高校化学では、「温度が上がると反応速度が大きくなる」ことを、分子の運動エネルギー分布を使って定性的に説明します。
活性化エネルギー $E_a$ 以上のエネルギーを持つ分子の割合が温度上昇とともに増え、その結果として反応速度が上がる、という論理です。
しかし、「温度を 10 K 上げたら速度定数は具体的にどれだけ変わるのか」を計算する方法は、高校の範囲では扱いません。
大学化学では、アレニウスの式 $k = A \exp(-E_a/RT)$ を導入することで、速度定数 $k$ の温度依存性を定量的に記述します。
この式はボルツマン分布 ── 活性化エネルギーを超える分子の割合が $\exp(-E_a/RT)$ に比例するという統計力学の結果 ── を基盤としています。
さらに、$\ln k$ を $1/T$ に対してプロットするアレニウスプロットから、実験的に $E_a$ を決定する方法を学びます。
高校化学では、化学反応が起こるために分子が越えなければならないエネルギーの壁を活性化エネルギー $E_a$ と呼びます。 反応物の分子が衝突しても、その運動エネルギーが $E_a$ に達していなければ反応は起こりません。
温度が上がると反応速度が大きくなる理由は、次のように説明されます。
高校ではこの説明を使って「温度が高いほど速い」「活性化エネルギーが小さいほど速い」という定性的な判断を行います。 また、速度定数 $k$ を含む速度式 $v = k[\text{A}]^a[\text{B}]^b$ は高校の範囲ですが、$k$ が温度によってどのように変化するかを数式で表すことはしません。
次のセクションでは、この定性的な理解を定量化する方法を見ていきます。
大学化学では、速度定数 $k$ の温度依存性を一つの式で定量的に記述します。 それがアレニウスの式です。 高校で学んだ「$E_a$ 以上のエネルギーを持つ分子の割合が温度とともに増える」という定性的な描像を、$\exp(-E_a/RT)$ という一つの関数(ボルツマン因子)で表現することが出発点になります。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. ボルツマン因子 $\exp(-E_a/RT)$ が「活性化エネルギーを超える分子の割合」を表すことを説明できる
2. アレニウスの式 $k = A\exp(-E_a/RT)$ の各項($A$, $E_a$, $R$, $T$)の物理的意味を記述できる
3. アレニウスの式の対数形 $\ln k = \ln A - E_a/(RT)$ を導き、$\ln k$ vs $1/T$ プロットの傾きと切片の意味を説明できる
4. 2つの温度における速度定数のデータから $E_a$ を計算できる
5. 頻度因子 $A$ の物理的意味(衝突頻度と立体因子)を説明できる
アレニウスの式を理解するためには、まず「$E_a$ 以上のエネルギーを持つ分子の割合」を定量的に表すボルツマン因子を導入する必要があります。 次のセクションでその準備を行います。
📖 C-6-1 気体分子運動論で、気体分子の速度にはばらつきがあり、そのばらつきはマクスウェル-ボルツマン分布に従うことを学びました。 同じ温度でも、速い分子もあれば遅い分子もあります。 このことは運動エネルギーについても同様で、分子の運動エネルギーにもばらつきがあります。
ここで重要なのは、ある特定のエネルギー $E$ 以上の運動エネルギーを持つ分子の割合がどれだけあるか、という問いです。 統計力学の結果として、温度 $T$ の気体において、エネルギー $E$ 以上を持つ分子の割合は次の形で表されます。
$$(\text{割合}) \propto \exp\!\left(-\frac{E}{RT}\right)$$
ここで $R = 8.314 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$ は気体定数、$T$ は絶対温度(K)です。 この $\exp(-E/RT)$ をボルツマン因子と呼びます。
ボルツマン因子 $\exp(-E/RT)$ は指数関数ですから、$E$ と $RT$ の大小関係によって値が大きく変わります。 具体的に数値を見てみます。
| $E/(RT)$ の値 | $\exp(-E/(RT))$ | 意味 |
|---|---|---|
| 0 | 1.00 | エネルギー障壁なし ── すべての分子が条件を満たす |
| 1 | 0.368 | 約 37% の分子がこのエネルギーを超える |
| 5 | $6.74 \times 10^{-3}$ | 約 0.7% ── かなり少数の分子しか超えない |
| 10 | $4.54 \times 10^{-5}$ | 約 0.005% ── ごくわずか |
| 40 | $4.25 \times 10^{-18}$ | 事実上ゼロ ── ほぼ反応しない |
