高校化学では、ヘスの法則を「反応エンタルピーは経路によらず、始状態と終状態だけで決まる」という経験則として学び、エネルギー図を使って間接的に反応エンタルピーを求めます。
この法則がなぜ成り立つのかは、高校の範囲では説明されません。
大学化学では、熱力学第一法則から出発して内部エネルギー $U$ という状態量を導入し、定圧条件下でエンタルピー $H = U + PV$ を定義します。
$H$ が状態量であるという一つの性質から、ヘスの法則は経験則ではなく数学的な帰結として自動的に導かれます。
高校化学では、化学反応に伴うエネルギー変化を反応エンタルピー $\Delta H$ で表します。 たとえば、炭素(黒鉛)の燃焼では次のように書きます。
$$\text{C(黒鉛)} + \text{O}_2\text{(g)} \to \text{CO}_2\text{(g)} \quad \Delta H = -394 \; \text{kJ/mol}$$
$\Delta H < 0$ は発熱反応を意味し、この値は実験で測定されたものです(実測値)。
直接測定が難しい反応の $\Delta H$ を求めるために、高校ではヘスの法則(総熱量保存の法則)を使います。 この法則は「反応エンタルピーの総和は、反応の経路によらず、始状態と終状態だけで決まる」というものです。
たとえば、一酸化炭素 CO の生成エンタルピーを直接測定するのは困難です。 しかし、以下の2つの反応の $\Delta H$ が実測されていれば、ヘスの法則を使って間接的に求めることができます。
反応(1)から反応(2)を引くと、
$$\text{C(黒鉛)} + \frac{1}{2}\text{O}_2\text{(g)} \to \text{CO(g)} \quad \Delta H = \Delta H_1 - \Delta H_2 = -394 - (-283) = -111 \; \text{kJ/mol}$$
高校ではこの操作をエネルギー図を描いて視覚的に行います。 しかし、「なぜ反応エンタルピーを経路によらず足し引きできるのか」という根本的な問いには、高校の範囲では答えることができません。 次のセクションでは、大学の視点を導入することで、この問いに正面から答えます。
大学化学では、ヘスの法則を「実験で見つかった経験則」としてではなく、エンタルピー $H$ が状態量であることの数学的帰結として理解します。 状態量とは、系の現在の状態(温度・圧力・組成など)だけで値が決まり、そこに至った経路には依存しない量のことです。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. 熱力学第一法則 $\Delta U = q + w$ の意味を説明し、内部エネルギー $U$ が状態量であることを理解できる
2. 定圧条件下で $H = U + PV$ を定義し、$\Delta H = q_P$(定圧での熱量)を導出できる
3. 「状態量」と「経路関数」の違いを具体例で説明できる
4. ヘスの法則が「経験則」ではなく「状態量の数学的帰結」であることを論理的に説明できる
5. ヘスの法則を使った計算を、状態量の観点から再解釈できる
この理解を得るためには、まず「エネルギー保存則を化学の言葉で書き直す」必要があります。 次のセクションでは、熱力学第一法則を導入し、内部エネルギーという状態量を定義します。
物理で学ぶエネルギー保存則は、「エネルギーは生成も消滅もしない」というものです。 化学反応では、反応物と生成物の間でエネルギーのやり取りが起こりますが、全体としてはエネルギーは保存されます。
大学化学では、この保存則を熱力学第一法則として定式化します。 いま、ある化学反応系(反応容器内の物質)に注目します。 この系のエネルギーが変化する経路は、大きく2つあります。
系が外界から熱 $q$ を受け取り、外界から仕事 $w$ をされると、系のエネルギーは $q + w$ だけ増えます。 この系のエネルギーを内部エネルギー $U$ と呼びます。
$$\Delta U = q + w$$
$\Delta U$:系の内部エネルギーの変化量(J)、$q$:系が受け取った熱(J)、$w$:系がされた仕事(J)
この式は、エネルギー保存則を化学系に適用したものです。 符号の約束として、系が熱を受け取るとき $q > 0$、系が外界から仕事をされるとき $w > 0$ とします。 この式は自然法則(原理)であり、他の法則から導出されるものではなく、膨大な実験事実の裏づけによって認められています。
