高校化学では、アミノ酸が双性イオンとして存在すること、アミノ酸同士が脱水縮合してペプチド結合を形成すること、そしてタンパク質には一次構造から四次構造までの階層があることを学びます。
しかし、なぜペプチド結合の周りの原子が同一平面上にあるのか、なぜ特定の二次構造($\alpha$ヘリックスや$\beta$シート)が安定なのかについては、高校の範囲では説明されません。
大学化学では、ペプチド結合のC-N結合に共鳴(部分的な二重結合性)があることから平面性を理解し、この平面性がタンパク質の主鎖の折りたたみ方を制約することを学びます。
さらに、残された自由度($\phi$角と$\psi$角)の範囲内で水素結合パターンが二次構造を決定し、側鎖の化学的性質(疎水性・親水性・電荷)が三次構造・四次構造を決定するという、階層的な構造決定の論理が見えてきます。
高校化学では、アミノ酸を次のように学びます。
2つのアミノ酸が結合するとき、一方のカルボキシ基と他方のアミノ基の間で水分子 $\text{H}_2\text{O}$ が取れ、ペプチド結合 $\text{-CO-NH-}$ が形成されます。 この反応は脱水縮合です。 ペプチド結合が多数つながった鎖をポリペプチドと呼び、十分に長いポリペプチドが特定の立体構造をとったものがタンパク質です。
タンパク質の構造には階層があることも高校で学びます。
高校ではここまでを事実として学びますが、「なぜ$\alpha$ヘリックスや$\beta$シートという特定の形が安定なのか」「なぜペプチド結合の周りの原子が平面的なのか」には踏み込みません。 次のセクションでは、大学の視点からこれらの「なぜ」に答えます。
大学化学では、ペプチド結合の性質を共鳴(resonance)の概念で理解します。 ペプチド結合の C-N 結合には部分的な二重結合性があり、そのためにペプチド結合周りの6原子が同一平面上に固定されます。 この「平面性」こそが、タンパク質の構造を理解する出発点になります。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. ペプチド結合のC-N共鳴構造を描き、平面性が生じる理由を説明できる
2. 主鎖の自由度が$\phi$角と$\psi$角の2つに限定される理由を述べられる
3. $\alpha$ヘリックスと$\beta$シートの水素結合パターンの違いを説明できる
4. 側鎖の化学的性質(疎水性・親水性・電荷)がどのように三次構造を決めるか記述できる
5. タンパク質の変性を、非共有結合の破壊として理解できる
この理解の出発点は、ペプチド結合の C-N 結合に共鳴があるという事実です。 次のセクションで、共鳴構造を具体的に書き、そこから平面性がどのように生じるかを確認します。
共鳴(resonance)の概念は 📖 第2章 §2 で詳しく解説しています。ここでは要点のみ確認します。 共鳴とは、1つのルイス構造式だけでは記述しきれない電子の非局在化を、複数の構造式の「重ね合わせ」として表現する方法です。 分子の実際の電子状態は、どれか一つの共鳴構造ではなく、それらを混ぜ合わせた中間的な状態です。
ペプチド結合 $\text{-CO-NH-}$ には、2つの主要な共鳴構造があります。
実際の電子状態は構造Aと構造Bの中間です。窒素原子の非共有電子対がカルボニル炭素の方向に非局在化することで、C-N結合に部分的な二重結合性が生じます。
C-N 単結合(アミン中):約 0.147 nm
C=N 二重結合:約 0.127 nm
ペプチド結合の C-N:約 0.133 nm
ペプチド結合のC-N結合距離は、単結合と二重結合の中間の値を示します。 これは実験(X線結晶構造解析)で測定された値であり、共鳴による部分的な二重結合性の直接的な証拠です。 C-N結合に約40%の二重結合性があると見積もられています。
