高校化学では、反応エンタルピー $\Delta H$ を使って反応の熱収支を計算します。
発熱反応($\Delta H < 0$)はエネルギーが低い状態へ向かうので「起こりやすそうだ」と感じ、実際に多くの場合その直感は正しく働きます。
しかし、$\Delta H$ だけでは反応が自発的に進むかどうかを正確に予測することはできません。
吸熱であるにもかかわらず自発的に進む反応が存在し、発熱であっても自発的に進まない反応があります。
大学化学では、ギブズエネルギー $\Delta G$ という量を導入します。
$\Delta G$ は $\Delta H$ とエントロピー $\Delta S$ の両方を組み込んだ量で、
$\Delta G < 0$ ならば反応は自発的に進み、$\Delta G > 0$ ならば進みません。
以下では、エントロピーの概念を一から導入し、$\Delta G = \Delta H - T\Delta S$ の意味を理解したうえで、
実際の反応で $\Delta G$ を計算して自発性を判定する方法を扱います。
高校化学では、化学反応に伴う熱の出入りを反応エンタルピー $\Delta H$ で表します。 ここで高校の知識を整理しておきます。
たとえば、水素の燃焼 $\text{H}_2(\text{g}) + \frac{1}{2}\text{O}_2(\text{g}) \to \text{H}_2\text{O}(\text{l})$ は $\Delta H = -286 \; \text{kJ/mol}$ であり、大きな発熱反応です。 一方、炭酸カルシウムの熱分解 $\text{CaCO}_3(\text{s}) \to \text{CaO}(\text{s}) + \text{CO}_2(\text{g})$ は $\Delta H = +178 \; \text{kJ/mol}$ であり、吸熱反応です。
高校では、ヘスの法則を使って $\Delta H$ を計算したり、エネルギー図を描いて反応の熱収支を求めたりする問題を解きます。 これらの知識と技術は正しく、大学でもそのまま使います。
しかし、高校の学び方には一つの限界があります。 それは、$\Delta H$ の符号から「反応が自発的に進むかどうか」を判定する方法が与えられていないことです。 「発熱反応は起こりやすい」という直感はある程度正しいのですが、 これを厳密な判定基準として使うことはできません。 次のセクションでは、なぜそうなのかを見ていきます。
大学化学で最も重要な転換の一つは、反応の自発性を $\Delta H$ ではなく $\Delta G$ で判定するようになることです。
1. エントロピー $S$ の概念を理解し、反応でエントロピーが増えるか減るかを判断できる
2. $\Delta G = \Delta H - T\Delta S$ の各項の意味を説明できる
3. $\Delta H$ と $\Delta S$ の値から $\Delta G$ を計算し、反応の自発性を判定できる
4. 温度によって自発性が変わる反応があることを理解し、転換温度を計算できる
$\Delta G$ を理解するためには、$\Delta H$ に加えてエントロピー $S$ という新しい概念が必要です。 エントロピーは高校化学では登場しない概念ですので、次のセクションで一から丁寧に導入します。
反応が自発的に進むかどうかを決めるのが $\Delta H$(エネルギーの変化)だけであれば、 すべての自発反応は発熱反応であるはずです。しかし、現実にはそうではありません。
たとえば、食卓に置いた角砂糖を水に入れると、砂糖は自然に溶けていきます。 砂糖の溶解は吸熱過程($\Delta H > 0$)ですが、自発的に進みます。 また、氷は 0 ℃ より高い温度では自発的に融解しますが、これも吸熱過程です。 これらの事実は、エネルギーの低下以外にも、反応を自発的に進める「もう一つの駆動力」が存在することを示しています。
その「もう一つの駆動力」がエントロピーです。
エントロピー $S$ は、系の「乱雑さ」あるいは「取りうる微視的状態の数」を表す状態量です。 エントロピーが大きいほど、物質を構成する粒子の配置や運動の仕方が多様であることを意味します。
直感的には、次のように理解できます。
【定義】 可逆過程において、系が温度 $T$ で熱 $q_{\text{rev}}$ を受け取ったとき、エントロピー変化は次のように定義されます。
$$\Delta S = \frac{q_{\text{rev}}}{T}$$
単位は $\text{J/(mol} \cdot \text{K)}$ です。
この定義の意味:同じ量の熱を受け取っても、温度が低いほどエントロピーの変化は大きくなります。低温では少しの熱でも系の乱雑さを大きく変えますが、すでに高温の系では同じ熱を加えても相対的な変化は小さいためです。
化学反応では、反応の前後で物質の状態が変わるため、エントロピーも変化します。 反応エントロピー $\Delta S$ は、生成物のエントロピーの合計から反応物のエントロピーの合計を引いたものです。
$$\Delta S = \sum S(\text{products}) - \sum S(\text{reactants})$$
