はじめに

高校化学は正しい。しかし、「なぜそうなるか」が省かれている。大学化学はその「なぜ」に答える。

1この教科書について

本書は、高校化学を学んでいる生徒が「大学ではこの内容をどう扱うのか」を知るための教科書です。

高校化学は正しい化学です。しかし、高校の段階ではいくつかの制約があり、「なぜそうなるか」の説明が十分にはできません。大学の化学は、より強力な道具を使ってその制約を解消します。

2「電子の視点」は難しくするためのものではない

高校化学では、元素の性質や反応を個別に覚えます。周期表の傾向、酸塩基の強弱、有機反応の生成物...。覚える量は膨大です。一方、大学化学では、これらを電子構造という一つの視点で統一的に理解します。

高校と大学の比較
テーマ高校化学大学化学
元素の性質個別に暗記する電子構造から予測する
化学反応生成物を覚える反応機構で予測する
なぜ水は100℃で沸騰するか説明されない水素結合の強さから説明する
なぜ反応が進むか発熱だから?ギブズエネルギー ΔG で判定する

3本書で得られる6つのメリット

大学化学の視点を学ぶことで、高校化学の理解は次の6つの面で変わります。

カテゴリ具体的に何が変わるか
A 導出できる 暗記していた性質を、電子構造から自分で説明できるようになる。例:周期表の傾向を量子数から導出
B 統一できる 個別の反応パターンが、一つの原理で説明できる。例:酸塩基をルイスの定義で統一
C 範囲が広がる 高校では扱わない条件や物質を定量的に扱える。例:実在気体、複雑な平衡系
D 意味が分かる 「なぜその反応が起こるか」の理由が分かる。例:ギブズエネルギーで自発性を判定
E 定量化できる 定性的だった議論を数式で定量的に扱える。例:平衡定数と $\Delta G$ の関係
F 見通しが立つ 反応を見たとき「何が起こるか」を予測できる。例:反応機構で生成物を予測

4本書の構成

本書は高校化学の教科書と同じ単元構成をとっています。全8編・17章・48記事で構成されています。

章数記事数概要
第I編 物質の構成 3章 9記事 原子の電子構造と化学結合を量子力学の視点で理解する...
第II編 酸・塩基と酸化還元 2章 4記事 酸塩基をルイスの定義で統一し、酸化還元を標準電極電位で定量化...
第III編 物質の状態 2章 5記事 気体を分子運動論で、溶液の性質をエネルギーとエントロピーで理...
第IV編 化学反応とエネルギー 1章 2記事 エンタルピーとギブズエネルギーで反応のエネルギー論を完成させ...
第V編 反応の速さと化学平衡 2章 4記事 反応速度をアレニウスの式で定量化し、平衡定数をギブズエネルギ...
第VI編 無機化学 2章 8記事 電子構造と熱力学の原理を使って、無機物質の性質と反応を体系的...
第VII編 有機化学 3章 10記事 反応機構(求核・求電子)と電子的効果で有機反応を統一的に理解...
第VIII編 高分子化合物 2章 6記事 高分子の構造と物性の関係、天然高分子の立体化学を理解する...

5対象読者

本書は以下のような読者を想定しています。

  • 高校化学を学習中の上位層 ─ 教科書の内容は一通り理解していて、より深い理解を求めている生徒
  • 「なぜ」を知りたい生徒 ─ 暗記するだけでは物足りず、背景にある論理を知りたい生徒
  • 大学での学びに備えたい生徒 ─ 理系学部への進学を予定しており、大学の化学の雰囲気を事前に知りたい生徒
前提知識について

本書で必要な前提知識は高校化学の内容のみです。大学レベルの概念は、必要になった時点でその都度解説します。

6本書の立ち位置

本書は高校化学の教科書を置き換えるものではありません。高校化学の単元構成に沿って、各テーマを大学の視点で捉え直すものです。

高校化学を否定するのではなく、高校化学が「なぜあの教え方をしているのか」を含めて理解できるようになること。それが本書の目標です。