高校化学では、酸素の単体($\text{O}_2$, $\text{O}_3$)、硫黄の同素体(斜方硫黄、単斜硫黄、ゴム状硫黄)、二酸化硫黄 $\text{SO}_2$、濃硫酸の脱水作用・酸化作用などを個別の知識として学びます。
酸素と硫黄は周期表で同じ第16族に属する同族元素ですが、なぜ酸素は二重結合で $\text{O}_2$ を作るのに硫黄は8個の原子が単結合でつながった $\text{S}_8$ を作るのか、なぜ硫黄は $\text{SF}_6$ のように6本もの結合を持てるのに酸素にはそれができないのか ── 高校の知識だけではこれらの違いを説明できません。
大学化学では、原子サイズとd軌道の利用可能性という2つの因子から、酸素と硫黄の性質の違いを統一的に理解します。
原子が小さい酸素は p 軌道どうしの側方重なりが効果的で$\pi$ 結合を好み、原子が大きい硫黄は側方重なりが弱いため$\sigma$ 結合を好みます。
さらに、硫黄には第3周期以降で利用可能になる d 軌道があり、これにより 8 電子則を超えた拡張原子価が可能になります。
この2つの原理で、単体の構造から化合物の酸化力・脱水作用まで、一貫して説明できます。
高校化学では、第16族(酸素族)元素のうち酸素と硫黄について、次のような内容を学びます。
高校ではこれらの性質を個別の事実として学びます。 しかし、「なぜ酸素は $\text{O}_2$(二重結合)なのに硫黄は $\text{S}_8$(単結合の環)なのか」「なぜ硫黄は $\text{SF}_6$ のように6本の結合を持てるのか」「濃硫酸の脱水作用は何に由来するのか」といった疑問には、高校の範囲では答えることができません。 次のセクションでは、これらの疑問に答えるための大学の視点を導入します。
大学化学では、酸素と硫黄の性質の違いを原子サイズとd軌道の利用可能性という2つの因子から統一的に説明します。 酸素は第2周期、硫黄は第3周期の元素です。 周期が1つ下がると、原子サイズが大きくなり、第3周期以降では 3d 軌道が使えるようになります。 この2つの違いが、単体の構造から化合物の性質まで、すべてに影響を及ぼします。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. 原子サイズが $\pi$ 結合の強さに与える影響を説明し、$\text{O}_2$(二重結合)と $\text{S}_8$(単結合環)の構造の違いを導ける
2. d軌道の利用可能性から、硫黄の拡張原子価($\text{SF}_4$, $\text{SF}_6$ など)を説明できる
3. $\text{SO}_2$ の構造と、還元剤・酸化剤の両方としてはたらく理由を電子構造から説明できる
4. 濃硫酸の脱水作用と熱濃硫酸の酸化作用を、硫黄の酸化状態と結合構造から理解できる
これらの説明に入る前に、$\sigma$ 結合と $\pi$ 結合の違い、および原子サイズが $\pi$ 結合の強さにどう影響するかを確認しておく必要があります。 次のセクションでその準備を行います。
ここで用いる$\sigma$ 結合と $\pi$ 結合の概念は 📖 第2章 §2 で詳しく解説しています。また、混成軌道については 📖 第2章 §3 で解説しています。以下では、この記事で必要な要点のみ確認します。
共有結合には2種類あります。
二重結合(例:$\text{O}=\text{O}$)は「1本の $\sigma$ 結合 + 1本の $\pi$ 結合」で構成されます。 三重結合(例:$\text{N} \equiv \text{N}$)は「1本の $\sigma$ 結合 + 2本の $\pi$ 結合」です。
$\pi$ 結合の強さは、p 軌道どうしの側方重なりの大きさに依存します。 ここで決定的に重要なのが原子サイズです。
原子が小さい場合(第2周期:C, N, O, F)、2つの原子核の間の距離が短いため、p 軌道の側方重なりが大きくなります。 その結果、$\pi$ 結合は十分に強くなり、$\sigma$ 結合に加えて $\pi$ 結合を形成することがエネルギー的に有利になります。
