高校化学では、天然ゴムにイオウを加えて加硫すると弾性が増すこと、イオン交換樹脂がイオンを選択的に交換することを学びます。
しかし、「なぜゴムは伸び縮みするのか」「なぜ架橋を入れると弾性が生まれるのか」という問いには、高校の範囲では答えることができません。
大学化学では、ゴムの弾性の本質がエントロピー弾性にあることを学びます。
高分子鎖は自然な状態ではランダムに丸まっており(エントロピーが最大)、引き伸ばすとエントロピーが減少します。
架橋構造がこの「縮もうとする力」を復元力として機能させるのです。
この「構造が機能を決める」という設計思想は、イオン交換樹脂、吸水性高分子、導電性高分子といった機能性高分子にも共通しています。
高校化学では、天然ゴムはイソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)が付加重合したポリイソプレンであると学びます。 天然ゴムはcis 型の構造をとるため分子鎖が規則的に折り畳めず、結晶化しにくいことが柔軟さの原因です。 一方、trans 型のポリイソプレンはグタペルカと呼ばれ、結晶性が高く硬い材料になります。
合成ゴムとしては、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)やクロロプレンゴムなどを学びます。 これらはいずれもジエン系モノマーの重合体であり、分子鎖中に残る二重結合が架橋反応の足がかりとなります。
生ゴム(未加硫の天然ゴム)は、温度が上がると粘性流動を起こしてベタつき、低温では硬くなります。 高校では、生ゴムにイオウ(硫黄)を加えて加熱すると加硫が起こり、分子鎖間がイオウの架橋($\text{-S-S-}$ 結合や $\text{-S}_n\text{-}$ 結合)で結ばれて弾性が生まれる、と学びます。 イオウの量を増やすと硬くなり、約 30% 以上のイオウを加えるとエボナイトという硬い材料になることも知られています。
高校では、スチレンとジビニルベンゼンの共重合体に官能基を導入したイオン交換樹脂を学びます。 スルホ基 $\text{-SO}_3\text{H}$ を導入すると陽イオン交換樹脂、第四級アンモニウム基 $\text{-N(CH}_3\text{)}_3^+\text{OH}^-$ を導入すると陰イオン交換樹脂になります。 高校ではこれらを「水の脱イオン(純水の製造)」に利用する例を学びますが、なぜイオンが選択的に交換されるのか、その原理までは扱いません。
ここまで見てきた通り、高校では「加硫すると弾性が出る」「イオン交換樹脂はイオンを交換する」という事実を学びます。 次のセクションでは、大学の視点を導入することで、架橋がなぜ弾性を生むのか、その仕組みを理解します。
大学化学では、ゴムの弾性をエントロピーの概念を使って説明します。 高分子鎖がとりうる形態(コンフォメーション)の数に注目すると、「伸ばされた鎖は縮もうとする」という現象が熱力学的に理解でき、架橋密度を変えることで物性を制御できる理由も明らかになります。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. ゴムの弾性がエントロピー弾性であることを説明し、金属のバネ(エネルギー弾性)との違いを述べることができる
2. 架橋密度と物性の関係(架橋なし → 粘性流動、適度な架橋 → 弾性、過剰な架橋 → 硬質)を説明できる
3. 架橋密度から弾性率を定量的に見積もることができる
4. イオン交換樹脂、吸水性高分子、導電性高分子の機能を、「構造 → 機能」の設計思想で統一的に理解できる
エントロピー弾性を理解するために、まず高分子鎖の「形態」とエントロピーの関係を考える必要があります。 次のセクションで、その核心に入ります。
ゴムの弾性を理解する鍵は、エントロピーです。 エントロピーは「微視的な状態の数の多さ」を表す量であり、状態の数 $W$ を用いて $S = k_{\text{B}} \ln W$ と定義されます(📖 C-8-2 ギブズエネルギー で詳しく解説しています)。
高分子鎖は、1本の鎖に含まれる結合の回りの回転によって、無数のコンフォメーション(形態)をとることができます。 ここで重要なのは、丸まった形態の数は、引き伸ばされた形態の数よりもはるかに多いという事実です。
