、主生成物となります。
マルコフニコフ則の本質は「$\text{H}$ が水素の多い炭素につく」という規則そのものではなく、 より安定なカルボカチオンを経由する経路が優先されるという原理です。
この理解があれば、マルコフニコフ則を「暗記すべき規則」ではなく、 カルボカチオンの安定性から「導ける原理」として捉えることができます。
カルボカチオンの安定化には、誘起効果に加えて超共役(hyperconjugation)も寄与しています。 隣接する C-H $\sigma$ 結合の電子が、正電荷をもつ炭素の空の $p$ 軌道と部分的に重なることで、 電子密度が供給されます。アルキル基が多いほど隣接 C-H 結合も多くなるため、 超共役による安定化も大きくなります。 詳しくは有機化学の発展的な内容として後の記事で扱います。
ここまでで、アルケンの反応が「$\pi$ 電子の露出 → 求電子剤の攻撃 → カルボカチオン中間体 → 求核剤の攻撃」 という段階で進むことを見ました。 そして、中間体のカルボカチオンの安定性から、生成物の位置選択性(マルコフニコフ則)が説明できることも分かりました。 次に、この知識を使って実際の反応の生成物を予測してみましょう。
ここまでの知識を使えば、高校化学では「暗記」するしかなかった反応の生成物を、 論理的に「予測」できるようになります。 いくつかの例で確認しましょう。
2-ブテン $\text{CH}_3\text{CH}=\text{CHCH}_3$ に $\text{HCl}$ を付加する場合を考えます。
この分子では二重結合の両側に同じ $\text{CH}_3$ 基がついています(対称)。 したがって、$\text{H}^+$ がどちらの炭素についても同じ2級カルボカチオンが生じます。 生成物は $\text{CH}_3\text{CHClCH}_2\text{CH}_3$(2-クロロブタン)の一種類のみです。
2-メチルプロペン $(\text{CH}_3)_2\text{C}=\text{CH}_2$ に $\text{HBr}$ を付加する場合です。
3級カルボカチオンのほうがはるかに安定なので、$\text{H}$ は末端の炭素に付加し、 主生成物は $(\text{CH}_3)_3\text{CBr}$ になります。 マルコフニコフ則と完全に一致します。
プロパン $\text{CH}_3\text{CH}_2\text{CH}_3$ を塩素化する場合、 水素の引き抜きが起こる位置によって2つの生成物が考えられます。
ラジカルの安定性は 2級 > 1級 なので、2-クロロプロパンがやや多く生成しますが、 水素の数は末端(6個)のほうが中央(2個)より多いため、統計的な要因も影響します。 実際の生成物比は、ラジカル安定性と水素の数の両方を考慮して説明されます。
誤:「すべての付加反応でマルコフニコフ則が成り立つ」
正:マルコフニコフ則はカルボカチオン中間体を経由する求電子付加反応に適用されます。 過酸化物存在下でのラジカル付加反応では、ラジカル中間体の安定性が生成物を決めるため、 反マルコフニコフ付加(逆の位置への付加)が起こります。
このように、「結合の種類を知る → 電子の偏りを判断する → 反応機構を追う → 生成物を予測する」 という一連の流れを習得すれば、個々の反応を暗記する必要がなくなります。 最後に、この記事の内容が他の単元とどうつながるかを確認しましょう。
この記事で学んだ $\sigma$/$\pi$ 結合の区別と反応機構の考え方は、有機化学全体の土台になります。
Q1. $\sigma$ 結合と $\pi$ 結合の最も重要な違いを、「電子の位置」と「反応性」の観点から説明してください。
Q2. アルカンのラジカル置換反応で「光が必要」な理由を説明してください。
Q3. 1-ブテン $\text{CH}_3\text{CH}_2\text{CH}=\text{CH}_2$ に $\text{HBr}$ を付加したとき、マルコフニコフ則に従う主生成物はどちらですか。理由も答えてください。
Q4. 「マルコフニコフ則は暗記する経験則である」という主張は正しいですか。
反応機構の理解を問題で確認しましょう。
次の分子について、C-C 結合(または C=C, C$\equiv$C 結合)に含まれる $\sigma$ 結合と $\pi$ 結合の数をそれぞれ答えてください。
(1) エタン $\text{C}_2\text{H}_6$
(2) エチレン $\text{C}_2\text{H}_4$
(3) アセチレン $\text{C}_2\text{H}_2$
(1) $\sigma$ 結合 1本、$\pi$ 結合 0本
(2) $\sigma$ 結合 1本、$\pi$ 結合 1本
(3) $\sigma$ 結合 1本、$\pi$ 結合 2本
単結合は $\sigma$ 結合1本のみ。二重結合は $\sigma$ 1本 + $\pi$ 1本。三重結合は $\sigma$ 1本 + $\pi$ 2本。 どの多重結合でも、$\sigma$ 結合は必ず1本含まれます。$\pi$ 結合は2本目以降の結合を担っています。
メタンと臭素のラジカル置換反応について、以下の問いに答えてください。
(1) 開始段階の反応式を書いてください。
(2) 成長段階の2つの反応式を書いてください。
(3) なぜこの反応が「連鎖反応」と呼ばれるか、成長段階の反応式をもとに説明してください。
(1) $\text{Br}_2 \xrightarrow{h\nu} 2\,\text{Br}\cdot$
