高校化学では、水や二酸化炭素の状態図(相図)を使い、三重点や臨界点の位置を読み取る問題を解きます。
状態図上の線が何を意味するか、三重点がなぜ「点」なのかは、暗記事項として扱われることがほとんどです。
大学化学では、ギブズの相律 $F = C - P + 2$ という一つの式を導入します。
この式は、ある条件下で自由に変えられる変数(自由度)の数を教えてくれます。
相律を使うと、状態図上の面・線・点がそれぞれ自由度 2・1・0 に対応し、三重点が「点」であること、蒸気圧曲線が「線」であることが必然的に決まります。
さらに、クラウジウス-クラペイロンの式を使えば、蒸気圧曲線の傾きまで定量的に理解でき、水の融解曲線が負の傾きを持つ理由も説明できます。
高校化学では、純物質(水、二酸化炭素など)の状態図を学びます。 状態図とは、横軸に温度、縦軸に圧力をとり、その物質が固体・液体・気体のどの状態にあるかを示した図です。
状態図では、以下の要素を読み取ります。
高校では、これらの位置関係を図から読み取り、「ある温度・圧力で物質がどの状態にあるか」を判定する問題を解きます。 また、「水の融解曲線は負の傾きを持つ(圧力を上げると融点が下がる)」という特徴を覚えます。
しかし、なぜ三重点が「点」であって「線」や「面」ではないのか、なぜ蒸気圧曲線は「線」として現れるのか、 そして水の融解曲線がなぜ負の傾きを持つのかについて、高校の範囲では十分な説明がありません。 次のセクションでは、大学の視点を導入することで、これらの問いに答える道具を手に入れます。
大学化学では、ギブズの相律(Gibbs' phase rule)を導入します。 相律は、系に存在する相の数と成分の数から、自由に変えられる変数(自由度)の数を教えてくれます。 この一つの式から、状態図の構造が必然的に決まります。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. ギブズの相律 $F = C - P + 2$ の意味を説明し、単成分系の状態図に適用できる
2. 状態図上の面(一相領域)・線(二相共存線)・点(三重点)の自由度を計算し、それぞれの特徴を相律から導ける
3. クラウジウス-クラペイロンの式を用いて、蒸気圧曲線の傾き $dP/dT$ を計算できる
4. 水の融解曲線が負の傾きを持つ理由を、体積変化の符号から定量的に説明できる
相律を理解するためには、まず「自由度」という概念を正確に把握する必要があります。 次のセクションで、その導入を行います。
相律を使うために、3つの用語を正確に定義します。
相(phase)とは、物理的・化学的に均一な部分のことです。 たとえば、氷水の入ったコップには「氷(固相)」と「水(液相)」の2つの相があります。 水面の上に水蒸気があれば、「気相」を加えて3つの相になります。 相の数を $P$ と書きます。
成分数(number of components)$C$ とは、系の組成を決定するために必要な独立な化学種の最小数です。 純物質(たとえば水だけの系)では $C = 1$ です。 このような系を単成分系(one-component system)と呼びます。 この記事では単成分系のみを扱います。
自由度(degrees of freedom)$F$ とは、系の状態を完全に指定するために、独立に変えることができる示強性変数(温度、圧力、組成など)の数です。 「示強性変数」とは、系の量(質量や体積)に依存しない変数のことで、温度 $T$ と圧力 $P$ がその代表です。
自由度が $F = 2$ であれば、温度と圧力を自由に選べます。 $F = 1$ であれば、温度を決めれば圧力が自動的に決まります(あるいはその逆)。 $F = 0$ であれば、温度も圧力も動かすことができません。
これらの定義を用いると、ギブズの相律は次のように述べられます。
$$F = C - P + 2$$
$F$:自由度(独立に変えられる示強性変数の数)、$C$:成分数、$P$:共存する相の数
この式は、各相における化学ポテンシャルの平衡条件(共存する相の間で化学ポテンシャルが等しいという条件)から導かれる、熱力学の基本的な結果です。 「+2」は、温度と圧力という2つの外部変数に対応しています。 直感的には、共存する相の数が増えるほど平衡条件(拘束条件)が増えるため、自由度が減ります。