これを直感的に理解するために、自由連結鎖モデルを考えます。 $n$ 個のセグメント(長さ $l$ の棒)がつながった鎖で、各セグメントの向きが互いに独立にランダムであるとします。 この鎖の両端間距離を $r$ とすると、$r$ がとりうる最大値は $r_{\max} = nl$(完全に伸びきった状態)ですが、この状態を実現するコンフォメーションは1通りしかありません。 一方、$r$ が小さい(丸まった)状態を実現するコンフォメーションは膨大な数があります。
統計力学の計算によると、両端間距離 $r$ を持つコンフォメーションの数 $W(r)$ は、$r$ が小さいときに大きく、$r$ が大きくなるにつれて急激に減少します。 したがって、エントロピー $S = k_{\text{B}} \ln W$ は $r$ が小さいほど大きくなります。
いま、高分子鎖を引き伸ばすことを考えます。 引き伸ばすと両端間距離 $r$ が大きくなり、とりうるコンフォメーションの数が減ります。 これはエントロピーの減少を意味します。
熱力学第二法則によれば、系のエントロピーは増大する方向に変化しようとします(📖 C-8-2)。 したがって、引き伸ばされた高分子鎖は、エントロピーが大きい状態(丸まった状態)に戻ろうとします。 これがゴムが縮もうとする復元力の正体です。
ゴムの弾性はエントロピー弾性と呼ばれます。復元力の源はエネルギーではなくエントロピーです。
金属のバネを引き伸ばすと、原子間の結合が歪んでポテンシャルエネルギーが増加します。手を離すと、エネルギーが低い状態に戻ろうとして縮みます。これはエネルギー弾性です。
一方、ゴムを引き伸ばしても共有結合は切れません。変化するのは分子鎖のコンフォメーションだけです。伸ばすとコンフォメーションの数が減り(エントロピーが減り)、縮むとコンフォメーションの数が増えます(エントロピーが増えます)。ゴムはエントロピーを増やす方向に縮もうとするのです。
この考え方を定量的に表現しましょう。 ゴムを定温で伸ばしたとき、ヘルムホルツ自由エネルギー $A = U - TS$ の変化を考えます($U$ は内部エネルギー、$T$ は絶対温度、$S$ はエントロピー)。
ゴムの変形では共有結合は切れず、分子間力の変化も小さいため、内部エネルギーの変化はほぼゼロです($\Delta U \approx 0$)。 したがって、
$$\Delta A \approx -T \Delta S$$
伸ばすとエントロピーが減る($\Delta S < 0$)ので、$\Delta A > 0$ となります。 自由エネルギーが増加した分だけ、元に戻ろうとする力(復元力)が生じます。
復元力 $f$ は、伸び $r$ に対する自由エネルギーの微分で表されます。
$$f = \frac{\partial A}{\partial r} \approx -T \frac{\partial S}{\partial r}$$
$f$:復元力(N)、$T$:絶対温度(K)、$S$:エントロピー(J/K)、$r$:両端間距離(m)
この式は、ゴムの復元力がエントロピーの変化率に比例することを示しています。 エネルギーの変化($\partial U / \partial r$)がほぼゼロであるため、復元力は温度 $T$ に比例します。 金属のバネ(エネルギー弾性)では復元力は温度にほとんど依存しないのに対し、ゴム(エントロピー弾性)では温度を上げると復元力が増すという特徴的な性質が、この式から導かれます。
誤解:物体は温めると膨張するはずだから、ゴムも温めると伸びるのではないか。
正しい理解:荷重をかけて伸ばした状態のゴムを加熱すると、ゴムは縮みます。 上の式 $f \approx -T(\partial S / \partial r)$ から、温度 $T$ が上がると復元力 $f$ が増加することがわかります。 これは金属のバネでは起こらない現象であり、ゴムの弾性がエントロピー弾性であることの実験的証拠です。 なお、荷重をかけていないゴムでは通常の熱膨張も起こるため、この現象は伸ばした状態で観察する必要があります。
ここまでで、ゴムの弾性がエントロピーの変化に由来することがわかりました。 しかし、ここで一つ重要な問題があります。 架橋のない生ゴムでも高分子鎖は丸まろうとするのに、なぜ弾性が生まれないのでしょうか。 次のセクションでは、架橋構造がエントロピー弾性を「復元力」として機能させる仕組みを考えます。