(2) $\text{Br}\cdot + \text{CH}_4 \to \text{HBr} + \text{CH}_3\cdot$
$\text{CH}_3\cdot + \text{Br}_2 \to \text{CH}_3\text{Br} + \text{Br}\cdot$
(3) 成長段階の第1反応で $\text{CH}_3\cdot$ が生じ、第2反応でこれが消費されて $\text{Br}\cdot$ が再生します。この $\text{Br}\cdot$ が第1反応を再び開始します。つまりラジカルが消費されても新たなラジカルが再生されるため、反応が連鎖的に繰り返されます。
塩素の場合と同様の機構で進みますが、$\text{Br}\cdot$ は $\text{Cl}\cdot$ より反応性が低く、C-H結合からの水素引き抜きがより選択的になります。 これは結合解離エネルギーの差に起因し、臭素化のほうが塩素化より位置選択性が高いことにつながります。
次の各反応の主生成物を予測し、その理由をカルボカチオンの安定性から説明してください。
(1) $\text{CH}_3\text{CH}=\text{CH}_2 + \text{HCl} \to$
(2) $(\text{CH}_3)_2\text{C}=\text{CH}_2 + \text{HBr} \to$
(3) $\text{CH}_3\text{CH}_2\text{CH}=\text{CH}_2 + \text{HI} \to$
(1) $\text{CH}_3\text{CHClCH}_3$(2-クロロプロパン)
(2) $(\text{CH}_3)_3\text{CBr}$(2-ブロモ-2-メチルプロパン)
(3) $\text{CH}_3\text{CH}_2\text{CHICH}_3$(2-ヨードブタン)
(1) $\text{H}^+$ が末端 $\text{CH}_2$ につくと2級カルボカチオン $\text{CH}_3\overset{+}{\text{C}}\text{HCH}_3$ が生成します。 $\text{H}^+$ が $\text{CH}$ につくと1級カルボカチオン $\text{CH}_3\text{CH}_2\overset{+}{\text{C}}\text{H}_2$ が生成します。 2級のほうが安定なので、2級カルボカチオンを経由する経路が優先されます。
(2) $\text{H}^+$ が $\text{CH}_2$ につくと3級カルボカチオン $(\text{CH}_3)_3\text{C}^+$ が生成します。 $\text{H}^+$ が $\text{C}(\text{CH}_3)_2$ につくと1級カルボカチオンが生成します。 3級は1級よりはるかに安定です。
(3) $\text{H}^+$ が末端 $\text{CH}_2$ につくと2級カルボカチオン $\text{CH}_3\text{CH}_2\overset{+}{\text{C}}\text{HCH}_3$ が生成します。 1級カルボカチオンより安定なので、2級を経由する経路が優先されます。
いずれの場合も、マルコフニコフ則は「より安定なカルボカチオンを経由する」という原理から導かれます。
メタン $\text{CH}_4$ とエチレン $\text{CH}_2=\text{CH}_2$ はどちらも炭化水素ですが、反応性が大きく異なります。
(1) メタンが通常の条件で反応しにくい理由を、結合の種類と電子の偏りの観点から説明してください。
(2) エチレンが $\text{Br}_2$ と容易に反応する理由を、同じ観点から説明してください。
(3) 「電子の偏りがあるところに反応が起こる」という原理を用いて、アルカンのラジカル置換反応とアルケンの求電子付加反応を統一的に説明してください。
(1) メタンは C-H $\sigma$ 結合のみで構成されており、電子は結合軸上に閉じ込められています。外部の試薬が電子にアクセスできないため、通常の条件では反応が起こりません。
(2) エチレンは $\sigma$ 結合に加えて $\pi$ 結合をもちます。$\pi$ 結合の電子は分子平面の上下に露出しており、$\text{Br}_2$ が近づくと $\pi$ 電子に誘起されて分極し、求電子剤として攻撃します。露出した電子が試薬にアクセスされやすいため、容易に反応が起こります。
(3) どちらの反応も「電子の偏り」が反応の起点です。アルカンは電子の偏りがないため、光や熱でラジカルという「強引な手段」を使って反応を起こす必要があります。一方アルケンは $\pi$ 結合により電子が露出しているため、求電子剤が自然に近づいて反応が起こります。つまり、電子の偏りの有無が反応のメカニズム(ラジカル機構か求電子付加機構か)を決定しています。
「結合の種類 → 電子の偏り → 反応の種類」という統一的な論理を使いこなせるかを問う総合問題です。
ポイントは、個々の反応を別々に暗記するのではなく、 「結合の種類 → 電子の偏り → 反応の種類」という論理の流れで両者を統一的に説明できることです。
$\sigma$ 結合しかないアルカンは反応のきっかけがなく、ラジカルという「外部からの強制的な活性化」が必要です。 $\pi$ 結合をもつアルケンは電子が露出しているため、求電子剤が自発的に近づきます。 どちらも「電子がどこにあるか」から反応の種類が論理的に決まります。