相律の「+2」は、系の状態を記述する示強性変数のうち、組成以外のもの ── すなわち温度 $T$ と圧力 $P$ ── に対応しています。 成分数 $C$ の系で $P$ 個の相が共存しているとき、各相の組成を指定するのに必要な変数の総数は $P(C-1)$ 個です(各相について $C$ 種の成分のモル分率のうち独立なものは $C-1$ 個)。 一方、変数の総数は $P(C-1) + 2$ 個(組成変数に温度と圧力を加えたもの)です。 相平衡の条件として、各成分の化学ポテンシャルがすべての相で等しいという条件が $(P-1)C$ 個あります。 自由度は「変数の総数 - 拘束条件の数」として計算されます。
$$F = \{P(C-1) + 2\} - (P-1)C = PC - P + 2 - PC + C = C - P + 2$$
このように、化学ポテンシャルの平衡条件を数え上げることで、$F = C - P + 2$ が得られます。 化学ポテンシャルの詳細は 📖 C-8-2 ギブズエネルギー で扱います。
ここまでで、相律 $F = C - P + 2$ の意味と各記号の定義を確認しました。 次のセクションでは、この式を単成分系($C = 1$)の状態図に適用し、面・線・点の構造がどのように決まるかを見ていきます。
単成分系では $C = 1$ なので、相律は次のようになります。
$$F = 1 - P + 2 = 3 - P$$
自由度 $F$ は 0 以上でなければならないので、$P \leq 3$ です。 つまり、単成分系では最大3つの相が共存できることが相律から直ちにわかります。 この結果を、$P = 1, 2, 3$ のそれぞれについて見ていきます。
固体だけ、液体だけ、気体だけが存在する領域では、$P = 1$ なので $F = 3 - 1 = 2$ です。 自由度が2ということは、温度と圧力の両方を独立に変えることができます。
たとえば、水蒸気だけが存在する領域(気相のみ)では、温度を $150 \; {}^\circ\text{C}$ から $200 \; {}^\circ\text{C}$ に変えても、圧力を $0.5 \; \text{atm}$ から $0.8 \; \text{atm}$ に変えても、気体のままです。 温度と圧力の「二次元の自由」があるので、状態図上ではこの領域は面(二次元の広がり)として現れます。
液体と気体が共存している状態では、$P = 2$ なので $F = 3 - 2 = 1$ です。 自由度が1ということは、温度を決めれば圧力が自動的に決まる(あるいはその逆)ことを意味します。
たとえば、$100 \; {}^\circ\text{C}$ で水と水蒸気が共存している場合、そのときの圧力は $1 \; \text{atm}$ に確定します。 $80 \; {}^\circ\text{C}$ で共存させるなら、圧力は $0.47 \; \text{atm}$ になります。 温度を一つ決めれば圧力が一つ決まるので、状態図上では「温度-圧力の関数関係」、すなわち線(一次元の曲線)として現れます。 これが蒸気圧曲線です。融解曲線や昇華圧曲線も同様に $F = 1$ の線です。
固体・液体・気体の三相がすべて共存する状態では、$P = 3$ なので $F = 3 - 3 = 0$ です。 自由度が0ということは、温度も圧力もまったく動かすことができないことを意味します。 三相共存が実現する温度と圧力の組み合わせは、ただ一つに決まります。
水の場合、三重点は $T = 273.16 \; \text{K}$($0.01 \; {}^\circ\text{C}$)、$P = 611 \; \text{Pa}$($0.0060 \; \text{atm}$)です。 この値は実験で精密に測定された値であり、逆にこの精密さを利用して、温度の基準点としても使われてきました(2019年のSI改定前まで、ケルビンの定義に使用されていました)。
単成分系の状態図上の面・線・点は、相律 $F = 3 - P$ から必然的に決まります。
面(一相領域、$F = 2$):温度と圧力を自由に動かせる。二次元の広がりを持つ。
線(二相共存線、$F = 1$):温度を決めれば圧力が決まる。一次元の曲線。
点(三重点、$F = 0$):温度も圧力も動かせない。ただ一点に固定。
高校で暗記した「三重点は一つの点」「蒸気圧曲線は線」という事実は、相律から自動的に導かれます。
この結果を表にまとめます。
| 共存する相の数 $P$ | 自由度 $F = 3 - P$ | 状態図上での現れ方 | 具体例 |
|---|---|---|---|