熱力学第一法則の重要な帰結は、内部エネルギー $U$ が状態量であるということです。 これはどういう意味でしょうか。
系の状態を指定するとは、温度・圧力・組成などを指定することです。 たとえば「$25 \; {}^\circ\text{C}$、1 atm で水 1 mol」は一つの状態です。 $U$ が状態量であるとは、系の状態が同じであれば $U$ の値は常に同じであり、その状態にどのような過程で到達したかには依存しないということです。
なぜ $U$ が状態量であるといえるのでしょうか。 熱力学第一法則 $\Delta U = q + w$ によると、$U$ の変化量は $q + w$ で決まります。 実験的に確かめられている事実として、同じ始状態から同じ終状態に至るとき、経路を変えると $q$ と $w$ はそれぞれ変わりますが、その和 $q + w$ は常に同じ値になります。 つまり $\Delta U$ は経路によらず一定であり、これは $U$ が系の状態だけで決まる量であることを意味しています。
一方、$q$(熱)と $w$(仕事)はそれぞれ単独では経路に依存します。 同じ始状態から同じ終状態に至るのに、ゆっくり加熱する方法も急速に加圧する方法もあり、それぞれで $q$ と $w$ の配分は異なります。 このように、経路によって値が変わる量を経路関数と呼びます。
ここまでで、熱力学第一法則から内部エネルギー $U$ という状態量が定義されました。 しかし、高校で扱う反応エンタルピー $\Delta H$ は、内部エネルギーの変化 $\Delta U$ ではなく、エンタルピーの変化です。 次のセクションでは、化学反応で最も一般的な条件である「定圧条件」に注目し、内部エネルギー $U$ からエンタルピー $H$ を自然に導入します。
化学実験の多くは、ビーカーやフラスコなど開放容器の中で、大気圧のもとで行われます。 このような定圧条件(圧力が一定の条件)では、反応に伴って気体が発生したり消費されたりすると、系の体積が変化します。
体積が変化するとき、系は外界に対して仕事をします(あるいは外界から仕事をされます)。 定圧条件で体積が $\Delta V$ だけ変化するとき、系がされる仕事は次の通りです。
$$w = -P\Delta V$$
ここで、系が膨張すると $\Delta V > 0$ であり、系は外界を押しのけるので外界に対して仕事をします。 系が「される」仕事は $-P\Delta V$ と負になります(系からエネルギーが出ていく)。 逆に、系が収縮すると $\Delta V < 0$ であり、外界から仕事をされるので $w > 0$ です。
熱力学第一法則 $\Delta U = q + w$ に $w = -P\Delta V$ を代入します。 定圧での熱を $q_P$ と書くと、
$$\Delta U = q_P - P\Delta V$$
$q_P$ について解くと、
$$q_P = \Delta U + P\Delta V$$
右辺を変形します。$P$ は一定なので、
$$q_P = (U_2 - U_1) + P(V_2 - V_1) = (U_2 + PV_2) - (U_1 + PV_1)$$
ここで $U + PV$ という組み合わせが自然に現れました。この量に名前をつけます。
$$H = U + PV$$
$H$:エンタルピー(J)、$U$:内部エネルギー(J)、$P$:圧力(Pa)、$V$:体積(m${}^3$)
この式は定義です。$U$、$P$、$V$ がいずれも系の状態だけで決まる量(状態量)であるため、その組み合わせである $H$ もまた状態量です。 エンタルピーは「内部エネルギーに、系が占める体積分の圧力エネルギーを加えたもの」と解釈できます。
この定義を使うと、先ほどの結果は次のように書けます。
$$\Delta H = q_P$$
定圧条件下では、エンタルピーの変化量はそのまま系が受け取った熱に等しくなります。
これが、高校で学ぶ「反応エンタルピー」の正体です。 定圧で化学反応が起こるとき、$q_P$ は実験で直接測定できます(熱量計で測ります)。 その測定値がそのまま $\Delta H$ になるため、高校では $\Delta H$ を実測値として扱います。 大学の視点では、$\Delta H = q_P$ は熱力学第一法則と $H = U + PV$ の定義から導かれた結果です。