正確な値は標準エントロピー $S^\circ$ の表から計算しますが、以下の目安を知っておくと、$\Delta S$ の符号を直感的に判断できます。
具体例を一つ見てみます。 窒素と水素からアンモニアを合成する反応を考えます。
$$\text{N}_2(\text{g}) + 3\text{H}_2(\text{g}) \to 2\text{NH}_3(\text{g})$$
左辺の気体分子は合計 4 mol、右辺は 2 mol です。気体分子の数が減っているので、$\Delta S < 0$ と予想できます。 実際の値は $\Delta S^\circ = -198.7 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$ であり、確かに負です。
エントロピーには、統計力学に基づく別の定義もあります。ボルツマンは、系が取りうる微視的な配置の総数(微視的状態の数)が大きいほどエントロピーが大きくなるという関係を見出しました。「乱雑さが大きい = 取りうる配置が多い = エントロピーが大きい」という直感的な理解に定量的な基礎を与えるものです。ここでは熱力学的な定義を用いて議論を進めます。
ここまでで、エントロピーという新しい概念を導入しました。エントロピーは系の乱雑さを表す量であり、自然界には「乱雑さが増す方向へ進む傾向」があります。次のセクションでは、この概念を使って「$\Delta H$ だけでは反応の方向を決められない」ことを具体的に確認します。
「発熱反応は自発的に進み、吸熱反応は自発的に進まない」── もしこの命題が常に成り立つならば、$\Delta H$ の符号だけで反応の方向を判定できるはずです。しかし、以下の反例がこの命題を否定します。
硝酸アンモニウム $\text{NH}_4\text{NO}_3$ を水に溶かすと、溶液の温度が下がります。これは吸熱過程($\Delta H > 0$)です。
$$\text{NH}_4\text{NO}_3(\text{s}) \xrightarrow{\text{water}} \text{NH}_4^+(\text{aq}) + \text{NO}_3^-(\text{aq}) \quad \Delta H = +25.7 \; \text{kJ/mol}$$
エネルギー的には不利な方向です。しかし、硝酸アンモニウムを水に入れれば自発的に溶けていきます。 吸熱であるにもかかわらず自発的に進む理由を考える必要があります。
その理由はエントロピーの増大にあります。 固体の結晶格子に閉じ込められていたイオンが水中に分散し、自由に動き回れるようになります。 この過程で系のエントロピーは大きく増加します($\Delta S = +108.7 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$)。 エントロピー増大の効果がエンタルピー増大の不利を上回るため、全体として自発的に進むのです。
先ほどのアンモニア合成反応を再び見てみます。
$$\text{N}_2(\text{g}) + 3\text{H}_2(\text{g}) \to 2\text{NH}_3(\text{g}) \quad \Delta H^\circ = -92.2 \; \text{kJ/mol}, \quad \Delta S^\circ = -198.7 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$$
この反応は発熱($\Delta H < 0$)ですから、エネルギー的には有利です。 しかし、気体分子の数が 4 mol から 2 mol に減るためエントロピーは減少します($\Delta S < 0$)。 室温(298 K)では $\Delta G < 0$ となり自発的に進みますが、十分に高温にすると $T\Delta S$ の項が大きくなり、$\Delta G > 0$ に転じます。 つまり、高温では発熱反応であっても自発的に進まなくなるのです。
これは高校で学ぶルシャトリエの原理とも整合します。高温にすると平衡が吸熱方向(逆反応方向)に移動することは高校で学びますが、なぜそうなるのかを定量的に説明するには $\Delta G$ が必要です。
誤:発熱反応($\Delta H < 0$)は常に自発的に進む。
正:自発的に進むかどうかは $\Delta G = \Delta H - T\Delta S$ の符号で決まる。$\Delta H < 0$ でも $\Delta S < 0$ で $T$ が十分大きければ $\Delta G > 0$ となり、自発的には進まない。
逆に、$\Delta H > 0$(吸熱)でも $\Delta S > 0$ で $T$ が十分大きければ $\Delta G < 0$ となり、自発的に進みます。
ここまでの 2 つの反例から、反応の方向を決めるには $\Delta H$ と $\Delta S$ の両方を考慮する必要があることがわかりました。次のセクションでは、この 2 つの量を一つの判定基準にまとめた $\Delta G = \Delta H - T\Delta S$ を導入します。