| 1(一相) | 2 | 面(二次元の領域) | 固体のみ、液体のみ、気体のみ |
| 2(二相共存) | 1 | 線(一次元の曲線) | 蒸気圧曲線、融解曲線、昇華圧曲線 |
| 3(三相共存) | 0 | 点(零次元) | 三重点 |
誤解:臨界点も三重点と同じように $F = 0$ の点であり、三相が共存している。
正しい理解:臨界点は三相共存ではありません。臨界点は蒸気圧曲線の終端であり、そこでは液体と気体の区別がなくなります。臨界点を超えた高温・高圧の領域では「超臨界流体」と呼ばれる、液体とも気体とも異なる状態になります。臨界点は相律の $F = 0$ の帰結ではなく、液体-気体間の相転移が消失する特異な点です。
ここまでで、相律から状態図上の面・線・点の意味がわかりました。 しかし、二相共存線が「線」であることはわかっても、その線がどちらの方向に傾くのか ── すなわち $dP/dT$ が正なのか負なのか ── は相律だけでは決まりません。 次のセクションでは、線の「傾き」を定量的に与えるクラウジウス-クラペイロンの式を導入します。
セクション4で、二相が共存する線上では自由度が1であることを確認しました。 この線上では、温度 $T$ を少しだけ変えたとき、共存を維持するために圧力 $P$ も変化しなければなりません。 その変化率 $dP/dT$ を与えるのが、クラウジウス-クラペイロンの式です。
二相(相1と相2)が平衡にあるとき、両相のモルギブズエネルギー(化学ポテンシャル)が等しいという条件が成り立ちます。 温度と圧力が微小変化したときにもこの等式が維持される条件を求めると、次の式が得られます。
$$\frac{dP}{dT} = \frac{\Delta_{\text{trs}} S}{\Delta_{\text{trs}} V} = \frac{\Delta_{\text{trs}} H}{T \, \Delta_{\text{trs}} V}$$
$dP/dT$:二相共存線の傾き、$\Delta_{\text{trs}} S$:相転移に伴うモルエントロピー変化、$\Delta_{\text{trs}} V$:相転移に伴うモル体積変化、$\Delta_{\text{trs}} H$:相転移に伴うモルエンタルピー変化(潜熱)、$T$:相転移が起こる温度(K)
2番目の等号では $\Delta_{\text{trs}} S = \Delta_{\text{trs}} H / T$(可逆的な相転移ではエントロピー変化がエンタルピー変化を温度で割った値に等しい)を用いています。 この式は、二相の化学ポテンシャルの平衡条件から数学的に導かれます。
二相(相1と相2)が平衡にあるとき、1 mol あたりのギブズエネルギー $G_{\text{m}}$ について $G_{\text{m},1} = G_{\text{m},2}$ が成り立ちます。
温度が $T \to T + dT$、圧力が $P \to P + dP$ と変化したとき、平衡が維持されるためには $dG_{\text{m},1} = dG_{\text{m},2}$ が必要です。
ステップ1:熱力学の基本式から、モルギブズエネルギーの全微分は次のように書けます。
$$dG_{\text{m}} = -S_{\text{m}} \, dT + V_{\text{m}} \, dP$$
ここで $S_{\text{m}}$ はモルエントロピー、$V_{\text{m}}$ はモル体積です。
ステップ2:$dG_{\text{m},1} = dG_{\text{m},2}$ に代入すると、
$$-S_{\text{m},1} \, dT + V_{\text{m},1} \, dP = -S_{\text{m},2} \, dT + V_{\text{m},2} \, dP$$
ステップ3:$dP$ と $dT$ について整理すると、
$$(V_{\text{m},2} - V_{\text{m},1}) \, dP = (S_{\text{m},2} - S_{\text{m},1}) \, dT$$
$$\frac{dP}{dT} = \frac{S_{\text{m},2} - S_{\text{m},1}}{V_{\text{m},2} - V_{\text{m},1}} = \frac{\Delta_{\text{trs}} S}{\Delta_{\text{trs}} V}$$