ステップ1:熱力学第一法則 $\Delta U = q + w$(エネルギー保存の定式化)。
ステップ2:定圧条件で $w = -P\Delta V$(膨張・収縮に伴う仕事)を代入する。
ステップ3:$q_P = \Delta U + P\Delta V = (U_2 + PV_2) - (U_1 + PV_1)$ となる。
ステップ4:$H = U + PV$ と定義すると、$q_P = H_2 - H_1 = \Delta H$ が得られる。
誤解:反応エンタルピー $\Delta H$ は反応で出入りするエネルギーそのものである。
正しい理解:$\Delta H = \Delta U + P\Delta V$ です。反応で変化するエネルギー $\Delta U$ に、体積変化に伴う仕事 $P\Delta V$ を加えたものが $\Delta H$ です。 溶液中の反応のように体積変化がほとんどない場合は $\Delta H \approx \Delta U$ ですが、気体が発生・消費される反応では両者に差が生じます。 たとえば $25 \; {}^\circ\text{C}$ で気体が 1 mol 増える反応では、$P\Delta V = RT \approx 2.5 \; \text{kJ}$ 程度の差が出ます。
ここまでで、熱力学第一法則から出発して、エンタルピー $H = U + PV$ を定義し、$\Delta H = q_P$ を導きました。 そして、$H$ は $U$、$P$、$V$ という状態量の組み合わせなので、それ自体が状態量です。 次のセクションでは、「$H$ が状態量であること」が何を意味し、そこからヘスの法則がどのように導かれるかを見ます。
セクション3で述べたように、状態量とは「系の状態だけで値が決まり、そこに至った経路には依存しない量」です。 この性質を数学的に書くと、次のようになります。
系が状態Aから状態Bに変化するとき、状態量 $X$ の変化量は、
$$\Delta X = X_B - X_A$$
であり、この値はAからBへの経路によらず一定です。 この性質から、非常に重要な帰結が得られます。
状態量 $X$ について、A $\to$ B $\to$ C という変化を考えます。
A $\to$ C の変化量は $\Delta X_{A \to C} = X_C - X_A$ です。
一方、A $\to$ B $\to$ C と中間状態Bを経由しても、
$\Delta X_{A \to B} + \Delta X_{B \to C} = (X_B - X_A) + (X_C - X_B) = X_C - X_A = \Delta X_{A \to C}$
が成り立ちます。中間状態 $X_B$ は差し引きで消えます。
これは経路をいくつに分割しても成り立ちます。状態量の変化量は、途中でどのような経路をたどっても、始状態と終状態だけで決まります。
この性質は一見当たり前に思えるかもしれません。しかし、この性質が成り立つのは状態量に限られます。 経路関数である熱 $q$ や仕事 $w$ では、この加法性は成り立ちません。
身近なたとえで、状態量と経路関数の違いを確認します。
標高は状態量です。 東京(標高 0 m)から富士山の山頂(標高 3776 m)に登るとき、標高差は常に 3776 m です。 吉田ルートで登っても、富士宮ルートで登っても、ヘリコプターで直接行っても、標高差は変わりません。
歩いた距離は経路関数です。 吉田ルートと富士宮ルートでは歩行距離が異なります。 ヘリコプターなら歩行距離はゼロです。同じ始点と終点でも、経路によって値が変わります。
化学に戻ると、エンタルピー $H$ は標高に対応する状態量であり、熱 $q$ は歩行距離に対応する経路関数です。 ただし、定圧条件という特別な制約のもとでは $\Delta H = q_P$ が成り立つため、この場合に限って熱が状態量の変化に等しくなります。
以上の議論を、エンタルピー $H$ に適用します。
セクション4で示したように、$H = U + PV$ は状態量です。 したがって、化学反応のエンタルピー変化 $\Delta H$ は、反応の経路によらず、反応物(始状態)と生成物(終状態)だけで決まります。
セクション1で見た例を振り返ります。 C(黒鉛) から CO$_2$ を生成するとき、
$H$ が状態量であるため、どちらの経路でも始状態(C + O$_2$)と終状態(CO$_2$)が同じなら $\Delta H$ は同じです。 つまり、