原子が大きい場合(第3周期以降:Si, P, S, Cl)、原子核間の距離が長くなり、p 軌道の側方重なりが急激に小さくなります。 その結果、$\pi$ 結合から得られるエネルギー利得が小さくなり、$\pi$ 結合を作るよりも、$\sigma$ 結合をもう1本多く作る方が有利になります。
| 結合 | 結合エネルギー (kJ/mol) | 備考 |
|---|---|---|
| O-O ($\sigma$) | 146 | $\text{H}_2\text{O}_2$ 中の単結合 |
| O=O ($\sigma + \pi$) | 498 | $\text{O}_2$ 中の二重結合 |
| S-S ($\sigma$) | 266 | $\text{S}_8$ 中の単結合 |
| S=S ($\sigma + \pi$) | 425 | 仮想的な $\text{S}_2$ 中の二重結合 |
これらは実験で測定された結合エネルギーの値です。 酸素では O=O(498 kJ/mol)が O-O を2本($146 \times 2 = 292$ kJ/mol)よりはるかに強く、二重結合が有利です。 硫黄では S=S(425 kJ/mol)と S-S を2本($266 \times 2 = 532$ kJ/mol)を比べると、単結合2本の方がエネルギー的に有利です。
この結合エネルギーの比較が、酸素と硫黄の単体構造を理解する鍵になります。 次のセクションでは、この結果を使って $\text{O}_2$ と $\text{S}_8$ の構造の違いを定量的に説明します。
酸素原子の電子配置は $1s^2 \, 2s^2 \, 2p^4$ です。 2p 軌道に6個の電子のうち4個が入り、2個の不対電子を持ちます。 2つの酸素原子が結合するとき、まず $\sigma$ 結合を1本形成し、次に残った p 軌道の側方重なりで $\pi$ 結合を1本形成します。
セクション3で見た通り、酸素では O=O の二重結合(498 kJ/mol)が O-O の単結合2本分(292 kJ/mol)より206 kJ/mol も強くなります。 つまり、酸素原子にとっては $\pi$ 結合を含む二重結合を1つ作って $\text{O}_2$ 分子になる方が、単結合だけで鎖状や環状につながるよりエネルギー的にはるかに安定です。
この理由から、酸素の安定な単体は二原子分子 $\text{O}_2$ です。
硫黄原子の電子配置は $1s^2 \, 2s^2 \, 2p^6 \, 3s^2 \, 3p^4$ です。 3p 軌道の電子配置は酸素の 2p と同じ構造ですが、原子サイズが大きく異なります。 酸素の共有結合半径は約 0.066 nm であるのに対し、硫黄の共有結合半径は約 0.105 nm です。
この原子サイズの違いが $\pi$ 結合の強さに決定的な影響を与えます。 セクション3の結合エネルギーのデータから計算すると、
酸素の $\pi$ 結合は 352 kJ/mol もの安定化をもたらしますが、硫黄の $\pi$ 結合はわずか 159 kJ/mol にすぎません。 しかも、硫黄の $\sigma$ 結合(266 kJ/mol)は酸素の $\sigma$ 結合(146 kJ/mol)よりずっと強い値です。
したがって、硫黄原子にとっては、弱い $\pi$ 結合を1本含む二重結合を1つ作るよりも、強い $\sigma$ 結合を2本作って鎖状または環状につながる方がエネルギー的に有利です。 各硫黄原子は2本の S-S $\sigma$ 結合を形成し、8個の原子が王冠型の環を作ったものが斜方硫黄 $\text{S}_8$ です。
第2周期の元素(C, N, O)は原子が小さく、p 軌道の側方重なりが効果的です。$\pi$ 結合のエネルギー利得が大きいため、二重結合や三重結合を持つ小分子($\text{O}_2$, $\text{N}_2$, $\text{CO}_2$)を形成します。
