高校化学では、電池の起電力は「標準状態での値」として表に与えられ、その値を使って計算します。
ダニエル電池の起電力は約 1.10 V ── これは溶液の濃度が変わっても常に同じなのでしょうか。
実は、溶液の濃度を変えると起電力は変化します。
大学化学では、ネルンストの式 $E = E^\circ - \dfrac{RT}{nF}\ln Q$ を使って、
濃度や温度が起電力にどのような影響を与えるかを定量的に計算します。
この式は、ギブズエネルギーと起電力の関係 $\Delta G = -nFE$ から直接導かれます。
ネルンストの式を手にすると、同じ金属でも濃度差だけで起電力が生じる「濃淡電池」の起電力を計算でき、
さらに水素電極を使ったpH測定の原理も定量的に理解できるようになります。
高校化学では、電池の起電力を次のように扱います。
この起電力の値は、溶液が「標準状態」(各イオン濃度が 1 mol/L)にあるときの値です。 高校の問題では、起電力は問題文で与えられた固定値として扱い、濃度を変えたときに起電力がどう変わるかは問われません。
また、高校ではルシャトリエの原理を使って「生成物の濃度が上がると反応は逆方向に進みやすくなる」という定性的な議論を行いますが、 それが起電力の数値にどう反映されるかを定量的に計算する方法は扱いません。
次のセクションでは、大学の視点を導入することで、この「起電力と濃度の関係」を一つの式で定量的に記述できるようになることを確認します。
大学化学では、ネルンストの式(Nernst equation)を導入します。 この式の核心は、起電力 $E$ が反応商 $Q$(反応に関わる物質の濃度の組み合わせ)に依存する、ということです。 標準起電力 $E^\circ$ は $Q = 1$ のときの特別な場合にすぎず、濃度が変われば起電力も変わります。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. ギブズエネルギーと起電力の関係 $\Delta G = -nFE$ からネルンストの式を導出できる
2. 任意の濃度条件で電池の起電力を計算できる
3. ルシャトリエの原理による定性的予測を、ネルンストの式で定量化できる
4. 同じ金属どうしでも濃度差があれば起電力が生じる理由を説明し、濃淡電池の起電力を計算できる
5. 水素電極を使ったpH測定の原理を、ネルンストの式から定量的に説明できる
ネルンストの式を導くには、ギブズエネルギーと起電力の関係が必要です。 次のセクションで、この関係からネルンストの式を導出します。
ネルンストの式を導くために、前の記事で学んだ二つの関係式を使います。
まず、ギブズエネルギーと起電力の関係です。 電池反応で $n$ mol の電子が移動するとき、反応のギブズエネルギー変化 $\Delta G$ と起電力 $E$ の間には次の関係が成り立ちます (📖 C-5-2 で導入)。
$$\Delta G = -nFE$$
$\Delta G$:反応のギブズエネルギー変化(J/mol)、$n$:移動する電子の物質量(mol)、$F = 96485 \; \text{C/mol}$:ファラデー定数(定義値)、$E$:起電力(V)
$\Delta G < 0$(反応が自発的に進む)のとき $E > 0$ となり、電池として電流を取り出せます。 この式は、電気的な仕事 $nFE$ がギブズエネルギーの減少分に等しいことを意味しています。
次に、ギブズエネルギーと反応商の関係です。 任意の濃度条件における $\Delta G$ は、標準状態の $\Delta G^\circ$ と反応商 $Q$ を使って次のように表されます (📖 C-8-2 で詳しく解説)。
$$\Delta G = \Delta G^\circ + RT \ln Q$$
$\Delta G^\circ$:標準状態でのギブズエネルギー変化(J/mol)、$R = 8.314 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$:気体定数、$T$:絶対温度(K)、$Q$:反応商
反応商 $Q$ は、反応に関わる物質の濃度(または活量)を用いて、平衡定数 $K$ と同じ形で定義しますが、 $K$ が平衡状態の値であるのに対し、$Q$ は任意の状態での値です。 $Q < K$ のとき $\Delta G < 0$ で反応は正方向に進み、$Q = K$ のとき $\Delta G = 0$ で平衡に達します。
この二つの関係式を組み合わせます。$\Delta G = -nFE$ より、$\Delta G^\circ = -nFE^\circ$ です ($E^\circ$ は標準起電力、すなわち標準状態での起電力)。 これを $\Delta G = \Delta G^\circ + RT\ln Q$ に代入します。
ステップ1:出発点となる二つの式を書き下します。
$$\Delta G = -nFE \qquad \cdots (1)$$
$$\Delta G = \Delta G^\circ + RT\ln Q \qquad \cdots (2)$$