$$\Delta H_{\text{C} \to \text{CO}} + \Delta H_{\text{CO} \to \text{CO}_2} = \Delta H_{\text{C} \to \text{CO}_2}$$
これがヘスの法則です。高校では「反応エンタルピーは経路によらない」という経験則として学びますが、大学ではこれが状態量の数学的性質から自動的に導かれる帰結であることがわかります。
$$\Delta H_{\text{total}} = \sum_i \Delta H_i$$
化学反応のエンタルピー変化の総和は、反応の経路によらず、始状態と終状態だけで決まります。
この法則は、ヘス(Germain Hess)が1840年に実験的に発見したものであり、歴史的には経験則です。 しかし、熱力学が体系化された現在では、$H$ が状態量であるという性質の直接的な帰結として理解されます。 「法則」という名称は歴史的なものであり、内容としては状態量の定理に近いものです。
誤解:化学反応で出入りする「熱」は、どんな条件でも経路によらず一定である。
正しい理解:熱 $q$ 自体は経路関数であり、一般には経路によって値が変わります。 ヘスの法則が成り立つのは、あくまでエンタルピー変化 $\Delta H$ について、つまり定圧条件に限定した場合です。 定圧条件下では $\Delta H = q_P$ なので、「定圧での熱が経路によらない」ように見えますが、これは「$H$ が状態量だから」であって「熱が本質的に経路によらない」わけではありません。
定圧条件で $\Delta H = q_P$ が成り立つように、定容条件(体積が一定の条件)では $\Delta U = q_V$ が成り立ちます。 ここで $q_V$ は定容での熱です。定容では体積変化がないため仕事がゼロ($w = -P\Delta V = 0$)となり、熱力学第一法則 $\Delta U = q + w$ から直接 $\Delta U = q_V$ が得られます。
$U$ も状態量なので、定容条件下の反応熱にもヘスの法則と同様の加法性が成り立ちます。 ただし、化学実験の多くは定圧条件で行われるため、実用上は $\Delta H$ を使うことがほとんどです。
ここまでで、エンタルピー $H$ が状態量であることからヘスの法則を導きました。 次のセクションでは、この理解をもとに、高校で行うヘスの法則の計算を大学の視点で再解釈します。
高校で学ぶ典型的な問題を、状態量の観点から解き直してみます。
メタン CH$_4$ の燃焼反応のエンタルピー変化を求めます。
$$\text{CH}_4\text{(g)} + 2\text{O}_2\text{(g)} \to \text{CO}_2\text{(g)} + 2\text{H}_2\text{O(l)}$$
各物質の標準生成エンタルピー $\Delta_f H^\circ$ は次の通りです(実測値)。
| 物質 | $\Delta_f H^\circ$ (kJ/mol) |
|---|---|
| CH$_4$(g) | $-74.8$ |
| O$_2$(g) | $0$(定義:単体の標準生成エンタルピーは 0) |
| CO$_2$(g) | $-393.5$ |
| H$_2$O(l) | $-285.8$ |
$H$ が状態量であることから、反応エンタルピーは次のように計算できます。
$$\Delta_r H^\circ = \sum (\Delta_f H^\circ)_{\text{products}} - \sum (\Delta_f H^\circ)_{\text{reactants}}$$
この式の意味を考えます。生成エンタルピー $\Delta_f H^\circ$ とは、「単体(標準状態)からその化合物を生成するときのエンタルピー変化」です。 単体の状態をエンタルピーの基準点($H = 0$ ではなく、$\Delta_f H^\circ = 0$ というゼロ点の規約)とすると、各化合物のエンタルピーの「高さ」が $\Delta_f H^\circ$ で表されます。
反応エンタルピーは「生成物のエンタルピーの合計」から「反応物のエンタルピーの合計」を引いたものです。 これは、状態量の変化が始状態と終状態だけで決まることの直接的な応用です。
具体的に計算します。
$$\Delta_r H^\circ = [(-393.5) + 2 \times (-285.8)] - [(-74.8) + 2 \times 0]$$