第3周期以降の元素(Si, P, S)は原子が大きく、$\pi$ 結合のエネルギー利得が小さくなります。$\sigma$ 結合を多数形成する方が有利なため、鎖状・環状・網目状の構造($\text{S}_8$, 赤リン, ダイヤモンド型の Si)をとります。
この原理は、$\text{CO}_2$(直線形、C=O 二重結合)と $\text{SiO}_2$(網目状、Si-O 単結合の繰り返し)の構造の違いも説明します。
酸素にはもう1つの同素体、オゾン $\text{O}_3$ があります。 オゾンは折れ線形の分子で、中心の酸素原子が sp${}^2$ 混成をとっています。 $\text{O}_3$ では、3個の原子にまたがって $\pi$ 電子が非局在化しています(共鳴構造で記述されます)。 この $\pi$ 結合の非局在化も、酸素原子が小さく $\pi$ 結合が効果的であることの結果です。
オゾンの結合角は約 $117{}^\circ$ で、sp${}^2$ 混成の理想値 $120{}^\circ$ に近い値です。 中心の酸素原子には孤立電子対が1つあり、これによって結合角がやや狭まっています。
誤解:第3周期以降の元素は $\pi$ 結合を全く形成できない。
正しい理解:第3周期以降でも $\pi$ 結合は形成可能ですが、そのエネルギー利得が第2周期に比べて小さいということです。 実際、$\text{SO}_2$ や $\text{SO}_3$ 中には S-O の多重結合的な性質が存在します(セクション6で詳述)。 ただし、単体の安定構造を決める場面では、$\sigma$ 結合の方が有利になるという点が重要です。 また、非常に高温(約 800 K 以上)の気相では、$\text{S}_2$ 分子が生じることが実験的に確認されています。
ここまでで、原子サイズの違いが酸素と硫黄の単体構造を決めることがわかりました。 次のセクションでは、もう1つの因子である d 軌道の利用可能性に注目し、硫黄が8電子則を超えた結合を形成できる理由を考えます。
高校化学では、原子は最外殻に8個の電子を持つと安定になるという8電子則(オクテット則)を学びます。 この規則に従えば、硫黄は最外殻に6個の電子を持つので、共有結合は最大2本(不対電子2個分)のはずです。 実際、$\text{H}_2\text{S}$ では硫黄は2本の S-H 結合を形成し、オクテットを満たしています。
ところが、硫黄には $\text{SF}_4$(4本の結合)や $\text{SF}_6$(6本の結合)のような化合物が存在します。 これらは8電子則を超えており、拡張原子価(expanded valence)と呼ばれます。 一方、酸素には $\text{OF}_6$ のような化合物は存在しません。 この違いはどこから来るのでしょうか。
酸素の電子配置は $1s^2 \, 2s^2 \, 2p^4$ であり、第2周期に属します。 第2周期には 2d 軌道は存在しません($n = 2$ では $l = 0, 1$ のみ)。 そのため、酸素が利用できる原子価軌道は 2s と 2p の合計4個であり、最大4対(8個)の電子しか収容できません。 つまり、酸素にとってオクテットは絶対的な上限です。
硫黄の電子配置は $1s^2 \, 2s^2 \, 2p^6 \, 3s^2 \, 3p^4$ であり、第3周期に属します。 第3周期には 3s, 3p に加えて 3d 軌道が存在します($n = 3$ では $l = 0, 1, 2$)。 3d 軌道は 3s, 3p より高いエネルギーにありますが、電気陰性度の大きな配位子(フッ素など)と結合するときには、エネルギー的に利用可能になると説明されてきました。
「第3周期以降の元素は d 軌道を使って拡張原子価をとる」という説明は伝統的に広く用いられてきましたが、現代の量子化学計算による再検討が進んでいます。