架橋のない生ゴムでは、個々の高分子鎖は確かに丸まろうとします。 しかし、鎖同士が化学結合でつながっていないため、外力を加えると鎖全体が滑り動いてしまいます。 これが粘性流動です。 手を離しても鎖は元の位置に戻ることができず、変形は不可逆になります。 高温の生ゴムがベタつく原因はここにあります。
加硫によって鎖間に架橋点(イオウの橋かけ)が導入されると、状況が一変します。 架橋点は高分子鎖の「元の位置」を記憶する固定点として機能します。 外力で伸ばされた鎖は、架橋点に引き留められているため滑り動くことができず、エントロピーを回復するために元の位置に縮もうとします。 これが弾性的な復元です。
つまり、エントロピー弾性を発現させるには、(1) 高分子鎖が多数のコンフォメーションをとれること(柔軟な鎖)と、(2) 鎖同士が架橋で結ばれていること(粘性流動の抑制)の両方が必要です。
架橋密度(単位体積あたりの架橋点の数 $\nu$)を変えることで、材料の物性を連続的に制御できます。
| 架橋密度 | 物性 | 具体例 |
|---|---|---|
| 架橋なし ($\nu = 0$) | 粘性流動(変形が不可逆) | 生ゴム |
| 低い | 柔らかいゴム(大きく伸縮可能) | 輪ゴム(イオウ 1 -- 3%) |
| 中程度 | 硬めのゴム(弾性あり) | タイヤ(イオウ 3 -- 5%) |
| 高い | 硬質プラスチック(弾性なし) | エボナイト(イオウ 30% 以上) |
架橋密度が低い場合、架橋点間の鎖は長く、多数のコンフォメーションをとれます。 そのため大きく伸縮でき、柔軟なゴムになります。 架橋密度が高くなると、架橋点間の鎖が短くなり、とりうるコンフォメーションの数が減ります。 極端に架橋密度を高くすると、鎖はほとんど動けなくなり、エントロピー弾性が失われて硬いプラスチックになります。
セクション3で導入したエントロピー弾性の考え方が、ここで物性の制御に直結しています。 架橋密度 $\nu$ が弾性率を決めるという定量的な関係は、セクション6で具体的な数値を使って確認します。 その前に、この「架橋構造で機能を制御する」という設計思想が、ゴム以外の機能性高分子にも共通していることを見ていきます。
セクション3〜4で見たように、ゴムでは「架橋構造+柔軟な高分子鎖」という構造がエントロピー弾性という機能を生み出していました。 この「構造 → 機能」の設計思想は、ゴムに限らず、さまざまな機能性高分子に共通しています。 ここでは、架橋構造を持つ3つの機能性高分子を取り上げ、それぞれの機能が構造からどのように生まれるかを見ていきます。
イオン交換樹脂は、スチレンとジビニルベンゼンの共重合体を母体とする架橋高分子です。 ジビニルベンゼンが架橋剤として働き、三次元の網目構造を形成します。 この母体に、スルホ基($\text{-SO}_3^-$)や第四級アンモニウム基($\text{-N(CH}_3\text{)}_3^+$)などのイオン性官能基を導入したものがイオン交換樹脂です。
構造と機能の関係を整理すると、次のようになります。
イオン交換の選択性(どのイオンを優先的に交換するか)は、イオンの電荷密度(電荷/イオン半径)で説明できます。 電荷密度が高いイオンほど、樹脂上の官能基との静電的な相互作用が強くなり、交換されやすくなります。
| 陽イオン | イオン半径 (pm) | 電荷密度(相対値) | 選択性の順位 |
|---|---|---|---|
| $\text{Li}^+$ | 76 | 低い | 交換されにくい |
| $\text{Na}^+$ | 102 | 中 | |
| $\text{K}^+$ | 138 | 中 | |
| $\text{Ca}^{2+}$ | 100 | 高い | 交換されやすい |
上の表で $\text{Li}^+$ のイオン半径は $\text{Na}^+$ や $\text{K}^+$ より小さいのに「電荷密度が低い」と書かれていることに違和感があるかもしれません。 実は、イオン交換の選択性は裸のイオン半径ではなく、水和イオンとしてのサイズが重要です。 $\text{Li}^+$ は裸のイオン半径が小さいため表面電荷密度が非常に高く、多数の水分子を強く引きつけます。 その結果、水和イオンとしてのサイズは $\text{Li}^+$ が最大、$\text{K}^+$ が最小となります。 水和イオンが大きいほど樹脂の網目に入りにくく、また官能基との直接的な静電相互作用も弱くなるため、$\text{Li}^+ < \text{Na}^+ < \text{K}^+$ の順に選択性が上がります。 2価イオンの $\text{Ca}^{2+}$ は電荷が2倍あるため、1価イオンより強く交換されます。