$E/(RT)$ が大きいほど、すなわち活性化エネルギー $E$ が大きいほど、あるいは温度 $T$ が低いほど、ボルツマン因子は急激に小さくなります。 これは高校で学んだ「$E_a$ が大きいと反応が遅い」「温度が低いと反応が遅い」という定性的な理解の定量的な根拠です。
典型的な化学反応の活性化エネルギーは $50 \sim 200 \; \text{kJ/mol}$ 程度です。 $E_a = 100 \; \text{kJ/mol}$ の反応について、温度を変えたときのボルツマン因子の変化を計算してみます。
| 温度 $T$ (K) | $E_a/(RT)$ | $\exp(-E_a/(RT))$ | 300 K に対する比 |
|---|---|---|---|
| 300 | 40.1 | $3.5 \times 10^{-18}$ | 1 |
| 310 | 38.8 | $1.3 \times 10^{-17}$ | 3.7 |
| 400 | 30.1 | $8.6 \times 10^{-14}$ | $2.5 \times 10^{4}$ |
| 600 | 20.1 | $2.0 \times 10^{-9}$ | $5.7 \times 10^{8}$ |
300 K から 310 K へのわずか 10 K の温度上昇で、ボルツマン因子は約 3.7 倍になっています。 高校でよく言われる「温度を 10 K 上げると反応速度が約 2〜3 倍になる」という経験則は、このボルツマン因子の温度依存性から理解できます($E_a$ の値によって倍率は変わります)。
ここまでで、活性化エネルギーを超える分子の割合がボルツマン因子 $\exp(-E_a/RT)$ で表されることがわかりました。 次のセクションでは、このボルツマン因子を速度定数 $k$ の式に組み込み、アレニウスの式を構築します。
化学反応が起こるためには、2つの条件が同時に満たされる必要があります。
速度定数 $k$ はこの2つの要因の積として表されます。 条件1に対応する因子を $A$(頻度因子、または前指数因子と呼びます)、条件2に対応する因子をボルツマン因子とすると、次の式が得られます。
$$k = A \exp\!\left(-\frac{E_a}{RT}\right)$$
$k$:速度定数(単位は反応の次数による)、$A$:頻度因子($k$ と同じ単位)、$E_a$:活性化エネルギー(J/mol)、$R = 8.314 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$:気体定数、$T$:絶対温度(K)
この式は、スヴァンテ・アレニウスが1889年に反応速度データの温度依存性を分析して提案しました。 当初は経験的な関係式でしたが、後にボルツマン分布に基づく理論的な裏づけが得られました。 $A$ と $E_a$ は反応ごとに異なる定数であり、実験データから決定されます。
アレニウスの式の各項が何を表しているかを整理します。
$\exp(-E_a/RT)$(ボルツマン因子):セクション3で導入した通り、活性化エネルギー $E_a$ を超える運動エネルギーを持つ分子の割合に比例する因子です。温度 $T$ が上がるとこの値が大きくなり、速度定数 $k$ が増加します。
$A$(頻度因子):ボルツマン因子以外のすべての効果をまとめた定数です。具体的には、分子同士の衝突頻度と、衝突の際に反応が起こるのに適した向きで衝突する確率(立体因子 $p$)の積に相当します。$A$ の値が大きい反応は、分子が頻繁に衝突し、かつ有効な配向で衝突する確率が高い反応です。
$E_a$(活性化エネルギー):反応が進行するために分子が超えなければならないエネルギー障壁です。$E_a$ が大きいほどボルツマン因子が小さくなり、速度定数 $k$ は小さくなります。$E_a$ の値は反応ごとに異なり、実験データから決定されます。
アレニウスの式 $k = A\exp(-E_a/RT)$ は、次のように読むことができます。
「速度定数 $k$ は、分子が適切な配向で衝突する頻度($A$)に、そのうち十分なエネルギーを持っている衝突の割合($\exp(-E_a/RT)$)を掛けたものである」
$A$ は主に温度に依存しません(厳密にはわずかな温度依存性がありますが、$\exp(-E_a/RT)$ の急激な変化に比べると無視できます)。速度定数 $k$ の温度依存性は、ほとんどボルツマン因子 $\exp(-E_a/RT)$ によって決まります。
よくある間違い:$E_a = 100 \; \text{kJ/mol}$ を $R = 8.314 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$ とそのまま計算して、$E_a/RT$ の値がおかしくなる。