計算化学の研究によれば、$\text{SF}_6$ における S-F 結合の記述において、3d 軌道の寄与は従来考えられていたほど大きくなく、むしろイオン性の寄与($\text{S}^{\delta+}$-$\text{F}^{\delta-}$ の静電的相互作用)や、3中心4電子結合(3c-4e bond)と呼ばれるモデルで説明できるという見解もあります。
ただし、d 軌道が全く関与しないというわけではなく、分極関数としての寄与(結合の方向性を改善する効果)は認められています。 この教科書では、「d 軌道が利用可能であることが拡張原子価の必要条件である」という伝統的な説明を軸にしつつ、その解釈には議論があることを記しておきます。
六フッ化硫黄 $\text{SF}_6$ では、硫黄原子が6個のフッ素原子と結合し、正八面体構造をとります。 この構造を混成軌道 (📖 第2章 §3) の観点で説明するなら、硫黄原子は sp${}^3$d${}^2$ 混成をとっていると記述されます。 すなわち、3s, 3p$_x$, 3p$_y$, 3p$_z$, 3d$_{z^2}$, 3d$_{x^2-y^2}$ の6つの軌道を混成して、6つの等価な結合軌道を作り、6個のフッ素の 2p 軌道と $\sigma$ 結合を形成します。
硫黄原子のまわりには $6 \times 2 = 12$ 個の結合電子があり、オクテット(8電子)を超えています。 このような構造が可能なのは、第3周期以降で d 軌道が利用可能であることが必要条件です。
同様に、$\text{SF}_4$(4本の結合 + 1つの孤立電子対、シーソー形)、$\text{PCl}_5$(5本の結合、三角両錐形)なども拡張原子価の例です。 いずれも中心原子が第3周期以降の元素です。
第2周期の元素(C, N, O, F)は d 軌道を持たないため、最外殻に収容できる電子は最大8個です。オクテットを超えることはできません。
第3周期以降の元素(Si, P, S, Cl, ...)は d 軌道が利用可能なため、原理的にはオクテットを超えた電子を収容できます。特に、電気陰性度の大きな配位子(F, O)と結合する場合に拡張原子価が実現しやすくなります。
これが、$\text{SF}_6$ が安定に存在するのに $\text{OF}_6$ が存在しない直接の理由です。
ここまでで、原子サイズによる $\pi$ 結合 vs $\sigma$ 結合の選好(セクション4)と、d 軌道の利用可能性による拡張原子価(このセクション)という2つの因子を導入しました。 次のセクションでは、この2つの因子を使って、$\text{SO}_2$ と $\text{H}_2\text{SO}_4$ という高校で頻出の化合物の性質を統一的に説明します。
二酸化硫黄 $\text{SO}_2$ では、中心の硫黄原子が2個の酸素原子と結合し、折れ線形(結合角約 $119{}^\circ$)の構造をとります。 硫黄原子は sp${}^2$ 混成に近い状態にあり、孤立電子対を1つ持ちます。
$\text{SO}_2$ の S-O 結合距離は 0.143 nm であり、これは S-O 単結合(約 0.165 nm)より短く、S=O 二重結合(約 0.140 nm)に近い値です。 このことは、S-O 結合が単結合と二重結合の中間的な性質を持つことを示しています。 共鳴構造で記述すると、次の2つの寄与構造が等しい重みで寄与しています。
$$\text{O}=\text{S}-\text{O}^{-} \;\longleftrightarrow\; {}^{-}\text{O}-\text{S}=\text{O}$$
$\text{SO}_2$ 中の硫黄の酸化数は +4 です。 硫黄は最高酸化状態(+6)と最低酸化状態(-2)の中間にあるため、$\text{SO}_2$ は相手によって還元剤にも酸化剤にもなれます。
硫黄の酸化数の範囲は -2($\text{H}_2\text{S}$)から +6($\text{H}_2\text{SO}_4$)までです。 $\text{SO}_2$(酸化数 +4)はこの範囲の中間に位置するため、
例として、$\text{SO}_2$ と $\text{H}_2\text{S}$ の反応を見てみます。