$$= (-393.5 - 571.6) - (-74.8) = -965.1 + 74.8 = -890.3 \; \text{kJ/mol}$$
メタンの燃焼エンタルピーは $-890.3 \; \text{kJ/mol}$ です。この値は実測値 $-890.4 \; \text{kJ/mol}$ とよく一致します。
高校では結合エネルギーを使って反応エンタルピーを推定する問題も扱います。 これも状態量の観点から理解できます。
水素と塩素から塩化水素が生成する反応を考えます。
$$\text{H}_2\text{(g)} + \text{Cl}_2\text{(g)} \to 2\text{HCl(g)}$$
結合エネルギー(実測値)は次の通りです。
| 結合 | 結合エネルギー (kJ/mol) |
|---|---|
| H$-$H | $436$ |
| Cl$-$Cl | $243$ |
| H$-$Cl | $431$ |
反応エンタルピーは「切れた結合のエネルギーの合計」から「できた結合のエネルギーの合計」を引いた値です。
$$\Delta_r H^\circ \approx (\text{H-H} + \text{Cl-Cl}) - 2(\text{H-Cl}) = (436 + 243) - 2 \times 431 = 679 - 862 = -183 \; \text{kJ/mol}$$
この方法が成り立つ根拠も状態量にあります。 「すべての結合を切ってバラバラの原子にする」という仮想的な中間状態を経由しても、$H$ が状態量であるため、$\Delta H$ は経路によりません。 実際の反応はこのような経路を通りませんが、ヘスの法則により、計算上はどのような経路を設定しても結果は同じです。
大学の視点を活かして、$\Delta H$ と $\Delta U$ の違いを具体的な数値で確認します。 セクション4で見たように、$\Delta H = \Delta U + \Delta(PV)$ です。 理想気体では $PV = nRT$ なので、定温・定圧条件のもとで気体の物質量が $\Delta n_{\text{gas}}$ だけ変化するとき、
$$\Delta(PV) = \Delta n_{\text{gas}} \cdot RT$$
メタンの燃焼反応では、
$$\text{CH}_4\text{(g)} + 2\text{O}_2\text{(g)} \to \text{CO}_2\text{(g)} + 2\text{H}_2\text{O(l)}$$
反応物側の気体は CH$_4$ + 2O$_2$ = 3 mol、生成物側の気体は CO$_2$ = 1 mol(H$_2$O は液体)なので、$\Delta n_{\text{gas}} = 1 - 3 = -2$ です。
$$\Delta(PV) = (-2) \times 8.314 \times 10^{-3} \times 298 = -4.95 \; \text{kJ/mol}$$
したがって、
$$\Delta U = \Delta H - \Delta(PV) = -890.3 - (-4.95) = -885.4 \; \text{kJ/mol}$$
$\Delta H = -890.3 \; \text{kJ/mol}$ に対して $\Delta U = -885.4 \; \text{kJ/mol}$ であり、差は約 5 kJ/mol です。 $\Delta H$ 全体(約 890 kJ/mol)に比べると小さい差ですが、気体の物質量が大きく変化する反応ではこの差が無視できなくなる場合があります。
Q1. 熱力学第一法則 $\Delta U = q + w$ において、$q$ と $w$ はそれぞれ状態量ですか、経路関数ですか。
Q2. エンタルピー $H = U + PV$ が状態量であるのはなぜですか。
Q3. 定圧条件で $\Delta H = q_P$ が成り立つことを、熱力学第一法則から導いてください。
Q4. 「ヘスの法則は経験則である」という記述と「ヘスの法則は状態量の帰結である」という記述は矛盾しますか。説明してください。
次の(a)〜(d)のうち、状態量であるものをすべて選んでください。
(a) 内部エネルギー $U$ (b) 熱 $q$ (c) エンタルピー $H$ (d) 仕事 $w$
(a) と (c) が状態量です。