ギブズエネルギー(Gibbs energy)$G$ は、次のように定義される状態量です。
【定義】 ギブズエネルギー $G$ は、エンタルピー $H$、絶対温度 $T$(K)、エントロピー $S$ を用いて次のように定義されます。
$$G = H - TS$$
一定温度・一定圧力の条件下での変化量をとると、
$$\Delta G = \Delta H - T\Delta S$$
$\Delta G$ の値は、$\Delta H$(実測値)と $\Delta S$(実測値)から計算で求められる導出値です。この式が、反応の自発性を判定するための中心的な道具です。
熱力学の第二法則から、一定温度・一定圧力の条件下で次のことが導かれます。
この判定基準は、発熱・吸熱を問わず、すべての反応に例外なく適用できます。
$\Delta G = \Delta H - T\Delta S$ の各項が何を意味するかを整理します。
| 項 | 意味 | 自発性への寄与 |
|---|---|---|
| $\Delta H$ | 反応に伴うエンタルピー変化(エネルギーの出入り) | $\Delta H < 0$(発熱)なら $\Delta G$ を小さくする方向 → 自発性に有利 |
| $-T\Delta S$ | エントロピー変化の寄与(温度で重みづけされている) | $\Delta S > 0$(乱雑さ増大)なら $-T\Delta S < 0$ → $\Delta G$ を小さくする方向 → 自発性に有利 |
| $T$ | 絶対温度 | $T$ が大きいほど $\Delta S$ の効果が増幅される |
つまり、$\Delta G$ は「エネルギーを下げたい」という駆動力($\Delta H$ の項)と「乱雑さを増やしたい」という駆動力($-T\Delta S$ の項)の綱引きの結果です。
自然界の変化は、2 つの傾向の綱引きで方向が決まります。
(1) エネルギーを低くしたい($\Delta H < 0$ が有利)
(2) 乱雑さを増やしたい($\Delta S > 0$ が有利)
$\Delta G = \Delta H - T\Delta S$ は、この 2 つの効果を一つの数値にまとめたものです。温度 $T$ はエントロピーの項の「重み」として働きます。高温ほどエントロピーの効果が大きくなります。
$\Delta H$ と $\Delta S$ の符号の組み合わせにより、反応は 4 つのパターンに分類されます。
| $\Delta H$ | $\Delta S$ | $\Delta G = \Delta H - T\Delta S$ | 自発性 |
|---|---|---|---|
| $-$(発熱) | $+$(乱雑さ増大) | 常に $< 0$ | すべての温度で自発的 |
| $+$(吸熱) | $-$(乱雑さ減少) | 常に $> 0$ | すべての温度で非自発的 |
| $-$(発熱) | $-$(乱雑さ減少) | 低温で $< 0$、高温で $> 0$ | 低温で自発的、高温で非自発的 |
| $+$(吸熱) | $+$(乱雑さ増大) | 低温で $> 0$、高温で $< 0$ | 高温で自発的、低温で非自発的 |
注目すべきは 3 番目と 4 番目のパターンです。これらは温度によって自発性が変わる反応です。$\Delta G = 0$ となる温度が、自発と非自発の境界、すなわち転換温度です。
【導出値】 $\Delta G = \Delta H - T\Delta S$ で $\Delta G = 0$ とおくと、
$$\Delta H - T\Delta S = 0$$
$$T = \frac{\Delta H}{\Delta S}$$
この温度は $\Delta H$ と $\Delta S$ の実測値から計算で求められる導出値です。この温度より高いか低いかで、反応の自発性が入れ替わります。ただし、この計算は $\Delta H$ と $\Delta S$ が温度に依存しないと仮定しています。実際にはわずかに温度依存性がありますが、目安としては十分に使えます。
先ほどのアンモニア合成反応で転換温度を計算してみます。$\Delta H^\circ = -92.2 \; \text{kJ/mol} = -92200 \; \text{J/mol}$、$\Delta S^\circ = -198.7 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$ ですから、
$$T = \frac{-92200}{-198.7} = 464 \; \text{K} \approx 191 \; {}^\circ\text{C}$$
つまり、約 464 K(191 ℃)より低い温度ではアンモニア合成が自発的に進み($\Delta G < 0$)、それより高い温度では逆反応(アンモニアの分解)が自発的になります($\Delta G > 0$)。