$$\text{SO}_2 + 2\text{H}_2\text{S} \to 3\text{S} + 2\text{H}_2\text{O}$$
この反応では、$\text{SO}_2$ 中の S(+4)が S(0)に還元され、$\text{H}_2\text{S}$ 中の S(-2)が S(0)に酸化されています。 つまり、$\text{SO}_2$ が酸化剤、$\text{H}_2\text{S}$ が還元剤としてはたらいています。 どちらの硫黄も酸化数0の単体硫黄に収束するのは、+4 と -2 の間で酸化数0が安定な中間点にあるためです。
硫酸 $\text{H}_2\text{SO}_4$ では、硫黄原子が4個の酸素原子と結合しています。 そのうち2個は S=O 二重結合(形式的にはセクション5で述べた拡張原子価の一例)、残り2個は S-O-H 結合です。 硫黄原子はほぼ正四面体に近い sp${}^3$ 的な配置をとっています。
硫黄の酸化数は +6 であり、これは硫黄がとりうる最高の酸化状態です。 4個の電気陰性度の高い酸素原子が硫黄の電子を強く引きつけるため、S-O-H 結合の O-H 部分でも酸素が電子を引き、O-H 結合が弱まります。 その結果、プロトン $\text{H}^+$ が放出されやすくなり、硫酸は強酸として機能します。
濃硫酸(質量パーセント濃度 約 98%、ほぼ純粋な $\text{H}_2\text{SO}_4$)は強い脱水作用を示します。 例えば、ショ糖 $\text{C}_{12}\text{H}_{22}\text{O}_{11}$ に濃硫酸を加えると、ショ糖から水分子が奪われて炭化します。
$$\text{C}_{12}\text{H}_{22}\text{O}_{11} \xrightarrow{\text{conc. } \text{H}_2\text{SO}_4} 12\text{C} + 11\text{H}_2\text{O}$$
この脱水作用の起源は、$\text{H}_2\text{SO}_4$ 分子の高い極性と水分子への強い親和力にあります。 S=O 結合と S-O-H 結合中の酸素原子は大きな負の部分電荷を持ち、水分子を強く引きつけます。 また、濃硫酸は水と混合すると大きな発熱を伴いますが、これは硫酸イオン $\text{SO}_4^{2-}$ と水分子の間の強い水和エネルギーの反映です。 実測で、硫酸の希釈エンタルピーは約 $-95$ kJ/mol であり、非常に大きな値です。
高温の濃硫酸(熱濃硫酸)は酸化剤としてはたらきます。 硫黄が最高酸化状態(+6)にあるため、電子を受け取って酸化数を下げる余地があるからです。
例えば、銅は希硫酸には溶けませんが、熱濃硫酸には溶けます。
$$\text{Cu} + 2\text{H}_2\text{SO}_4 \xrightarrow{\Delta} \text{CuSO}_4 + \text{SO}_2 + 2\text{H}_2\text{O}$$
この反応では、$\text{H}_2\text{SO}_4$ 中の S(+6)が $\text{SO}_2$ 中の S(+4)に還元されています。 つまり、硫酸が酸化剤としてはたらき、銅を $\text{Cu}^{2+}$ に酸化しています。 これは、硫黄の+6という高い酸化状態が電子を受け取りやすいことの直接的な帰結です。
一方、希硫酸では $\text{H}_2\text{SO}_4$ は完全電離して $\text{H}^+$ と $\text{SO}_4^{2-}$ になっており、水溶液中では $\text{SO}_4^{2-}$ イオンの酸化力は弱くなります。 そのため、イオン化傾向が水素より小さい銅を酸化することはできません。 熱濃硫酸は分子状の $\text{H}_2\text{SO}_4$ がそのまま存在しているため、酸化力が発揮されます。
水 $\text{H}_2\text{O}$ と硫化水素 $\text{H}_2\text{S}$ はどちらも第16族元素の水素化物ですが、性質は大きく異なります。 この違いも原子サイズから理解できます。