ステップ4:可逆過程(相平衡での相転移は可逆的)では $\Delta_{\text{trs}} S = \Delta_{\text{trs}} H / T$ なので、
$$\frac{dP}{dT} = \frac{\Delta_{\text{trs}} H}{T \, \Delta_{\text{trs}} V}$$
クラウジウス-クラペイロンの式 $dP/dT = \Delta_{\text{trs}} H / (T \, \Delta_{\text{trs}} V)$ の傾きの符号は、$\Delta_{\text{trs}} H$ と $\Delta_{\text{trs}} V$ の符号で決まります($T > 0$ は常に正)。
蒸気圧曲線(液体 → 気体)の場合を考えます。 蒸発エンタルピー $\Delta_{\text{vap}} H > 0$(蒸発は吸熱)、モル体積変化 $\Delta_{\text{vap}} V = V_{\text{m,gas}} - V_{\text{m,liq}} > 0$(気体は液体より大きい)なので、$dP/dT > 0$ です。 つまり、蒸気圧曲線は右上がりになります。温度が上がると蒸気圧が上がる ── これは日常的な経験とも一致します。
融解曲線(固体 → 液体)の場合、融解エンタルピー $\Delta_{\text{fus}} H > 0$(融解は吸熱)です。 ほとんどの物質では $\Delta_{\text{fus}} V = V_{\text{m,liq}} - V_{\text{m,sol}} > 0$(液体は固体より密度が小さい)なので、$dP/dT > 0$ であり、融解曲線は右上がりです。
しかし、水の場合は $\Delta_{\text{fus}} V < 0$ です。 氷は水より密度が小さい(氷は水に浮く)ので、融解すると体積が減少します。 $\Delta_{\text{fus}} H > 0$ かつ $\Delta_{\text{fus}} V < 0$ なので、$dP/dT < 0$ となり、融解曲線は負の傾きを持ちます。 これが「圧力を上げると氷の融点が下がる」という水の異常な性質の定量的な説明です。
クラウジウス-クラペイロンの式は、二相共存線の傾きが相転移エンタルピー $\Delta_{\text{trs}} H$ とモル体積変化 $\Delta_{\text{trs}} V$ で決まることを示しています。
$\Delta_{\text{trs}} H > 0$ かつ $\Delta_{\text{trs}} V > 0$ ならば、$dP/dT > 0$(右上がり)。ほとんどの物質の融解曲線と、すべての蒸気圧曲線がこれに該当します。
$\Delta_{\text{trs}} H > 0$ かつ $\Delta_{\text{trs}} V < 0$ ならば、$dP/dT < 0$(左上がり)。水の融解曲線がこの例外的なケースです。
ここまでで、相律によって状態図の構造(面・線・点)を理解し、クラウジウス-クラペイロンの式によって線の傾きの符号と大きさを定量化する道具を手に入れました。 次のセクションでは、これらの道具を使って具体的な計算を行います。
$100 \; {}^\circ\text{C}$($373 \; \text{K}$)、$1 \; \text{atm}$ における水の蒸気圧曲線の傾き $dP/dT$ を計算します。 必要なデータは以下の通りです(実測値)。
モル体積の変化は、
$$\Delta_{\text{vap}} V = V_{\text{m,gas}} - V_{\text{m,liq}} = 30.6 \times 10^{-3} - 18.8 \times 10^{-6} \approx 30.6 \times 10^{-3} \; \text{m}^3\text{/mol}$$
液体のモル体積($18.8 \; \text{cm}^3\text{/mol}$)は気体のモル体積($30600 \; \text{cm}^3\text{/mol}$)に比べてわずか 0.06% であり、ほぼ無視できます。 クラウジウス-クラペイロンの式に代入します。
$$\frac{dP}{dT} = \frac{\Delta_{\text{vap}} H}{T \, \Delta_{\text{vap}} V} = \frac{40700}{373 \times 30.6 \times 10^{-3}} = \frac{40700}{11.4} = 3570 \; \text{Pa/K}$$