$\Delta G < 0$ は「反応が自発的に進む方向」を示すだけであり、「反応が速く進む」ことは保証しません。たとえば、ダイヤモンドから黒鉛への変化は $\Delta G < 0$ ですが、室温では実質的に進みません。反応の速さは活性化エネルギーによって決まる別の問題です(📖 第9章 §1 で詳しく扱います)。
ここまでで $\Delta G = \Delta H - T\Delta S$ の意味と使い方を学びました。次のセクションでは、実際の反応で数値計算を行い、$\Delta G$ による自発性判定を実践します。
製鉄の基本反応である酸化鉄の炭素還元を考えます。
$$\text{Fe}_2\text{O}_3(\text{s}) + 3\text{C}(\text{s}) \to 2\text{Fe}(\text{s}) + 3\text{CO}(\text{g})$$
標準状態の熱力学データは以下のとおりです。
$$\Delta H^\circ = +490.7 \; \text{kJ/mol}, \quad \Delta S^\circ = +541.6 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$$
この反応は吸熱($\Delta H > 0$)で、エントロピーは増大($\Delta S > 0$)します。気体の CO が 3 mol 生成するため、$\Delta S > 0$ は直感と一致します。これは先ほどの 4 パターンのうち「高温で自発的」に該当します。
まず、転換温度を求めます。
$$T = \frac{\Delta H^\circ}{\Delta S^\circ} = \frac{490700}{541.6} = 906 \; \text{K} \approx 633 \; {}^\circ\text{C}$$
次に、いくつかの温度で $\Delta G$ を計算します。
298 K(25 ℃)の場合:
$$\Delta G^\circ = 490700 - 298 \times 541.6 = 490700 - 161397 = +329303 \; \text{J/mol} = +329.3 \; \text{kJ/mol}$$
$\Delta G > 0$ ですから、室温では自発的に進みません。
1500 K(1227 ℃)の場合:
$$\Delta G^\circ = 490700 - 1500 \times 541.6 = 490700 - 812400 = -321700 \; \text{J/mol} = -321.7 \; \text{kJ/mol}$$
$\Delta G < 0$ ですから、高温では自発的に進みます。実際の製鉄は約 1500 ℃ で行われており、この計算結果と整合しています。
身近な例として、水の蒸発を考えます。
$$\text{H}_2\text{O}(\text{l}) \to \text{H}_2\text{O}(\text{g})$$
$$\Delta H^\circ = +40.7 \; \text{kJ/mol}, \quad \Delta S^\circ = +109.0 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$$
水の蒸発は吸熱で、エントロピーは増大します。転換温度は、
$$T = \frac{40700}{109.0} = 373 \; \text{K} = 100 \; {}^\circ\text{C}$$
この結果は「水の沸点は 100 ℃」という事実と一致します。$\Delta G = 0$ となる温度が沸点に対応するのです。100 ℃ より高い温度では $\Delta G < 0$ となり蒸発が自発的に進み、100 ℃ より低い温度では $\Delta G > 0$ となり液体が安定です。
融点や沸点は、2 つの相の $\Delta G$ が等しくなる温度です。$\Delta G = 0$ とおいて $T = \Delta H / \Delta S$ を計算すると相転移温度が得られます。高校で「水の沸点は 100 ℃」と覚えていた事実が、$\Delta G$ の計算から自然に導かれるのです。
セクション 4 で取り上げた硝酸アンモニウムの溶解を、$\Delta G$ で定量的に検証します。
$$\Delta H = +25.7 \; \text{kJ/mol}, \quad \Delta S = +108.7 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$$
298 K(25 ℃)での $\Delta G$ を計算します。
$$\Delta G = 25700 - 298 \times 108.7 = 25700 - 32393 = -6693 \; \text{J/mol} = -6.7 \; \text{kJ/mol}$$
$\Delta G < 0$ ですから、自発的に進むと判定されます。吸熱($\Delta H > 0$)であるにもかかわらず自発的に進む理由は、エントロピーの増大($-T\Delta S = -32.4 \; \text{kJ/mol}$)がエンタルピーの増大($+25.7 \; \text{kJ/mol}$)を上回るためです。$\Delta G$ を使えば、「なぜこの吸熱反応が進むのか」を数値で説明できます。