正しい計算:$R$ の単位は J/(mol$\cdot$K) なので、$E_a$ も J/mol に揃える必要があります。$E_a = 100 \; \text{kJ/mol} = 100 \times 10^3 \; \text{J/mol} = 1.00 \times 10^5 \; \text{J/mol}$ として代入します。
気相の二分子反応では、$A$ の典型的な値は $10^{10} \sim 10^{11} \; \text{L/(mol} \cdot \text{s)}$ 程度です。 これは気体分子の衝突頻度から見積もられる値と同程度であり、立体因子 $p$ が1に近い(つまり、どの向きで衝突しても反応が起こりやすい)反応に対応します。
一方、複雑な分子の反応では $A$ が $10^{7} \sim 10^{8} \; \text{L/(mol} \cdot \text{s)}$ 程度まで小さくなることがあります。 これは立体因子 $p$ が小さい(特定の向きでしか反応しない)ことを反映しています。
ここまでで、アレニウスの式の構造と各項の意味がわかりました。 しかし、実験で直接得られるのは「いくつかの温度での速度定数 $k$ の値」であり、$A$ と $E_a$ の値は直接測定できません。 次のセクションでは、アレニウスの式を対数形に変換し、実験データから $E_a$ を求める方法を見ていきます。
アレニウスの式 $k = A\exp(-E_a/RT)$ の両辺の自然対数をとると、次のようになります。
出発点:$k = A\exp(-E_a/RT)$
ステップ1:両辺の自然対数をとります。
$$\ln k = \ln\!\left[A\exp\!\left(-\frac{E_a}{RT}\right)\right]$$
ステップ2:対数の性質 $\ln(ab) = \ln a + \ln b$ を使います。
$$\ln k = \ln A + \ln\!\left[\exp\!\left(-\frac{E_a}{RT}\right)\right]$$
ステップ3:$\ln(\exp x) = x$ より、
$$\ln k = \ln A - \frac{E_a}{RT}$$
ステップ4:$1/T$ について整理します。
$$\ln k = -\frac{E_a}{R} \cdot \frac{1}{T} + \ln A$$
$$\ln k = -\frac{E_a}{R} \cdot \frac{1}{T} + \ln A$$
これは $y = ax + b$ の形をしています。$y = \ln k$、$x = 1/T$ とおくと、傾き $a = -E_a/R$、切片 $b = \ln A$ です。
したがって、いくつかの温度 $T$ で速度定数 $k$ を実験的に測定し、$\ln k$ を $1/T$ に対してプロットすると、直線が得られます。 この直線の傾きから $E_a$ を、切片から $A$ を決定できます。 このグラフをアレニウスプロットと呼びます。
アレニウスプロットでは、横軸に $1/T$(K${}^{-1}$)、縦軸に $\ln k$ をとります。 直線の傾きは $-E_a/R$ ですから、傾きが急(絶対値が大きい)ほど活性化エネルギーが大きいことを意味します。
なお、$1/T$ は温度が上がると値が小さくなることに注意してください。 アレニウスプロットでは、グラフの左側($1/T$ が大きい)が低温、右側($1/T$ が小さい)が高温に対応します。 傾きが負なので、温度が上がる($1/T$ が減る)と $\ln k$ は増加する、つまり $k$ が大きくなります。 これは「温度が上がると反応が速くなる」という事実と整合しています。
2つの異なる温度 $T_1$ と $T_2$ で速度定数 $k_1$ と $k_2$ が測定された場合、アレニウスの式の対数形を連立して $E_a$ を求めることができます。
温度 $T_1$ での式:
$$\ln k_1 = -\frac{E_a}{R} \cdot \frac{1}{T_1} + \ln A$$
温度 $T_2$ での式:
$$\ln k_2 = -\frac{E_a}{R} \cdot \frac{1}{T_2} + \ln A$$
辺々引き算して $\ln A$ を消去:
$$\ln k_2 - \ln k_1 = -\frac{E_a}{R}\left(\frac{1}{T_2} - \frac{1}{T_1}\right)$$
$E_a$ について解く:
$$E_a = -R \cdot \frac{\ln k_2 - \ln k_1}{\dfrac{1}{T_2} - \dfrac{1}{T_1}} = R \cdot \frac{\ln(k_2/k_1)}{\dfrac{1}{T_1} - \dfrac{1}{T_2}}$$
$$\ln\frac{k_2}{k_1} = -\frac{E_a}{R}\left(\frac{1}{T_2} - \frac{1}{T_1}\right)$$