ステップ2:(1) の標準状態版 $\Delta G^\circ = -nFE^\circ$ を (2) に代入します。
$$-nFE = -nFE^\circ + RT\ln Q$$
ステップ3:両辺を $-nF$ で割ります。
$$E = E^\circ - \frac{RT}{nF}\ln Q$$
これがネルンストの式です。
$$E = E^\circ - \frac{RT}{nF}\ln Q$$
$E$:起電力(V)、$E^\circ$:標準起電力(V)、$R = 8.314 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$:気体定数、$T$:絶対温度(K)、$n$:移動する電子の物質量(mol)、$F = 96485 \; \text{C/mol}$:ファラデー定数、$Q$:反応商
この式は、$\Delta G = \Delta G^\circ + RT\ln Q$ と $\Delta G = -nFE$ を組み合わせることで導出されます。 起電力 $E$ が標準起電力 $E^\circ$ と反応商 $Q$ で決まることを示しています。 $Q = 1$ のとき $\ln Q = 0$ となり、$E = E^\circ$ が再現されます。
導出はわずか3ステップで完了します。ネルンストの式は、ギブズエネルギーに関する二つの既知の関係式の直接的な帰結です。 ここまでで式の形が得られたので、次のセクションでは、この式の各項が何を意味しているかを丁寧に読み解きます。
ネルンストの式 $E = E^\circ - \dfrac{RT}{nF}\ln Q$ を構成する各項の意味を確認します。
ここで重要なのは、$-\dfrac{RT}{nF}\ln Q$ の符号です。
高校では「生成物の濃度が上がると反応は逆方向に進みやすくなる(起電力が下がる)」とルシャトリエの原理で定性的に予測します。
ネルンストの式はこれを定量化します。生成物の濃度が上がると $Q$ が増え、$\ln Q > 0$ となり、$E = E^\circ - \frac{RT}{nF}\ln Q$ の第2項が起電力を下げます。
逆に、反応物の濃度が上がると $Q$ が減り、$\ln Q < 0$ となり、起電力が上がります。ルシャトリエの原理で予測される方向と完全に一致し、さらに「何 V 変わるか」まで計算できます。
多くの電気化学の実験は 25 ℃($T = 298.15 \; \text{K}$)で行われます。 この温度で $\dfrac{RT}{F}$ の値を計算すると、次のようになります。
$$\frac{RT}{F} = \frac{8.314 \times 298.15}{96485} = 0.02569 \; \text{V}$$
自然対数 $\ln$ を常用対数 $\log$ に変換すると($\ln x = 2.303 \log x$)、ネルンストの式は次の形になります。
$$E = E^\circ - \frac{0.05916}{n}\log Q \quad (25 \; {}^\circ\text{C})$$
$0.05916 = \dfrac{2.303 \times 8.314 \times 298.15}{96485}$(V 単位)。$n$ は移動する電子の物質量(mol)、$Q$ は反応商です。
この簡略形は 25 ℃ 限定です。 常用対数を使うため暗算しやすく、電気化学の問題では頻繁に用いられます。 たとえば $n = 2$ のとき、$Q$ が 10 倍になると起電力は $0.05916/2 \approx 0.030 \; \text{V}$ だけ下がります。
ダニエル電池の全体反応は次の通りです。
$$\text{Zn}(s) + \text{Cu}^{2+}(aq) \rightarrow \text{Zn}^{2+}(aq) + \text{Cu}(s)$$
この反応では 2 mol の電子が移動するので $n = 2$ です。反応商は次のようになります(固体の活量は 1)。
$$Q = \frac{[\text{Zn}^{2+}]}{[\text{Cu}^{2+}]}$$
標準起電力は $E^\circ = 1.10 \; \text{V}$ です($E^\circ(\text{Cu}^{2+}/\text{Cu}) - E^\circ(\text{Zn}^{2+}/\text{Zn}) = 0.34 - (-0.76) = 1.10 \; \text{V}$)。 25 ℃ でのネルンストの式は次のようになります。
$$E = 1.10 - \frac{0.05916}{2}\log\frac{[\text{Zn}^{2+}]}{[\text{Cu}^{2+}]}$$
いくつかの濃度条件で起電力を計算してみます。
| $[\text{Zn}^{2+}]$ (mol/L) | $[\text{Cu}^{2+}]$ (mol/L) | $Q$ | $E$ (V) |
|---|---|---|---|