ここまでで、$\Delta G$ の計算方法を具体的な反応に適用し、自発性の判定を実践しました。次のセクションでは、この記事の内容が他の分野とどうつながるかを整理します。
この記事で学んだ $\Delta G$ は、化学の多くの分野と結びついています。
この記事で学んだことを整理します。
Q1. エントロピーが大きい順に並べてください:$\text{H}_2\text{O}(\text{s})$、$\text{H}_2\text{O}(\text{l})$、$\text{H}_2\text{O}(\text{g})$
Q2. ある反応の $\Delta H = -120 \; \text{kJ/mol}$、$\Delta S = -200 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$ です。この反応は高温と低温のどちらで自発的に進みますか。理由とともに答えてください。
Q3. $\Delta G = \Delta H - T\Delta S$ の式で、$T$ の役割を説明してください。
Q4. 「$\Delta G < 0$ であれば、その反応は速く進む」── これは正しいですか。理由とともに答えてください。
以下の各組について、標準エントロピー $S^\circ$ が大きい方を選び、その理由を述べよ。
(a) $\text{CO}_2(\text{g})$ と $\text{CO}_2(\text{s})$(ドライアイス)
(b) $\text{He}(\text{g})$ と $\text{Ar}(\text{g})$(同温・同圧、1 mol)
(c) 1 mol の $\text{N}_2(\text{g})$ と 2 mol の $\text{N}_2(\text{g})$(同温・同圧)
(a) $\text{CO}_2(\text{g})$ の方が大きい。気体は固体に比べて粒子の運動の自由度が大きく、取りうる微視的状態の数が多い。
(b) $\text{Ar}(\text{g})$ の方が大きい。Ar は He より質量が大きく、同じ温度でのエネルギー準位の間隔が狭いため、占有できる量子状態の数が多い。
(c) 2 mol の $\text{N}_2(\text{g})$ の方が大きい。粒子の数が増えると、可能な配置の数が増加するため、エントロピーは物質量に比例して大きくなる。
メタンの燃焼反応について、以下の問いに答えよ。
$$\text{CH}_4(\text{g}) + 2\text{O}_2(\text{g}) \to \text{CO}_2(\text{g}) + 2\text{H}_2\text{O}(\text{l})$$
$\Delta H^\circ = -890.4 \; \text{kJ/mol}$、$\Delta S^\circ = -242.8 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$
(a) この反応の $\Delta H$ と $\Delta S$ の符号の組み合わせから、4 パターンのどれに該当するか答えよ。
(b) 298 K における $\Delta G^\circ$ を計算し、反応が自発的かどうか判定せよ。
(c) この反応が非自発的になる転換温度を求めよ。その温度は現実的に達成可能な温度か、考察せよ。
(a) $\Delta H < 0$(発熱)かつ $\Delta S < 0$(乱雑さ減少)のパターン。低温で自発的、高温で非自発的に該当する。
(b) $\Delta G^\circ = -890400 - 298 \times (-242.8) = -890400 + 72354 = -818046 \; \text{J/mol} = -818.0 \; \text{kJ/mol}$。$\Delta G < 0$ であるから、298 K で自発的に進む。
(c) $T = \Delta H / \Delta S = (-890400) / (-242.8) = 3668 \; \text{K} \approx 3395 \; {}^\circ\text{C}$。この温度は極めて高く、通常の条件では到達しない。したがって、メタンの燃焼は事実上すべての実用的な温度で自発的に進むと言える。
$\Delta S < 0$ である理由は、左辺の気体が 3 mol($\text{CH}_4$ 1 mol + $\text{O}_2$ 2 mol)であるのに対し、右辺の気体は $\text{CO}_2$ の 1 mol のみ($\text{H}_2\text{O}$ は液体)であり、気体分子の数が減少するためです。しかし、$|\Delta H|$ が $|T\Delta S|$ に比べて非常に大きいため、事実上あらゆる温度で $\Delta G < 0$ が維持されます。
炭酸カルシウムの熱分解反応について、以下の問いに答えよ。
$$\text{CaCO}_3(\text{s}) \to \text{CaO}(\text{s}) + \text{CO}_2(\text{g})$$