二重結合の周りでは回転が制限されます。これは 📖 第2章 §2 で学んだ$\sigma$結合と$\pi$結合の性質から理解できます。 $\pi$結合は、結合軸の上下に電子雲が分布しており、結合を回転させると$\pi$結合の重なりが壊れてエネルギーが上がります。 ペプチド結合の C-N 結合には部分的な$\pi$結合性があるため、この結合の周りの回転には約 60 〜 90 kJ/mol のエネルギー障壁があります。
その結果、ペプチド結合を構成する6つの原子 ── $\text{C}_\alpha$(前の残基)、$\text{C}$(カルボニル炭素)、$\text{O}$(カルボニル酸素)、$\text{N}$(アミド窒素)、$\text{H}$(アミド水素)、$\text{C}_\alpha$(次の残基)── は、ほぼ同一平面上に固定されます。 この平面をペプチド平面(peptide plane)と呼びます。
ペプチド結合の共鳴によりC-N結合の回転が制限されるため、ポリペプチド主鎖の各ペプチド結合周りの6原子は剛直な平面を形成します。
ポリペプチド鎖は、この剛直なペプチド平面が$\text{C}_\alpha$原子を介して連結した構造と見なせます。 主鎖の柔軟性は、ペプチド結合の中ではなく、$\text{C}_\alpha$原子の前後の単結合($\text{N-C}_\alpha$ 結合と $\text{C}_\alpha\text{-C}$ 結合)の回転によって生じます。
$\text{C}_\alpha$原子の前後には、回転可能な2つの単結合があります。
もしペプチド結合が普通の単結合であれば、$\text{C-N}$ 結合の回転角も自由度になり、主鎖の各アミノ酸残基あたり3つの回転角が存在するはずです。 しかし共鳴による平面性のおかげで、実質的な自由度は$\phi$と$\psi$の2つだけに限定されます。 この制約が、タンパク質が取りうる構造の種類を大幅に絞り込みます。
$\phi$角と$\psi$角のすべての組み合わせ($-180{}^\circ$ から $+180{}^\circ$)が許されるわけではありません。 隣接するペプチド平面の原子同士が立体的に衝突する(近づきすぎる)$\phi$/$\psi$の組み合わせは、エネルギー的に不安定です。
$\phi$を横軸、$\psi$を縦軸にとって許容される領域を示した図をラマチャンドランプロット(Ramachandran plot)と呼びます。 立体化学の原理(📖 第13章 §2)に基づく原子間の最短距離の制約から、許容領域は$\phi$-$\psi$空間全体の一部に限られます。
実際のタンパク質のX線結晶構造を解析すると、各アミノ酸残基の$\phi$/$\psi$角はラマチャンドランプロットの許容領域内に集中します。 特に、$\alpha$ヘリックスに対応する領域($\phi \approx -57{}^\circ$, $\psi \approx -47{}^\circ$)と$\beta$シートに対応する領域($\phi \approx -120{}^\circ$, $\psi \approx +130{}^\circ$)にデータ点が密集します。 つまり、タンパク質の二次構造は、ペプチド結合の平面性と原子の立体的な大きさという物理的制約から必然的に導かれるものです。
ここまでで、ペプチド結合の共鳴が平面性を生み、主鎖の自由度を$\phi$角と$\psi$角の2つに制限することを確認しました。 次のセクションでは、この制約された自由度の範囲内で、どのような水素結合パターンが二次構造を安定化するかを見ていきます。
セクション3で、ポリペプチド主鎖の自由度が$\phi$角と$\psi$角に限定されることを確認しました。 この制約のもとで、主鎖のC=O基とN-H基の間に規則的な水素結合(📖 第2章 §4)が形成されると、安定な繰り返し構造が生まれます。 これが二次構造です。
$\alpha$ヘリックスは、ポリペプチド鎖が右巻きのらせん状に巻いた構造です。 その安定性の鍵は、特定の水素結合パターンにあります。
$i$ 番目のアミノ酸残基のカルボニル酸素(C=O)と、$(i+4)$ 番目の残基のアミド水素(N-H)の間に水素結合が形成されます。
1周あたり 3.6 残基