つまり、$100 \; {}^\circ\text{C}$ 付近では、温度が $1 \; \text{K}$ 上がるごとに蒸気圧が約 $3570 \; \text{Pa}$($\approx 0.035 \; \text{atm}$)上昇します。 この値は実測値とよく一致します。
$0 \; {}^\circ\text{C}$($273 \; \text{K}$)、$1 \; \text{atm}$ における水の融解曲線の傾きを計算します。
モル体積の変化は、
$$\Delta_{\text{fus}} V = V_{\text{m,liq}} - V_{\text{m,sol}} = (18.02 - 19.65) \times 10^{-6} = -1.63 \times 10^{-6} \; \text{m}^3\text{/mol}$$
$\Delta_{\text{fus}} V < 0$ です。氷が融解すると体積が減少するということです。これは氷の水素結合ネットワークが開放的な構造をとっているためです。
$$\frac{dP}{dT} = \frac{6010}{273 \times (-1.63 \times 10^{-6})} = \frac{6010}{-4.45 \times 10^{-4}} = -1.35 \times 10^{7} \; \text{Pa/K}$$
傾きの大きさは非常に大きく、$dP/dT \approx -1.35 \times 10^{7} \; \text{Pa/K}$($\approx -134 \; \text{atm/K}$)です。 これを逆に読むと、融点を $1 \; {}^\circ\text{C}$ 下げるために必要な圧力変化は約 $134 \; \text{atm}$ です。 融解曲線の傾きは非常に急峻であり、状態図上ではほぼ垂直な線に見えます。
誤解:スケートのブレードが氷に圧力をかけ、融点が下がって氷が融けるので滑る。
正しい理解:上の計算から、融点を $1 \; {}^\circ\text{C}$ 下げるには約 $134 \; \text{atm}$ もの圧力が必要です。 体重 70 kg の人がブレード面積 $0.5 \; \text{cm}^2$ で立ったとしても、圧力は約 $140 \; \text{atm}$ 程度であり、融点の低下はわずか $1 \; {}^\circ\text{C}$ 程度にすぎません。 $-10 \; {}^\circ\text{C}$ の氷の上でもスケートは滑りますから、圧力融解だけでは説明がつきません。 実際には、氷の表面にはもともと液体に近い薄い層(「擬液体層」や「表面融解層」と呼ばれる)が存在しており、これが滑りやすさの主な原因であると考えられています。
水との対比として、二酸化炭素(CO$_2$)の融解曲線の傾きを考えます。 CO$_2$ の三重点は $-56.6 \; {}^\circ\text{C}$($216.6 \; \text{K}$)、$5.11 \; \text{atm}$ です。
$$\Delta_{\text{fus}} V = (37.4 - 29.0) \times 10^{-6} = 8.4 \times 10^{-6} \; \text{m}^3\text{/mol}$$
$\Delta_{\text{fus}} V > 0$ です。CO$_2$ では固体より液体の方が体積が大きく、これが通常の物質の振る舞いです。
$$\frac{dP}{dT} = \frac{9020}{216.6 \times 8.4 \times 10^{-6}} = \frac{9020}{1.82 \times 10^{-3}} = 4.96 \times 10^{6} \; \text{Pa/K}$$
$dP/dT > 0$ であり、融解曲線は右上がりです。圧力を上げると融点が上がるという、通常の振る舞いを示します。 CO$_2$ の融解曲線の傾きが正、水の融解曲線の傾きが負 ── この違いは $\Delta_{\text{fus}} V$ の符号だけで決まることが、クラウジウス-クラペイロンの式から明確に読み取れます。
蒸気圧曲線(液体-気体の境界)に限れば、2つの近似が可能です。 (1) 気体のモル体積は液体のモル体積よりはるかに大きいので $\Delta_{\text{vap}} V \approx V_{\text{m,gas}}$ とする。 (2) 気体を理想気体と近似して $V_{\text{m,gas}} = RT/P$ とする。 これらを代入すると、