吸水性高分子(高吸水性樹脂、SAP)は、ポリアクリル酸ナトリウムなどの親水性高分子を軽度に架橋した材料です。 紙おむつや土壌保水剤として広く使われています。
構造と機能の関係は次の通りです。
ここでもエントロピーが重要な役割を果たします。 高分子網目の中に $\text{Na}^+$ イオンが閉じ込められているため、網目の内側は外側に比べてイオン濃度が高くなります。 浸透圧によって水が網目内部に流入し、高分子は膨潤します。 架橋が弱すぎると水に溶解してしまい、強すぎると膨潤が制限されて吸水量が減ります。 最適な架橋密度の設計が、吸水性能を決めるのです。
通常のプラスチックは電気絶縁体ですが、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェンなどの導電性高分子は電気を通します。 2000年のノーベル化学賞は、白川英樹、マクダイアミド、ヒーガーの3氏による導電性高分子の発見と開発に対して授与されました。
導電性高分子の構造上の特徴は、主鎖に沿った共役二重結合(単結合と二重結合が交互に並ぶ構造)です。 共役系では $\pi$ 電子が分子鎖に沿って非局在化しており、電子が移動できる経路が形成されます。
ただし、共役構造だけでは導電性は低いままです。 高い導電性を発現させるには、ドーピング(酸化剤や還元剤を作用させること)が必要です。 ドーピングにより分子鎖上に電荷キャリア(正孔または電子)が生成され、共役系に沿って移動できるようになります。 例えば、ポリアセチレンにヨウ素 $\text{I}_2$ をドーピングすると、導電率は $10^{-5}$ S/cm から $10^3$ S/cm 以上へと 8桁も増加します。
導電性高分子では架橋構造そのものは必ずしも使いませんが、「分子の構造が巨視的な機能(導電性)を決める」という設計思想はゴムやイオン交換樹脂と共通です。 共役の長さ、ドーピングの種類と量、分子鎖の配向を制御することで、絶縁体から金属に匹敵する導電体まで連続的に物性を調整できます。
ここまでで、架橋構造と官能基の組み合わせが多様な機能を生み出すことを確認しました。 次のセクションでは、セクション3で導入したエントロピー弾性の考え方を使って、架橋密度と弾性率の定量的な関係を具体的な数値で計算します。
セクション3で、ゴムの復元力がエントロピーの変化に由来することを見ました。 自由連結鎖モデルを用いた統計力学的な計算を進めると、架橋ゴムの弾性率(せん断弾性率 $G$)と架橋密度の関係が得られます。
$$G = \nu k_{\text{B}} T = \frac{\nu_{\text{mol}} RT}{V}$$
$G$:せん断弾性率(Pa)、$\nu$:単位体積あたりの有効な架橋鎖の数(m${}^{-3}$)、$k_{\text{B}}$:ボルツマン定数、$T$:絶対温度(K)、$\nu_{\text{mol}}$:有効な架橋鎖の物質量(mol)、$R$:気体定数、$V$:体積(m${}^3$)
この式は、各架橋鎖のエントロピー弾性の寄与を足し合わせた結果です。 1本の架橋鎖あたりの弾性への寄与が $k_{\text{B}}T$ であり、体積 $V$ 中に $\nu V$ 本の架橋鎖があるので、$G = \nu k_{\text{B}}T$ となります。 気体の状態方程式 $PV = nRT$ と類似した形をしていることに気づくでしょう。 ゴムの弾性率も、気体の圧力と同様に、多数の分子の熱運動(エントロピー効果)から生じています。
ステップ1:自由連結鎖($n$ セグメント、セグメント長 $l$)の両端間距離 $r$ のコンフォメーション数 $W(r)$ は、ガウス分布で近似できます。
$$W(r) \propto \exp\left(-\frac{3r^2}{2nl^2}\right)$$
ステップ2:エントロピーは $S = k_{\text{B}} \ln W$ なので、
$$S(r) = \text{const.} - \frac{3k_{\text{B}}r^2}{2nl^2}$$