沸点:$\text{H}_2\text{O}$ は 100 ${}^\circ\text{C}$、$\text{H}_2\text{S}$ は $-60$ ${}^\circ\text{C}$ です。 $\text{H}_2\text{O}$ は酸素原子が小さく電気陰性度が高い(3.44)ため、O-H 結合の極性が大きく、分子間に強い水素結合を形成します。 $\text{H}_2\text{S}$ は硫黄原子が大きく電気陰性度が低い(2.58)ため、S-H 結合の極性が小さく、水素結合はほとんど形成されません。
酸性:$\text{H}_2\text{S}$ は弱酸($K_{a1} = 1.0 \times 10^{-7}$)、$\text{H}_2\text{O}$ はさらに弱い酸($K_w = 1.0 \times 10^{-14}$)です。 S-H 結合は O-H 結合より長く弱いため、プロトンを放出しやすくなります。 これは、原子サイズが大きいほど結合が弱くなり、酸性が強くなるという第16族の一般的な傾向の表れです。
Q1. 酸素が $\text{O}_2$(二重結合)を作るのに対し、硫黄が $\text{S}_8$(単結合の環)を作る理由を、原子サイズと $\pi$ 結合の強さの関係から説明してください。
Q2. $\text{SF}_6$ が安定に存在するのに、$\text{OF}_6$ が存在しない理由を d 軌道の観点から説明してください。
Q3. $\text{SO}_2$ が酸化剤にも還元剤にもなれる理由を、硫黄の酸化数の観点から説明してください。
Q4. 熱濃硫酸が銅を溶かせるのに、希硫酸では溶かせない理由を説明してください。
次の化合物中の硫黄の酸化数をそれぞれ求めてください。
(a) $\text{H}_2\text{S}$ (b) $\text{SO}_2$ (c) $\text{H}_2\text{SO}_3$ (d) $\text{H}_2\text{SO}_4$ (e) $\text{SF}_6$
(a) $\text{H}_2\text{S}$:S の酸化数は -2(H が +1 なので、$+1 \times 2 + x = 0$ より $x = -2$)
(b) $\text{SO}_2$:S の酸化数は +4(O が -2 なので、$x + (-2) \times 2 = 0$ より $x = +4$)
(c) $\text{H}_2\text{SO}_3$:S の酸化数は +4($+1 \times 2 + x + (-2) \times 3 = 0$ より $x = +4$)
(d) $\text{H}_2\text{SO}_4$:S の酸化数は +6($+1 \times 2 + x + (-2) \times 4 = 0$ より $x = +6$)
(e) $\text{SF}_6$:S の酸化数は +6(F が -1 なので、$x + (-1) \times 6 = 0$ より $x = +6$)
O-O 単結合のエネルギーは 146 kJ/mol、O=O 二重結合のエネルギーは 498 kJ/mol です。 また、S-S 単結合のエネルギーは 266 kJ/mol、S=S 二重結合のエネルギーは 425 kJ/mol です。
(a) 酸素の場合、O=O 二重結合1本のエネルギーと O-O 単結合2本分のエネルギーをそれぞれ計算し、どちらが安定か比較してください。
(b) 硫黄の場合、S=S 二重結合1本のエネルギーと S-S 単結合2本分のエネルギーをそれぞれ計算し、どちらが安定か比較してください。
(c) (a), (b) の結果から、$\text{O}_2$ が二原子分子として存在し、硫黄が $\text{S}_8$ の環状構造をとる理由を説明してください。
(a) O=O 二重結合1本:498 kJ/mol。O-O 単結合2本分:$146 \times 2 = 292$ kJ/mol。二重結合1本の方が 206 kJ/mol 大きく、二重結合が有利です。