$k_1$, $k_2$:温度 $T_1$, $T_2$ における速度定数、$E_a$:活性化エネルギー(J/mol)、$R = 8.314 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$
この式は、アレニウスの対数形を2つの温度について書き下し、$\ln A$ を消去して得られます。 実験で2つの温度における $k$ の値がわかれば、$E_a$ を直接計算できます。 アレニウスプロット(多数の点から直線を引く方法)が使えない場合に特に有用です。
ここまでで、アレニウスの式を対数形に変換し、実験データから $E_a$ を求める2つの方法(アレニウスプロットと2点法)を導きました。 次のセクションでは、これらの方法を具体的な数値を使って実践します。
ある一次反応の速度定数が、$T_1 = 300 \; \text{K}$ で $k_1 = 3.0 \times 10^{-3} \; \text{s}^{-1}$、$T_2 = 350 \; \text{K}$ で $k_2 = 2.4 \times 10^{-1} \; \text{s}^{-1}$ であったとします。活性化エネルギー $E_a$ を求めます。
2点法の式を使います。
$$\ln\frac{k_2}{k_1} = \ln\frac{2.4 \times 10^{-1}}{3.0 \times 10^{-3}} = \ln 80 = 4.38$$
$$\frac{1}{T_1} - \frac{1}{T_2} = \frac{1}{300} - \frac{1}{350} = \frac{350 - 300}{300 \times 350} = \frac{50}{105000} = 4.76 \times 10^{-4} \; \text{K}^{-1}$$
$$E_a = R \cdot \frac{\ln(k_2/k_1)}{\dfrac{1}{T_1} - \dfrac{1}{T_2}} = 8.314 \times \frac{4.38}{4.76 \times 10^{-4}}$$
$$E_a = 8.314 \times 9200 = 7.65 \times 10^4 \; \text{J/mol} = 76.5 \; \text{kJ/mol}$$
この反応の活性化エネルギーは約 $76.5 \; \text{kJ/mol}$ です。 これは典型的な化学反応の $E_a$($50 \sim 200 \; \text{kJ/mol}$)の範囲内にあります。
計算例1で求めた $E_a = 76.5 \; \text{kJ/mol}$ を使って、温度を 300 K から 310 K に上げたとき、速度定数が何倍になるかを予測します。
$$\ln\frac{k_2}{k_1} = -\frac{E_a}{R}\left(\frac{1}{T_2} - \frac{1}{T_1}\right) = -\frac{7.65 \times 10^4}{8.314}\left(\frac{1}{310} - \frac{1}{300}\right)$$
$$\frac{1}{310} - \frac{1}{300} = \frac{300 - 310}{310 \times 300} = \frac{-10}{93000} = -1.08 \times 10^{-4} \; \text{K}^{-1}$$
$$\ln\frac{k_2}{k_1} = -9200 \times (-1.08 \times 10^{-4}) = 0.993$$
$$\frac{k_2}{k_1} = e^{0.993} = 2.70$$
温度を 300 K から 310 K へわずか 10 K 上げただけで、速度定数は約 2.7 倍になります。 セクション3でボルツマン因子の変化を計算したとき、$E_a = 100 \; \text{kJ/mol}$ で約 3.7 倍という結果を得ましたが、$E_a = 76.5 \; \text{kJ/mol}$ ではそれより小さい倍率になっています。 $E_a$ が小さいほど温度変化に対する感度が低いことが、この結果からも確認できます。
次の表は、ある反応について5つの温度で測定された速度定数のデータです。
| $T$ (K) | $1/T$ ($\times 10^{-3}$ K${}^{-1}$) | $k$ (s${}^{-1}$) | $\ln k$ |
|---|---|---|---|
| 300 | 3.333 | $7.9 \times 10^{-7}$ | $-14.05$ |
| 320 | 3.125 | $8.9 \times 10^{-6}$ | $-11.63$ |
| 340 | 2.941 | $7.9 \times 10^{-5}$ | $-9.45$ |