らせんのピッチ(1周の高さ):0.54 nm
1残基あたりの上昇量:0.54 / 3.6 = 0.15 nm
水素結合の N...O 距離:約 0.28 nm
これらの値はX線結晶構造解析による実測値です。 $\alpha$ヘリックスに対応する$\phi$/$\psi$角は $\phi \approx -57{}^\circ$, $\psi \approx -47{}^\circ$ であり、この角度の組み合わせがラマチャンドランプロットの許容領域内にあるため、立体的に無理のない構造です。
$i$ 番目と $(i+4)$ 番目という水素結合パターンには物理的な必然性があります。 $\phi \approx -57{}^\circ$, $\psi \approx -47{}^\circ$ の角度で主鎖を繰り返し折りたたむと、C=O 基の方向と N-H 基の方向がちょうど4残基離れた相手と向き合う配置になります。 水素結合の最適な距離(N...O 間 約 0.28 nm)と直線性が同時に満たされる位置が $(i+4)$ なのです。
$\alpha$ヘリックスでは、すべての水素結合がらせんの軸にほぼ平行に走ります。 各ペプチド結合のC=OとN-Hが鎖の中で相手を見つけるため、未満足の水素結合供与体・受容体がほとんど残りません。 これが$\alpha$ヘリックスの安定性の源です。
$\beta$シートは、$\alpha$ヘリックスとはまったく異なる水素結合パターンを持ちます。 $\beta$シートでは、ポリペプチド鎖がほぼ伸びきった形($\phi \approx -120{}^\circ$, $\psi \approx +130{}^\circ$)をとり、隣り合う鎖同士の間で水素結合が形成されます。
隣接する鎖の向きによって2種類の$\beta$シートがあります。
$\alpha$ヘリックスとの根本的な違いは、水素結合の相手がどこにいるかです。 $\alpha$ヘリックスでは同じ鎖内の$(i+4)$残基が相手ですが、$\beta$シートでは別の鎖(あるいは同じ鎖が折り返して隣に来た部分)が相手です。
不十分な理解:$\alpha$ヘリックスの安定性は水素結合だけで説明できる。
正確な理解:$\alpha$ヘリックスが安定に存在するためには、(1) ペプチド結合の平面性により自由度が$\phi$/$\psi$に限定されること、(2) その$\phi$/$\psi$の組み合わせが立体的に許容されること(ラマチャンドランプロット)、(3) その配置で水素結合の距離と角度が最適になること、の3条件がすべて同時に満たされる必要があります。 共鳴による平面性がなければ、主鎖の自由度が増えて$\alpha$ヘリックスのような規則的な構造は形成されにくくなります。
ここまでで、ペプチド結合の平面性(セクション3)が主鎖の自由度を制約し、その制約のもとで規則的な水素結合パターンが二次構造を安定化する仕組みを確認しました。 しかし、二次構造はあくまで主鎖のC=OとN-Hの水素結合によるものです。 タンパク質が最終的にどのような三次元形状をとるかは、ここまで登場していなかった側鎖の性質によって決まります。 次のセクションでは、側鎖が三次構造・四次構造をどのように決定するかを見ていきます。
セクション4までは、ポリペプチドの主鎖(共通部分)の性質を議論してきました。 共鳴による平面性と水素結合パターンが二次構造を決めるという話は、20種類のアミノ酸すべてに共通のロジックです。 ところが実際のタンパク質は、$\alpha$ヘリックスや$\beta$シートの部分を含みながらも、全体としてそれぞれ固有の三次元形状に折りたたまれています。 この固有の形状を決めるのが、アミノ酸ごとに異なる側鎖 $\text{R}$ の化学的性質です。
20種類のアミノ酸の側鎖は、大きく次の3つのグループに分類できます。
| 分類 | 側鎖の性質 | 代表的なアミノ酸 |
|---|---|---|
| 非極性(疎水性) | 炭化水素鎖や芳香環を持つ。水と相互作用しにくい | Ala, Val, Leu, Ile, Phe, Trp, Met, Pro |