$U$ は系のエネルギーであり状態だけで決まります。$H = U + PV$ も、状態量の組み合わせなので状態量です。一方、$q$(熱)と $w$(仕事)は経路関数であり、同じ始状態・終状態でも過程によって値が変わります。
エタノール C$_2$H$_5$OH(l) の燃焼反応のエンタルピー変化 $\Delta_r H^\circ$ を、以下の標準生成エンタルピーから求めてください。
$$\text{C}_2\text{H}_5\text{OH(l)} + 3\text{O}_2\text{(g)} \to 2\text{CO}_2\text{(g)} + 3\text{H}_2\text{O(l)}$$
$\Delta_f H^\circ$:C$_2$H$_5$OH(l) = $-277.7$ kJ/mol、CO$_2$(g) = $-393.5$ kJ/mol、H$_2$O(l) = $-285.8$ kJ/mol、O$_2$(g) = $0$ kJ/mol
$$\Delta_r H^\circ = [2 \times (-393.5) + 3 \times (-285.8)] - [(-277.7) + 3 \times 0]$$
$$= (-787.0 - 857.4) - (-277.7) = -1644.4 + 277.7 = -1366.7 \; \text{kJ/mol}$$
$\Delta_r H^\circ = \sum (\Delta_f H^\circ)_{\text{products}} - \sum (\Delta_f H^\circ)_{\text{reactants}}$ を使いました。生成エンタルピーは「単体からの生成」を基準としたエンタルピーの「高さ」であり、$H$ が状態量であることから、この差し引きで反応エンタルピーが得られます。実測値 $-1367$ kJ/mol とよく一致しています。
メタンの燃焼反応 CH$_4$(g) + 2O$_2$(g) $\to$ CO$_2$(g) + 2H$_2$O(l) について、$\Delta H = -890.3$ kJ/mol であるとき、$\Delta U$ を求めてください。 $T = 298 \; \text{K}$、$R = 8.314 \times 10^{-3} \; \text{kJ/(mol} \cdot \text{K)}$ とします。
気体の物質量変化:$\Delta n_{\text{gas}} = 1 - (1 + 2) = -2$
$$\Delta U = \Delta H - \Delta n_{\text{gas}} \cdot RT = -890.3 - (-2) \times 8.314 \times 10^{-3} \times 298$$
$$= -890.3 + 4.95 = -885.4 \; \text{kJ/mol}$$
$\Delta H = \Delta U + \Delta n_{\text{gas}} \cdot RT$ を変形して $\Delta U = \Delta H - \Delta n_{\text{gas}} \cdot RT$ としました。生成物側の気体は CO$_2$ の 1 mol のみ(H$_2$O は液体)であり、反応物側の気体は CH$_4$ + 2O$_2$ = 3 mol なので、$\Delta n_{\text{gas}} = -2$ です。$\Delta H$ と $\Delta U$ の差は約 5 kJ/mol であり、$\Delta H$ 全体に比べて小さいですが、無視できない大きさです。
ある生徒が「ヘスの法則は、熱が状態量であることを示している」と述べました。 この主張の誤りを指摘し、正しい説明を与えてください。 解答には「状態量」「経路関数」「エンタルピー」「定圧条件」の4つの用語を必ず使用してください。
熱 $q$ は経路関数であり、同じ始状態と終状態を結ぶ変化でも、過程によって値が異なります。したがって、「熱が状態量である」という主張は誤りです。
ヘスの法則が示しているのは、エンタルピー $H$ が状態量であるという事実です。状態量の変化は経路によらず始状態と終状態だけで決まるため、定圧条件での反応エンタルピー $\Delta H$ はどのような反応経路を経ても同じ値になります。
定圧条件下では $\Delta H = q_P$ が成り立つため、「定圧での熱が経路によらない」ように見えますが、これは熱が本質的に経路に依存しないことを意味するのではなく、エンタルピーという状態量の変化に等しいという特別な関係が定圧条件で成り立つためです。