(b) S=S 二重結合1本:425 kJ/mol。S-S 単結合2本分:$266 \times 2 = 532$ kJ/mol。単結合2本の方が 107 kJ/mol 大きく、単結合が有利です。
(c) 酸素では $\pi$ 結合を含む二重結合が単結合を複数作るより安定であるため、O=O の二重結合で $\text{O}_2$ 分子を形成します。硫黄では原子サイズが大きく $\pi$ 結合が弱いため、$\sigma$ 結合を多く作る方が安定です。各硫黄原子が2本の S-S $\sigma$ 結合を形成し、8個の原子が王冠型の環状構造 $\text{S}_8$ をとります。
次の反応式について、下線部の物質が酸化剤・還元剤のどちらとしてはたらいているか答え、理由を硫黄の酸化数の変化で説明してください。
(a) $\underline{\text{SO}_2} + \text{Br}_2 + 2\text{H}_2\text{O} \to \text{H}_2\text{SO}_4 + 2\text{HBr}$
(b) $\underline{\text{SO}_2} + 2\text{H}_2\text{S} \to 3\text{S} + 2\text{H}_2\text{O}$
(a) $\text{SO}_2$ は還元剤としてはたらいています。$\text{SO}_2$ 中の S の酸化数は +4 であり、$\text{H}_2\text{SO}_4$ 中の S の酸化数は +6 です。S の酸化数が +4 → +6 と増加しているため、$\text{SO}_2$ は電子を失っており、還元剤です。
(b) $\text{SO}_2$ は酸化剤としてはたらいています。$\text{SO}_2$ 中の S の酸化数は +4 であり、生成物 S の酸化数は 0 です。S の酸化数が +4 → 0 と減少しているため、$\text{SO}_2$ は電子を受け取っており、酸化剤です。
$\text{SO}_2$ は硫黄の酸化数が +4 という中間的な値にあるため、より強い酸化剤($\text{Br}_2$ など)に対しては還元剤として、より強い還元剤($\text{H}_2\text{S}$ など)に対しては酸化剤としてはたらくことができます。酸化数が最高(+6)でも最低(-2)でもない中間の値であることが、この両面性の理由です。
窒素 $\text{N}_2$ は三重結合($\text{N} \equiv \text{N}$、結合エネルギー 945 kJ/mol)を持つのに対し、同族のリンは $\text{P}_4$(白リン、正四面体構造、P-P 単結合)として存在します。 この違いを、酸素と硫黄の場合と比較しながら、原子サイズと $\pi$ 結合の観点から論じてください。
窒素は第2周期の元素であり原子が小さいため、p 軌道の側方重なりが効果的で、$\pi$ 結合のエネルギー利得が大きくなります。$\text{N} \equiv \text{N}$ の三重結合($\sigma$ + $\pi$ + $\pi$)のエネルギーは 945 kJ/mol であり、N-N 単結合3本分($159 \times 3 = 477$ kJ/mol)よりはるかに大きいため、三重結合が有利です。
一方、リンは第3周期の元素であり原子が大きいため、$\pi$ 結合のエネルギー利得が小さくなります。P-P 単結合(約 200 kJ/mol)を複数形成する方がエネルギー的に有利であり、各リン原子が3本の P-P $\sigma$ 結合を形成して正四面体型の $\text{P}_4$ 分子をとります。
この関係は、酸素($\text{O}_2$、二重結合)vs 硫黄($\text{S}_8$、単結合環)のパターンと全く同じです。第2周期の元素は $\pi$ 結合を好み多重結合の小分子を形成し、第3周期以降の元素は $\sigma$ 結合を好み単結合による鎖状・環状・立体構造をとるという一般則が、第15族にも当てはまります。