ステップ3:1本の鎖の復元力は $f = -T(\partial S / \partial r) = \frac{3k_{\text{B}}T}{nl^2} r$ となり、フックの法則(力が伸びに比例する)に従います。バネ定数は $3k_{\text{B}}T/(nl^2)$ です。
ステップ4:架橋ゴム全体では、$\nu V$ 本の架橋鎖がそれぞれ独立にバネとして働きます。巨視的な変形(伸長比 $\lambda$)に対するせん断弾性率は $G = \nu k_{\text{B}}T$ となります。
典型的な加硫天然ゴム(イオウ約 2%)の架橋密度は、$\nu \approx 2 \times 10^{25} \; \text{m}^{-3}$(体積 1 m${}^3$ あたり約 $2 \times 10^{25}$ 本の架橋鎖)です。 $T = 300 \; \text{K}$ での弾性率を計算します。
$$G = \nu k_{\text{B}} T = 2 \times 10^{25} \times 1.381 \times 10^{-23} \times 300$$
$$= 2 \times 10^{25} \times 4.14 \times 10^{-21} = 8.3 \times 10^{4} \; \text{Pa} \approx 0.08 \; \text{MPa}$$
これは実測値(0.1 -- 1 MPa 程度)と概ね一致する値です。 鋼のせん断弾性率(約 80 GPa = $8 \times 10^{10}$ Pa)と比較すると、ゴムの弾性率は約 100万分の1です。 これは、ゴムの弾性がエントロピー起源(分子鎖のコンフォメーション変化)であるのに対し、金属の弾性がエネルギー起源(原子間結合の歪み)であることの表れです。
$G = \nu k_{\text{B}} T$ から、ゴムの弾性率は絶対温度 $T$ に比例します。 これはエントロピー弾性の直接的な帰結です。
| 温度 | $T$ (K) | $G$ (MPa) |
|---|---|---|
| $0 \; {}^\circ\text{C}$ | 273 | $2 \times 10^{25} \times 1.381 \times 10^{-23} \times 273 = 0.075$ |
| $27 \; {}^\circ\text{C}$ | 300 | $0.083$ |
| $100 \; {}^\circ\text{C}$ | 373 | $0.103$ |
温度が上がると弾性率が増加しています。 これは、金属のバネ(温度上昇で弾性率がわずかに減少する)とは逆の振る舞いであり、セクション3の pitfall-box で述べた「ゴムを温めると縮む」現象と同じ原理です。
$T = 300 \; \text{K}$ で、架橋密度を変えたときの弾性率を計算します。
| 材料 | $\nu$ (m${}^{-3}$) | $G$ (MPa) | 性質 |
|---|---|---|---|
| 軟質ゴム | $5 \times 10^{24}$ | $0.021$ | 非常に柔らかい |
| 一般的なゴム | $2 \times 10^{25}$ | $0.083$ | 適度な弾性 |
| 硬質ゴム | $1 \times 10^{26}$ | $0.41$ | 硬い |
架橋密度を 4倍にすると弾性率も約 4倍になり、$G = \nu k_{\text{B}} T$ の線形関係が確認できます。 なお、架橋密度がさらに高くなると、架橋点間の鎖が短くなりすぎてガウス鎖の近似が成り立たなくなり、理想ゴム弾性の式は適用できなくなります。 エボナイトのような高架橋材料の物性は、別の理論(ガラス転移の理論など)で扱う必要があります。
Q1. ゴムの弾性は「エントロピー弾性」と呼ばれます。金属のバネの弾性(エネルギー弾性)との違いを、復元力の起源に着目して説明してください。
Q2. 架橋のない生ゴムにはエントロピー弾性が発現しません。その理由を説明してください。
Q3. 理想ゴム弾性の式 $G = \nu k_{\text{B}} T$ によると、ゴムの弾性率は温度が上がるとどうなりますか。またその理由を述べてください。
Q4. イオン交換樹脂の選択性において、1価の陽イオンでは一般に $\text{Li}^+ < \text{Na}^+ < \text{K}^+$ の順に交換されやすくなります。この順序の理由を説明してください。