| 360 | 2.778 | $5.6 \times 10^{-4}$ | $-7.49$ |
| 380 | 2.632 | $3.2 \times 10^{-3}$ | $-5.74$ |
$\ln k$ を $1/T$ に対してプロットすると、ほぼ直線上に並びます。 直線の傾きを、表の最初と最後のデータ点から求めます。
$$\text{傾き} = \frac{(-5.74) - (-14.05)}{(2.632 - 3.333) \times 10^{-3}} = \frac{8.31}{-7.01 \times 10^{-4}} = -1.19 \times 10^4 \; \text{K}$$
傾き $= -E_a/R$ なので、
$$E_a = -R \times \text{傾き} = -8.314 \times (-1.19 \times 10^4) = 9.89 \times 10^4 \; \text{J/mol} = 98.9 \; \text{kJ/mol}$$
この反応の活性化エネルギーは約 $99 \; \text{kJ/mol}$ と求められます。 実際にはすべてのデータ点を用いて最小二乗法で直線を引くのがより正確ですが、2点法でも概算値を得ることができます。
高校でも学ぶように、触媒は活性化エネルギー $E_a$ を下げることで反応速度を大きくします。 アレニウスの式の観点では、触媒は $E_a$ の値を変える(小さくする)ことに相当します。 $\exp(-E_a/RT)$ の $E_a$ が小さくなるとボルツマン因子が大きくなり、$k$ が増加します。
一方、頻度因子 $A$ は触媒の有無であまり変化しません。 したがって、触媒の効果は主にアレニウスプロットにおける直線の傾きの変化(絶対値が小さくなる)として現れます。 触媒とアレニウスの式の詳しい関係は 📖 C-9-2 触媒と反応経路で扱います。
Q1. アレニウスの式 $k = A\exp(-E_a/RT)$ において、温度 $T$ を上げたとき $\exp(-E_a/RT)$ の値はどう変化しますか。また、その変化が速度定数 $k$ にどう影響するか説明してください。
Q2. アレニウスプロット($\ln k$ vs $1/T$)の傾きが $-1.2 \times 10^4 \; \text{K}$ であったとき、活性化エネルギー $E_a$ はいくらですか。$R = 8.314 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$ とします。
Q3. 2つの反応 X と Y のアレニウスプロットにおいて、反応 X の直線の方が反応 Y の直線より傾きの絶対値が大きいとき、どちらの反応の活性化エネルギーが大きいですか。また、どちらの反応が温度変化に対してより敏感ですか。
Q4. アレニウスの式において、頻度因子 $A$ の物理的意味を「衝突頻度」と「立体因子」という用語を用いて説明してください。
アレニウスの式 $k = A\exp(-E_a/RT)$ について、以下の問いに答えてください。
(a) この式の自然対数をとった形(対数形)を書いてください。
(b) 対数形を $y = ax + b$ の形と見なしたとき、$y$, $x$, $a$, $b$ はそれぞれ何に対応しますか。
(a) $\ln k = -\dfrac{E_a}{R} \cdot \dfrac{1}{T} + \ln A$
(b) $y = \ln k$、$x = 1/T$、$a = -E_a/R$(傾き)、$b = \ln A$(切片)
ある反応の速度定数が $T_1 = 290 \; \text{K}$ で $k_1 = 1.0 \times 10^{-4} \; \text{s}^{-1}$、$T_2 = 330 \; \text{K}$ で $k_2 = 5.0 \times 10^{-2} \; \text{s}^{-1}$ であった。 この反応の活性化エネルギー $E_a$ を kJ/mol 単位で求めてください。$R = 8.314 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$ とします。
$$\ln\frac{k_2}{k_1} = \ln\frac{5.0 \times 10^{-2}}{1.0 \times 10^{-4}} = \ln 500 = 6.21$$
$$\frac{1}{T_1} - \frac{1}{T_2} = \frac{1}{290} - \frac{1}{330} = \frac{330 - 290}{290 \times 330} = \frac{40}{95700} = 4.18 \times 10^{-4} \; \text{K}^{-1}$$