| 1.0 | 1.0 | 1 | $1.10 - \frac{0.05916}{2}\log 1 = 1.10$ |
| 1.0 | 0.010 | 100 | $1.10 - \frac{0.05916}{2}\log 100 = 1.10 - 0.059 = 1.04$ |
| 0.010 | 1.0 | 0.010 | $1.10 - \frac{0.05916}{2}\log 0.010 = 1.10 + 0.059 = 1.16$ |
| 0.10 | 0.10 | 1 | $1.10 - \frac{0.05916}{2}\log 1 = 1.10$ |
この表から読み取れることを整理します。
誤り:$Q$ に固体の Zn や Cu の「量」を含めてしまう。
正しい理解:固体の活量は 1 と定義されています(量が変わっても化学ポテンシャルが変わらないため)。 したがって、$Q$ には溶液中のイオン濃度(と気体の分圧)のみが現れます。 上の例で $Q = [\text{Zn}^{2+}]/[\text{Cu}^{2+}]$ となるのは、Zn(s) と Cu(s) の活量がともに 1 だからです。
ここまでで、ネルンストの式の導出・意味・具体的な計算方法を確認しました。 この式の力をさらに実感するために、次のセクションでは「同じ金属でも濃度差があれば起電力が生じる」という濃淡電池を取り上げます。
高校で学ぶ電池(ダニエル電池など)は、異なる金属(Zn と Cu)を使い、イオン化傾向の差から起電力を得ます。 では、同じ金属を同じ金属イオンの溶液に浸した場合はどうでしょうか。
たとえば、銅板を $\text{CuSO}_4$ 水溶液に浸した半電池を2つ用意し、塩橋でつなぎます。 ただし、一方の溶液は $[\text{Cu}^{2+}] = 1.0 \; \text{mol/L}$、もう一方は $[\text{Cu}^{2+}] = 0.010 \; \text{mol/L}$ とします。
標準起電力だけを見ると、両方の半電池の $E^\circ$ は同じ($+0.34 \; \text{V}$)なので、$E^\circ = 0$ となりそうです。 実際、この電池の全体反応は次のように書けます。
$$\text{Cu}^{2+}(c_1) \rightarrow \text{Cu}^{2+}(c_2) \qquad (c_1 > c_2)$$
ここで $c_1 = 1.0 \; \text{mol/L}$、$c_2 = 0.010 \; \text{mol/L}$ です。 濃い溶液側で $\text{Cu}^{2+}$ が還元され、薄い溶液側で Cu が酸化されることで、濃度差を解消する方向に反応が進みます。 全体として電子が $n = 2$ mol 移動します。
この電池の $E^\circ = 0$(同じ半反応の組み合わせ)なので、ネルンストの式は次のようになります。
$$E = 0 - \frac{0.05916}{2}\log\frac{c_2}{c_1} = -\frac{0.05916}{2}\log\frac{0.010}{1.0}$$
$$= -\frac{0.05916}{2} \times (-2) = 0.059 \; \text{V}$$
約 0.06 V の起電力が得られます。$E^\circ = 0$ であっても、濃度差さえあれば起電力が生じるのです。
濃淡電池では、$E^\circ = 0$ であるにもかかわらず起電力が生じます。 その駆動力は「濃度差を均一にしようとする自発的な傾向」、つまりエントロピー増大の方向です。
ネルンストの式で $E^\circ = 0$ とすると $E = -\frac{RT}{nF}\ln\frac{c_2}{c_1}$ となり、 起電力は純粋に濃度比で決まります。 濃度比が大きいほど起電力は大きく、濃度が等しくなると $E = 0$ になって反応が止まります。
これは、ギブズエネルギー変化 $\Delta G = RT\ln(c_2/c_1)$ がゼロでない($c_1 \neq c_2$ のとき)ことに対応しています。
濃淡電池の原理は、生体内でも重要な役割を果たしています。 神経細胞の細胞膜の内外では、$\text{K}^+$ や $\text{Na}^+$ の濃度が大きく異なり、 この濃度差が膜電位(約 $-70 \; \text{mV}$)を生み出しています。 この膜電位の大きさは、ネルンストの式と本質的に同じ形の式で計算できます。
濃淡電池は「同じ物質でも濃度差があれば電気的な仕事を取り出せる」ことを示す好例です。 次のセクションでは、ネルンストの式のもう一つの重要な応用として、水素電極を使ったpH測定の原理を取り上げます。
標準水素電極(SHE)は、すべての電極電位の基準として $E^\circ = 0 \; \text{V}$ と定義されています (📖 C-5-2 参照)。 その半反応は次の通りです。
$$2\text{H}^+(aq) + 2e^- \rightarrow \text{H}_2(g) \qquad E^\circ = 0 \; \text{V}$$