| 極性(電荷なし) | OH基、SH基、アミド基など。水素結合できる | Ser, Thr, Cys, Tyr, Asn, Gln |
| 荷電 | 生理的pHで正電荷(塩基性)または負電荷(酸性)を持つ | Asp, Glu(負)、Lys, Arg, His(正) |
三次構造は、二次構造を形成したポリペプチド鎖がさらに折りたたまれた全体的な三次元形状です。 この折りたたみを安定化するのは、側鎖同士あるいは側鎖と主鎖の間の以下の相互作用です。
タンパク質の構造決定には明確な階層があります。
共鳴(電子構造) → ペプチド結合の平面性 → 主鎖の自由度を$\phi$/$\psi$に制限
水素結合(主鎖 C=O と N-H) → $\alpha$ヘリックス、$\beta$シートなどの二次構造
側鎖の化学的性質 → 疎水性相互作用、側鎖水素結合、静電相互作用、ジスルフィド結合 → 三次構造
主鎖の性質が二次構造まで、側鎖の性質が三次構造以降を決定する、という対応関係が成り立ちます。
一部のタンパク質は、複数のポリペプチド鎖(サブユニット)が会合して機能を発揮します。 この会合体の構造を四次構造と呼びます。 サブユニット間を結びつける力は、三次構造を安定化するのと同じ種類の相互作用(疎水性相互作用、水素結合、静電相互作用)です。
代表的な例として、ヘモグロビンは2本の$\alpha$鎖と2本の$\beta$鎖の計4つのサブユニットからなる四次構造を持ちます。 サブユニット間の界面には、疎水性残基が多く配置されており、疎水性相互作用が主な結合力です。
加熱、強酸・強塩基の添加、有機溶媒の添加、尿素やグアニジン塩酸塩の添加によって、タンパク質の二次構造以上が崩壊する現象を変性(denaturation)と呼びます。 これは、高次構造を安定化している非共有結合(水素結合、疎水性相互作用、静電相互作用)や一部の共有結合(ジスルフィド結合)が破壊されるためです。
変性しても一次構造(ペプチド結合による共有結合)は保たれます。 ペプチド結合の結合エネルギーは約 350 kJ/mol であり、非共有結合(数 〜 数十 kJ/mol)よりはるかに強固だからです。 条件によっては、変性したタンパク質を元の条件に戻すと高次構造が再生することがあり、これを巻き戻し(renaturation, refolding)と呼びます。 この現象は、タンパク質の三次元構造がアミノ酸配列(一次構造)によって決定されることを示す重要な証拠です。
ここまでで、ペプチド結合の共鳴(セクション3)→ 平面性 → 二次構造(セクション4)→ 側鎖による三次構造・四次構造(本セクション)→ 変性と巻き戻し、という構造の全体像が見えました。 次のセクションでは、これらの知識を使って具体的な問題を考えます。
ケラチン(毛髪、爪の主成分)は$\alpha$ヘリックスが豊富な繊維状タンパク質です。 一方、フィブロイン(絹の主成分)は$\beta$シート構造が主体の繊維状タンパク質です。 この二次構造の違いが、両者の物理的性質の違いを生みます。
$\alpha$ヘリックスはらせん構造であるため、引っ張ると伸びる余地があります。 毛髪を引っ張ると、$\alpha$ヘリックスがほどけて$\beta$シートに変換され、元の長さの約2倍まで伸びます(水で湿らせると顕著)。 一方、$\beta$シートはすでにほぼ伸びきった構造なので、フィブロイン(絹)は伸びにくく、光沢があって滑らかな手触りを持ちます。
フィブロインに$\beta$シートが多い理由は、アミノ酸組成で説明できます。 フィブロインはグリシン(Gly)とアラニン(Ala)が交互に並ぶ配列を多く含みます。 Gly は側鎖が水素原子のみ(最も小さい)、Ala の側鎖はメチル基($\text{-CH}_3$)です。 いずれも小さな側鎖なので、$\beta$シートで鎖が密に積み重なる配置でも立体的な衝突が起きません。 大きな側鎖を持つアミノ酸(Trp, Phe など)が多い場合は、$\beta$シートの密なパッキングが困難になります。