$$\frac{dP}{dT} = \frac{\Delta_{\text{vap}} H}{T \cdot RT/P} = \frac{P \, \Delta_{\text{vap}} H}{RT^2}$$
変形すると次の形になります。
$$\frac{d(\ln P)}{dT} = \frac{\Delta_{\text{vap}} H}{RT^2}$$
この式は、$\ln P$ を $1/T$ に対してプロットすると直線(傾き $-\Delta_{\text{vap}} H / R$)になることを示しています。 $\Delta_{\text{vap}} H$ が温度によらず一定と仮定して積分すると、次のようになります。
$$\ln \frac{P_2}{P_1} = -\frac{\Delta_{\text{vap}} H}{R} \left( \frac{1}{T_2} - \frac{1}{T_1} \right)$$
この式を使えば、ある温度での蒸気圧がわかっていれば、別の温度での蒸気圧を計算できます。
Q1. 単成分系において、固体と液体が共存しているとき、自由度 $F$ はいくつですか。相律を使って答えてください。
Q2. 単成分系の状態図で、4つの相が同時に共存することが不可能な理由を、相律を使って説明してください。
Q3. クラウジウス-クラペイロンの式において、蒸気圧曲線(液体 → 気体)の傾き $dP/dT$ が常に正であるのはなぜですか。
Q4. ある物質の融解において $\Delta_{\text{fus}} V > 0$ であるとき、圧力を上げると融点は上がりますか、下がりますか。理由とともに答えてください。
ギブズの相律 $F = C - P + 2$ において、$C$, $P$, $F$ がそれぞれ何を表すか説明し、水の三重点における $C$, $P$, $F$ の値を答えてください。
$C$(成分数):系の組成を決定するために必要な独立な化学種の最小数。
$P$(相の数):系に共存している物理的・化学的に均一な部分の数。
$F$(自由度):系の状態を保ったまま独立に変えられる示強性変数の数。
水の三重点では $C = 1$(水のみ)、$P = 3$(固体・液体・気体が共存)なので、$F = 1 - 3 + 2 = 0$ です。
エタノール(C$_2$H$_5$OH)の沸点は $78.4 \; {}^\circ\text{C}$($351.6 \; \text{K}$)であり、$1 \; \text{atm}$ での蒸発エンタルピーは $\Delta_{\text{vap}} H = 38.6 \; \text{kJ/mol}$ です。 気体のモル体積を理想気体として近似し、液体のモル体積を無視できるものとして、$78.4 \; {}^\circ\text{C}$ における蒸気圧曲線の傾き $dP/dT$ を計算してください。 $R = 8.314 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$ とします。
気体のモル体積を理想気体で近似します。
$$V_{\text{m,gas}} = \frac{RT}{P} = \frac{8.314 \times 351.6}{1.013 \times 10^5} = 28.8 \times 10^{-3} \; \text{m}^3\text{/mol}$$
液体のモル体積を無視して $\Delta_{\text{vap}} V \approx V_{\text{m,gas}}$ とすると、
$$\frac{dP}{dT} = \frac{\Delta_{\text{vap}} H}{T \, \Delta_{\text{vap}} V} = \frac{38600}{351.6 \times 28.8 \times 10^{-3}} = \frac{38600}{10.13} = 3810 \; \text{Pa/K}$$
沸点付近では蒸気圧曲線の傾きは $3000 \sim 4000 \; \text{Pa/K}$ 程度の値になることが多く、温度 $1 \; \text{K}$ あたり約 $0.03 \sim 0.04 \; \text{atm}$ の蒸気圧上昇に対応します。液体のモル体積(約 $60 \; \text{cm}^3\text{/mol}$)は気体のモル体積(約 $28800 \; \text{cm}^3\text{/mol}$)の 0.2% 程度なので、無視しても計算結果にほとんど影響しません。