次の (a) -- (d) の材料について、架橋密度が高い順に並べてください。また、それぞれの典型的な物性(柔軟、硬質など)を答えてください。
(a) 生ゴム
(b) エボナイト
(c) 輪ゴム
(d) 自動車タイヤのゴム
架橋密度が高い順:(b) エボナイト > (d) タイヤ > (c) 輪ゴム > (a) 生ゴム
(a) 生ゴム:架橋なし。粘性流動を起こし、温度変化でベタついたり硬くなったりする。
(c) 輪ゴム:低い架橋密度(イオウ 1 -- 3%)。柔軟で大きく伸縮可能。
(d) タイヤ:中程度の架橋密度(イオウ 3 -- 5%)。適度な弾性と耐久性。
(b) エボナイト:高い架橋密度(イオウ 30% 以上)。硬質プラスチック状。
ある架橋ゴムの架橋密度が $\nu = 5.0 \times 10^{25} \; \text{m}^{-3}$ であるとします。 $T = 300 \; \text{K}$ でのせん断弾性率 $G$ を求めてください。 $k_{\text{B}} = 1.381 \times 10^{-23} \; \text{J/K}$ とします。
$$G = \nu k_{\text{B}} T = 5.0 \times 10^{25} \times 1.381 \times 10^{-23} \times 300$$
$$= 5.0 \times 10^{25} \times 4.14 \times 10^{-21} = 2.1 \times 10^{5} \; \text{Pa} = 0.21 \; \text{MPa}$$
$\nu k_{\text{B}}T$ の単位を確認すると、$\text{m}^{-3} \times \text{J/K} \times \text{K} = \text{J/m}^3 = \text{Pa}$ となり、正しく圧力(弾性率)の単位が得られます。この値は一般的な加硫ゴムの弾性率(0.1 -- 1 MPa)の範囲に収まっています。
問2のゴムの温度を $27 \; {}^\circ\text{C}$ から $127 \; {}^\circ\text{C}$ に上昇させたとき、せん断弾性率 $G$ は何倍になりますか。 また、同じ温度変化で鋼のせん断弾性率がほとんど変化しない理由を、弾性の種類の違いから説明してください。
$27 \; {}^\circ\text{C} = 300 \; \text{K}$、$127 \; {}^\circ\text{C} = 400 \; \text{K}$ です。
$G = \nu k_{\text{B}}T$ より、$G$ は $T$ に比例するので、
$$\frac{G(400)}{G(300)} = \frac{400}{300} = \frac{4}{3} \approx 1.33$$
せん断弾性率は約 1.33 倍に増加します。
鋼のせん断弾性率がほとんど変化しない理由:鋼の弾性はエネルギー弾性(原子間の結合の歪みによるポテンシャルエネルギーの増加が復元力の起源)であり、復元力は原子間ポテンシャルの曲率で決まります。温度が変化しても原子間ポテンシャルの形状はほぼ変わらないため、弾性率もほとんど変化しません。一方、ゴムのエントロピー弾性では復元力が $T$ に比例するため、温度依存性が顕著に現れます。
吸水性高分子(ポリアクリル酸ナトリウムを軽度に架橋した材料)に食塩水を加えると、純水のときよりも吸水量が大幅に減少します。 この現象を、浸透圧とイオン濃度の観点から説明してください。
吸水性高分子が水を吸収する駆動力の一つは浸透圧です。高分子網目の内部には $\text{Na}^+$ イオンが閉じ込められているため、内部のイオン濃度は外部より高くなります。このイオン濃度差によって浸透圧が生じ、外部から水が流入して高分子が膨潤します。
食塩水を加えると、外部溶液の $\text{Na}^+$ および $\text{Cl}^-$ の濃度が上昇し、網目内部と外部のイオン濃度差が小さくなります。その結果、浸透圧が低下し、水の流入量が減少するため、吸水量が大幅に減少します。
この現象は「塩析効果」とも関連します。紙おむつに使われる吸水性高分子が尿(塩分を含む)の吸収量が純水より少ないのは、この原理によるものです。実用的な吸水性高分子では、純水で自重の 500 -- 1000 倍の吸水が可能ですが、生理食塩水(0.9% NaCl)では 30 -- 50 倍程度に低下します。