$$E_a = R \cdot \frac{\ln(k_2/k_1)}{\dfrac{1}{T_1} - \dfrac{1}{T_2}} = 8.314 \times \frac{6.21}{4.18 \times 10^{-4}} = 8.314 \times 14860 = 1.24 \times 10^5 \; \text{J/mol}$$
$$E_a = 124 \; \text{kJ/mol}$$
$E_a$ が 100 kJ/mol を超えているので、温度変化に対して速度定数が敏感に変化する反応です。実際に 40 K の温度上昇で速度定数は 500 倍にもなっています。$E_a$ の単位は J/mol で計算し、最後に kJ/mol に変換することを忘れないようにしてください。
活性化エネルギーが $E_a = 50.0 \; \text{kJ/mol}$ の反応において、$300 \; \text{K}$ での速度定数が $k_{300} = 2.0 \times 10^{-3} \; \text{s}^{-1}$ であった。 $400 \; \text{K}$ での速度定数 $k_{400}$ を求めてください。
$$\ln\frac{k_{400}}{k_{300}} = -\frac{E_a}{R}\left(\frac{1}{400} - \frac{1}{300}\right)$$
$$= -\frac{5.00 \times 10^4}{8.314}\left(\frac{1}{400} - \frac{1}{300}\right) = -6014 \times \left(-8.33 \times 10^{-4}\right) = 5.01$$
$$\frac{k_{400}}{k_{300}} = e^{5.01} = 150$$
$$k_{400} = 150 \times 2.0 \times 10^{-3} = 0.30 \; \text{s}^{-1}$$
100 K の温度上昇で速度定数は約 150 倍になりました。$E_a = 50 \; \text{kJ/mol}$ は比較的小さな活性化エネルギーですが、100 K という大きな温度変化に対しては顕著な効果があります。$E_a$ を J/mol に換算($50.0 \; \text{kJ/mol} = 5.00 \times 10^4 \; \text{J/mol}$)してから代入している点に注意してください。
可逆反応 A $\rightleftharpoons$ B について、正反応の活性化エネルギーを $E_a^{(\text{f})} = 80 \; \text{kJ/mol}$、逆反応の活性化エネルギーを $E_a^{(\text{r})} = 120 \; \text{kJ/mol}$ とします。
(a) この反応の反応エンタルピー $\Delta H$ はいくらですか(発熱か吸熱かも答えてください)。
(b) 温度を上げたとき、正反応と逆反応のどちらの速度定数がより大きく増加しますか。理由をアレニウスの式を使って説明してください。
(c) (b)の結果は、ルシャトリエの原理による平衡移動の方向と整合していますか。説明してください。
(a) 反応エンタルピー $\Delta H$ は、正反応と逆反応の活性化エネルギーの差から求められます。
$$\Delta H = E_a^{(\text{f})} - E_a^{(\text{r})} = 80 - 120 = -40 \; \text{kJ/mol}$$
$\Delta H < 0$ なので、この反応は発熱反応です。
(b) アレニウスの式 $k = A\exp(-E_a/RT)$ において、温度を上げたときの $k$ の変化率は $E_a$ が大きいほど大きくなります(ボルツマン因子 $\exp(-E_a/RT)$ の温度感度が $E_a$ に比例するため)。 $E_a^{(\text{r})} = 120 \; \text{kJ/mol} > E_a^{(\text{f})} = 80 \; \text{kJ/mol}$ なので、温度を上げたとき逆反応の速度定数の方がより大きく増加します。
(c) 整合しています。この反応は発熱反応($\Delta H < 0$)であり、ルシャトリエの原理によれば、温度を上げると平衡は吸熱方向(逆反応の方向)に移動します。(b)で逆反応の速度定数の増加率が正反応より大きいことを示しましたが、これは逆反応がより促進されて平衡が逆反応方向(左)に移動することを意味しており、ルシャトリエの原理と整合しています。
この問題は、アレニウスの式が速度論的な式であるにもかかわらず、熱力学的な結果(ルシャトリエの原理)と矛盾しないことを確認するものです。平衡定数 $K = k_{\text{f}}/k_{\text{r}}$ の温度依存性は、正反応と逆反応それぞれのアレニウスの式の比から導かれ、ファントホッフの式と一致します。速度論と熱力学は異なる視点ですが、互いに整合した結果を与えます。