この半反応にネルンストの式を適用すると、水素電極の電極電位は $\text{H}^+$ の濃度に依存することがわかります。 $n = 2$、反応商は $Q = \dfrac{P_{\text{H}_2}/P^\circ}{[\text{H}^+]^2}$ です($P^\circ = 1 \; \text{bar}$)。
$\text{H}_2$ の圧力を標準状態($P_{\text{H}_2} = 1 \; \text{bar}$)に保つと、$P_{\text{H}_2}/P^\circ = 1$ なので反応商は簡単になります。
$$Q = \frac{1}{[\text{H}^+]^2}$$
25 ℃ でのネルンストの式に代入します。
$$E = 0 - \frac{0.05916}{2}\log\frac{1}{[\text{H}^+]^2}$$
$$= -\frac{0.05916}{2} \times (-2\log[\text{H}^+])$$
$$= 0.05916 \times \log[\text{H}^+]$$
ここで、pH の定義 $\text{pH} = -\log[\text{H}^+]$ を用いると、次の結果が得られます。
$$E = -0.05916 \times \text{pH} \quad \text{(V, 25} \; {}^\circ\text{C)}$$
$\text{H}_2$ の圧力を 1 bar に保った水素電極の電極電位は、pH にのみ依存します。
この式はネルンストの式から直接導かれた結果です。 水素電極と別の基準電極(たとえばカロメル電極)を組み合わせた電池の起電力を測定すれば、 溶液のpHを正確に決定できます。 これがpHメーターの原理的な基礎です。
| pH | $[\text{H}^+]$ (mol/L) | 水素電極の $E$ (V) |
|---|---|---|
| 0 | 1.0 | $0$(標準状態) |
| 1 | 0.10 | $-0.059$ |
| 7 | $1.0 \times 10^{-7}$ | $-0.414$ |
| 14 | $1.0 \times 10^{-14}$ | $-0.828$ |
pH が 1 変わるごとに、水素電極の電極電位は 0.059 V ずつ変化します。 この直線的な関係を利用することで、起電力の測定からpHを高精度で求めることができます。
実際のpHメーターでは、水素電極の代わりにガラス電極が使われます。 ガラス電極は薄いガラス膜を隔てて内部と外部に溶液が接しており、 ガラス膜の両側での $\text{H}^+$ の濃度差に応じた電位差が発生します。 この電位差もネルンストの式に従い、pH に対して 0.059 V/pH(25 ℃)の直線的な関係を示します。 ガラス電極は水素ガスを必要とせず、扱いが簡単なため、広く実用されています。
Q1. ネルンストの式 $E = E^\circ - \frac{RT}{nF}\ln Q$ において、$Q = 1$ のとき $E$ はどうなりますか。その理由も含めて答えてください。
Q2. ダニエル電池で $[\text{Cu}^{2+}]$ を増やすと起電力は上がりますか、下がりますか。ネルンストの式を用いて理由を説明してください。
Q3. 濃淡電池の標準起電力 $E^\circ$ はいくらですか。それでも起電力が生じるのはなぜですか。
Q4. 25 ℃ で水素電極($P_{\text{H}_2} = 1 \; \text{bar}$)を pH = 3 の溶液に浸したとき、電極電位は何 V ですか。
ネルンストの式 $E = E^\circ - \frac{RT}{nF}\ln Q$ に現れる各記号($E^\circ$, $R$, $T$, $n$, $F$, $Q$)の意味と単位を答えてください。 また、この式が「実験事実」「定義」「導出値」のいずれに分類されるか答えてください。
$E^\circ$:標準起電力(V)── 標準状態(各溶質 1 mol/L、気体 1 bar)での起電力。実測値。
$R$:気体定数 $= 8.314 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$。定義値。
$T$:絶対温度(K)。
$n$:反応で移動する電子の物質量(mol)。反応式の書き方で決まる。
$F$:ファラデー定数 $= 96485 \; \text{C/mol}$。定義値(電子 1 mol の電荷)。
$Q$:反応商。平衡定数と同じ形だが、任意の濃度で評価する。無次元量。
ネルンストの式は導出値に分類されます。$\Delta G = -nFE$ と $\Delta G = \Delta G^\circ + RT\ln Q$ という二つの関係から数学的に導かれた結果です。
25 ℃ で次の電池を考えます。
$$\text{Zn}(s) | \text{Zn}^{2+}(0.10 \; \text{mol/L}) \| \text{Cu}^{2+}(0.0010 \; \text{mol/L}) | \text{Cu}(s)$$
標準起電力 $E^\circ = 1.10 \; \text{V}$ として、この電池の起電力を求めてください。