タンパク質の安定性を、相互作用のエネルギーの大小関係から考えます。
| 相互作用 | エネルギーの目安 | 変性で壊れるか |
|---|---|---|
| ペプチド結合(共有結合) | 約 350 kJ/mol | 通常の変性条件では壊れない |
| ジスルフィド結合(共有結合) | 約 200 kJ/mol | 還元剤(2-メルカプトエタノールなど)で切断される |
| 水素結合 | 約 2 〜 20 kJ/mol | 加熱・尿素で壊れる |
| 疎水性相互作用 | 残基あたり約 3 〜 10 kJ/mol | 有機溶媒・界面活性剤で弱まる |
| 静電相互作用(塩橋) | 約 5 〜 20 kJ/mol | pH変化・高塩濃度で弱まる |
タンパク質全体の安定化エネルギー(天然状態と変性状態のギブズエネルギー差)は、驚くほど小さい値です。 典型的な球状タンパク質で $\Delta G \approx 20 \sim 60 \; \text{kJ/mol}$ 程度しかありません。 これは水素結合数本分のエネルギーに相当します。
個々の非共有結合は弱くても、タンパク質には数百〜数千の非共有結合が存在します。 それらの安定化効果の合計は大きいのですが、変性状態の方がエントロピーが大きい(鎖が自由に動ける)ため、エントロピー効果が安定化エネルギーの大部分を相殺します。 結果として、天然状態と変性状態のエネルギー差はわずかとなり、少しの環境変化で変性が起こります。
卵白の主成分であるアルブミンは球状タンパク質です。 天然状態では疎水性残基が内部に、親水性残基が表面に配置されており、水に溶けています。 加熱により非共有結合が壊れて変性すると、疎水性残基が表面に露出します。 露出した疎水性残基同士が分子間で相互作用して凝集し、不溶性のゲルを形成します。 これが「茹でると固まる」という現象の分子レベルの説明です。
この変性は不可逆です。凝集体中の分子間相互作用が元の分子内相互作用と競合するため、冷却しても天然状態に戻りません。
Q1. ペプチド結合の C-N 結合距離が典型的な C-N 単結合(0.147 nm)より短い理由を説明してください。
Q2. ポリペプチド主鎖の各アミノ酸残基における回転の自由度が$\phi$角と$\psi$角の2つに限定される理由を述べてください。
Q3. $\alpha$ヘリックスにおいて、$i$ 番目の残基の C=O が水素結合を形成する相手は、何番目の残基の N-H ですか。
Q4. 三次構造の安定化に最も大きく寄与する相互作用は何ですか。その相互作用が安定化に寄与する仕組みを簡潔に説明してください。
以下の (a)〜(d) の相互作用を、エネルギーの大きい順に並べてください。 また、それぞれが一次〜四次構造のどの階層の安定化に主に関与するか述べてください。
(a) 水素結合(主鎖 C=O と N-H の間)
(b) ペプチド結合(共有結合)
(c) 疎水性相互作用(非極性側鎖間)
(d) ジスルフィド結合(Cys 間の S-S 結合)
エネルギー順:(b) ペプチド結合(約 350 kJ/mol) > (d) ジスルフィド結合(約 200 kJ/mol) > (a) 水素結合(約 2 〜 20 kJ/mol) > (c) 疎水性相互作用(残基あたり約 3 〜 10 kJ/mol)
※ (a) と (c) は個々のエネルギーが近い範囲にあり、条件により逆転することもあります。
関与する階層:
(b) 一次構造(アミノ酸配列の共有結合的な連結)
(a) 二次構造($\alpha$ヘリックス、$\beta$シートの形成)
(c) 三次構造(疎水性コアの形成)
(d) 三次構造(ポリペプチド鎖内の架橋)、まれに四次構造(サブユニット間の架橋)
$\alpha$ヘリックス構造をとるポリペプチド鎖が 72 個のアミノ酸残基からなるとします。
(a) このヘリックスは何周しますか。(1周あたり 3.6 残基)
(b) このヘリックスの長さ(軸方向の長さ)は何 nm ですか。(1残基あたりの上昇量 0.15 nm)