水の蒸気圧が $1.00 \; \text{atm}$($100 \; {}^\circ\text{C}$)であるとき、$105 \; {}^\circ\text{C}$ における蒸気圧を、クラウジウス-クラペイロンの式の近似形を用いて求めてください。 $\Delta_{\text{vap}} H = 40.7 \; \text{kJ/mol}$、$R = 8.314 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$ とし、$\Delta_{\text{vap}} H$ は温度によらず一定とします。
$T_1 = 373 \; \text{K}$、$P_1 = 1.013 \times 10^5 \; \text{Pa}$、$T_2 = 378 \; \text{K}$ として、
$$\ln \frac{P_2}{P_1} = -\frac{\Delta_{\text{vap}} H}{R} \left( \frac{1}{T_2} - \frac{1}{T_1} \right)$$
$$= -\frac{40700}{8.314} \left( \frac{1}{378} - \frac{1}{373} \right) = -4894 \times (-3.55 \times 10^{-5}) = 0.174$$
$$\frac{P_2}{P_1} = e^{0.174} = 1.190$$
$$P_2 = 1.00 \times 1.190 = 1.19 \; \text{atm}$$
わずか $5 \; {}^\circ\text{C}$ の温度上昇で蒸気圧が約 19% 上昇しています。実測値は約 $1.21 \; \text{atm}$ であり、$\Delta_{\text{vap}} H$ を一定とした近似でも良好な結果が得られます。温度範囲が広くなると $\Delta_{\text{vap}} H$ の温度依存性が無視できなくなり、誤差が大きくなります。
ある未知の物質 X の三重点は $200 \; \text{K}$、$3.5 \; \text{atm}$ です。 $1 \; \text{atm}$ でこの物質を加熱すると、固体から直接気体になる(昇華する)ことが観察されました。
(a) $1 \; \text{atm}$ で昇華が起こる理由を、三重点の圧力との関係から説明してください。
(b) 物質 X を液体として存在させるためには、圧力をどのようにする必要がありますか。
(c) 物質 X の融解曲線が正の傾き($dP/dT > 0$)を持つとわかっています。この物質の固体の密度と液体の密度のどちらが大きいか、クラウジウス-クラペイロンの式を用いて判定してください。
(a) 三重点の圧力が $3.5 \; \text{atm}$ であり、$1 \; \text{atm}$ はこれより低い圧力です。三重点は蒸気圧曲線・融解曲線・昇華圧曲線の交点であり、三重点の圧力より低い圧力では液体領域が存在しません。$1 \; \text{atm}$ の等圧線は三重点の圧力より低いため、温度を上げていくと固体領域から昇華圧曲線を横切って直接気体領域に入ります。これは CO$_2$(三重点 $5.11 \; \text{atm}$)と同じ状況であり、$1 \; \text{atm}$ でドライアイスが昇華するのと同じ理由です。
(b) 液体として存在させるためには、三重点の圧力($3.5 \; \text{atm}$)以上の圧力をかける必要があります。三重点の圧力以上であれば、融解曲線と蒸気圧曲線に挟まれた温度範囲で液体が安定に存在します。
(c) $dP/dT > 0$ であり、$\Delta_{\text{fus}} H > 0$(融解は吸熱)なので、クラウジウス-クラペイロンの式 $dP/dT = \Delta_{\text{fus}} H / (T \, \Delta_{\text{fus}} V)$ から $\Delta_{\text{fus}} V > 0$ です。$\Delta_{\text{fus}} V = V_{\text{m,liq}} - V_{\text{m,sol}} > 0$ は、液体のモル体積が固体のモル体積より大きいことを意味します。モル体積が大きいということは密度が小さいということなので、固体の密度の方が液体の密度より大きいです。これは通常の物質に見られる性質です。