全体反応:$\text{Zn}(s) + \text{Cu}^{2+}(aq) \rightarrow \text{Zn}^{2+}(aq) + \text{Cu}(s)$
$n = 2$、$Q = \dfrac{[\text{Zn}^{2+}]}{[\text{Cu}^{2+}]} = \dfrac{0.10}{0.0010} = 100$
$$E = 1.10 - \frac{0.05916}{2}\log 100 = 1.10 - \frac{0.05916}{2} \times 2 = 1.10 - 0.059 = 1.04 \; \text{V}$$
$[\text{Zn}^{2+}]$ が $[\text{Cu}^{2+}]$ より 100 倍多いので $Q = 100$ です。生成物($\text{Zn}^{2+}$)が反応物($\text{Cu}^{2+}$)に比べて多いため、$Q > 1$ となり起電力は $E^\circ$ より小さくなります。変化量は $0.059 \; \text{V}$ です。
25 ℃ で、2つの銀電極を $\text{AgNO}_3$ 水溶液に浸した濃淡電池を構成します。 一方の溶液の $[\text{Ag}^+] = 1.0 \; \text{mol/L}$、もう一方は $[\text{Ag}^+] = 0.0010 \; \text{mol/L}$ です。 この電池の起電力を求めてください($n = 1$)。
全体反応:$\text{Ag}^+(1.0 \; \text{mol/L}) \rightarrow \text{Ag}^+(0.0010 \; \text{mol/L})$
$E^\circ = 0$、$n = 1$、$Q = \dfrac{0.0010}{1.0} = 1.0 \times 10^{-3}$
$$E = 0 - \frac{0.05916}{1}\log(1.0 \times 10^{-3}) = -0.05916 \times (-3) = 0.177 \; \text{V}$$
$n = 1$ なので、ダニエル電池($n = 2$)の場合に比べて同じ濃度比でも起電力の変化が大きくなります。$[\text{Ag}^+]$ が 1000 倍($10^3$ 倍)異なるので、$\log Q = -3$ となり、起電力は $0.05916 \times 3 = 0.177 \; \text{V}$ です。
25 ℃ で、水素電極($P_{\text{H}_2} = 1 \; \text{bar}$)と標準銀-塩化銀電極($E^\circ = +0.222 \; \text{V}$)を組み合わせた電池を用いて、ある水溶液のpHを測定したところ、起電力が 0.526 V でした。
(a) この電池の全体反応を書いてください。
(b) 測定された起電力から、溶液のpHを求めてください。
(c) この方法で pH = 1 と pH = 13 の溶液を測定した場合の起電力をそれぞれ求め、測定精度について考察してください。
(a) 水素電極は酸化極(アノード)として働きます。
アノード:$\text{H}_2(g) \rightarrow 2\text{H}^+(aq) + 2e^-$
カソード:$2\text{AgCl}(s) + 2e^- \rightarrow 2\text{Ag}(s) + 2\text{Cl}^-(aq)$
全体:$\text{H}_2(g) + 2\text{AgCl}(s) \rightarrow 2\text{H}^+(aq) + 2\text{Ag}(s) + 2\text{Cl}^-(aq)$
(b) 起電力は次のように表せます。
$$E = E^\circ(\text{AgCl/Ag}) - E(\text{H}^+/\text{H}_2)$$
$$= 0.222 - (-0.05916 \times \text{pH}) = 0.222 + 0.05916 \times \text{pH}$$
$E = 0.526 \; \text{V}$ を代入すると、
$$0.526 = 0.222 + 0.05916 \times \text{pH}$$
$$\text{pH} = \frac{0.526 - 0.222}{0.05916} = \frac{0.304}{0.05916} = 5.14$$
(c)
pH = 1 のとき:$E = 0.222 + 0.05916 \times 1 = 0.281 \; \text{V}$
pH = 13 のとき:$E = 0.222 + 0.05916 \times 13 = 0.991 \; \text{V}$
pH が 1 変わるごとに起電力が 0.059 V 変化するため、pH 1 から pH 13 の範囲で起電力は 0.281 V から 0.991 V まで変わります。電位差の測定精度が $\pm 1 \; \text{mV}$ であれば、pH の精度は $\pm 1/59.16 \approx \pm 0.02$ となり、十分な精度が得られます。