(c) このヘリックス中の主鎖内水素結合の数はいくつですか。
(a) $72 / 3.6 = 20$ 周
(b) $72 \times 0.15 = 10.8 \; \text{nm}$
(c) $\alpha$ヘリックスでは $i$ 番目の C=O と $(i+4)$ 番目の N-H の間に水素結合が形成されます。$i = 1$ のとき相手は $i+4 = 5$、$i$ の最大値は $72 - 4 = 68$ です。したがって水素結合の数は $68$ 本です。
$\alpha$ヘリックスの両端の4残基(N末端側の4つの N-H と C末端側の4つの C=O)は鎖内で水素結合の相手がいないため、72残基の場合の水素結合数は $72 - 4 = 68$ 本となります。端のN-Hは水分子と、端のC=Oも水分子と水素結合することが多いです。
絹(フィブロイン)のアミノ酸組成は、グリシン(側鎖:$\text{-H}$)が約45%、アラニン(側鎖:$\text{-CH}_3$)が約30%を占めます。 フィブロインが主に$\beta$シート構造をとる理由を、側鎖の大きさと$\beta$シートの構造的特徴を関連づけて説明してください。
$\beta$シートでは、ポリペプチド鎖がほぼ伸びきったジグザグ構造をとり、隣接する鎖同士が密に重なります。側鎖は鎖の上下に交互に突き出す配置になるため、側鎖が大きいと隣接する鎖やシート間で立体的な衝突が起こります。
グリシンの側鎖は水素原子のみ、アラニンの側鎖はメチル基であり、いずれもアミノ酸の中で最も小さい部類に入ります。フィブロインの約75%がこれら小さな側鎖のアミノ酸で占められているため、$\beta$シートの密なパッキングが立体的に許容され、安定な$\beta$シート構造を広範囲にわたって形成できます。
ある球状タンパク質の天然状態における安定化エネルギーが $\Delta G = -40 \; \text{kJ/mol}$(天然状態が変性状態より 40 kJ/mol 安定)であるとします。 このタンパク質中にはおよそ 200 本の分子内水素結合があり、1本あたりの水素結合エネルギーを平均 10 kJ/mol とします。
(a) 水素結合だけに注目した場合の安定化エネルギーの合計を求めてください。
(b) (a) の値と実際の $\Delta G = -40 \; \text{kJ/mol}$ の間に大きな差がある理由を、エントロピーの観点から説明してください。
(c) このタンパク質を加熱して変性させる場合、温度上昇がエントロピー項 $T\Delta S$ をどのように変化させ、それが$\Delta G$にどう影響するか説明してください。
(a) $200 \times 10 = 2000 \; \text{kJ/mol}$
(b) 水素結合のエネルギーの合計(2000 kJ/mol)は、実際の安定化エネルギー(40 kJ/mol)の50倍です。この差は、天然状態が変性状態に比べてエントロピーが大幅に小さいことに起因します。変性状態ではポリペプチド鎖が多数の配座をとれるため、配座エントロピーが非常に大きくなります。このエントロピーの寄与 $T\Delta S$ が安定化エネルギーの大部分を相殺し、正味の安定化エネルギーはわずか 40 kJ/mol にとどまります。なお、疎水性相互作用、静電相互作用、ファンデルワールス力なども安定化に寄与しますが、エントロピーの不利がそれらの合計をほぼ打ち消しています。
(c) 変性反応では $\Delta S > 0$(変性状態の方がエントロピーが大きい)です。$\Delta G = \Delta H - T\Delta S$ において、温度 $T$ が上昇すると $T\Delta S$ が大きくなり、$\Delta G$ がより正の方向(天然状態が不安定になる方向)にシフトします。ある温度(変性温度 $T_m$)で $\Delta G = 0$ となり、それ以上の温度では $\Delta G > 0$(変性状態の方が安定)となって変性が自発的に進みます。