$\Delta H^\circ = +178.3 \; \text{kJ/mol}$、$\Delta S^\circ = +160.5 \; \text{J/(mol} \cdot \text{K)}$
(a) この反応の $\Delta S > 0$ である理由を、分子の状態の変化から説明せよ。
(b) この反応が自発的に進み始める温度(転換温度)を求めよ。
(c) 実際の石灰焼成は約 900 ℃ で行われる。(b) の結果と整合するか、考察せよ。
(a) 反応物は固体のみ($\text{CaCO}_3$)であるが、生成物には気体の $\text{CO}_2$ が 1 mol 含まれる。固体から気体が生じることで、粒子の運動の自由度が大きく増加し、取りうる微視的状態の数が増えるため、$\Delta S > 0$ となる。
(b) $T = \Delta H / \Delta S = 178300 / 160.5 = 1111 \; \text{K} \approx 838 \; {}^\circ\text{C}$
(c) 転換温度は約 838 ℃ であり、実際の石灰焼成温度(約 900 ℃)はこれを上回っている。転換温度以上の温度で操業するのは、$\Delta G < 0$ を確保し反応を自発的に進めるためであり、計算結果と整合する。
以下の 3 つの反応について、各問いに答えよ。
| 反応 | $\Delta H^\circ$ / kJ mol$^{-1}$ | $\Delta S^\circ$ / J mol$^{-1}$ K$^{-1}$ |
|---|---|---|
| (i) $2\text{H}_2(\text{g}) + \text{O}_2(\text{g}) \to 2\text{H}_2\text{O}(\text{l})$ | $-571.6$ | $-326.6$ |
| (ii) $\text{N}_2\text{O}_4(\text{g}) \to 2\text{NO}_2(\text{g})$ | $+57.2$ | $+175.8$ |
| (iii) $3\text{O}_2(\text{g}) \to 2\text{O}_3(\text{g})$ | $+285.4$ | $-137.6$ |
(a) 各反応について、4 パターンのどれに該当するか分類せよ。
(b) 各反応について、298 K における $\Delta G^\circ$ を計算せよ。
(c) 反応 (ii) の転換温度を求め、その温度の上下で反応の自発性がどう変わるか述べよ。
(d) 反応 (iii) が自発的に進まないことを $\Delta G$ の観点から説明し、オゾン層が存在できる理由について速度論の観点から簡潔に述べよ。
(a)
(i) $\Delta H < 0$、$\Delta S < 0$ → 低温で自発的、高温で非自発的
(ii) $\Delta H > 0$、$\Delta S > 0$ → 高温で自発的、低温で非自発的
(iii) $\Delta H > 0$、$\Delta S < 0$ → すべての温度で非自発的
(b)
(i) $\Delta G^\circ = -571600 - 298 \times (-326.6) = -571600 + 97327 = -474273 \; \text{J/mol} = -474.3 \; \text{kJ/mol}$
(ii) $\Delta G^\circ = 57200 - 298 \times 175.8 = 57200 - 52388 = +4812 \; \text{J/mol} = +4.8 \; \text{kJ/mol}$
(iii) $\Delta G^\circ = 285400 - 298 \times (-137.6) = 285400 + 41005 = +326405 \; \text{J/mol} = +326.4 \; \text{kJ/mol}$
(c) 反応 (ii) の転換温度:$T = 57200 / 175.8 = 325 \; \text{K} \approx 52 \; {}^\circ\text{C}$。325 K より低い温度では $\Delta G > 0$($\text{N}_2\text{O}_4$ が安定)、325 K より高い温度では $\Delta G < 0$($\text{NO}_2$ への分解が自発的)。
(d) 反応 (iii) は $\Delta H > 0$ かつ $\Delta S < 0$ であるため、$\Delta G = \Delta H - T\Delta S$ はすべての温度で正となり、$\text{O}_2 \to \text{O}_3$ の変換は熱力学的に不利です。しかし、成層圏では紫外線のエネルギーにより $\text{O}_2$ が解離して O 原子が生成し、これが $\text{O}_2$ と反応して $\text{O}_3$ を生成します。一方、$\text{O}_3$ の分解反応の活性化エネルギーが大きいため、生成した $\text{O}_3$ はすぐには分解せず、動的な定常状態としてオゾン層が維持されます。これは熱力学的な安定性ではなく、速度論的な安定性によるものです。