高校化学では、グルコースやフルクトースなどの単糖類、マルトースやスクロースなどの二糖類、デンプンやセルロースなどの多糖類を分類し、還元性の有無や代表的な反応を学びます。
デンプンとセルロースはどちらもグルコースが多数つながったものですが、「結合の仕方が違う」という説明だけで終わり、なぜ一方はエネルギー源になり他方は消化できないのかを構造から理解することは難しい状況です。
大学化学では、糖の立体化学を正面から扱います。フィッシャー投影式で不斉炭素の配置(D/L)を表し、ハワース式で環状構造における$\alpha$/$\beta$アノマーの違いを明示します。
この立体化学の道具を使うと、デンプンの$\alpha$-1,4-グリコシド結合とセルロースの$\beta$-1,4-グリコシド結合の違いが、巨視的な物性の違い(らせん構造 vs 直線的な繊維構造)に直結することが見えてきます。
高校化学では、糖類(炭水化物)を次のように分類して学びます。
グルコースについては、分子式 $\text{C}_6\text{H}_{12}\text{O}_6$ を持ち、アルデヒド基 $\text{-CHO}$ を持つアルドースであること、フェーリング液や銀鏡反応で還元性を示すことを学びます。 また、グルコースには鎖状構造と環状構造があり、水溶液中では環状構造が主であることも高校範囲です。
デンプンとセルロースについては、どちらもグルコースが多数結合した多糖であるにもかかわらず、性質が大きく異なることを学びます。 デンプンは温水に溶け、ヨウ素デンプン反応を示し、アミラーゼで消化できます。 セルロースは水に溶けず、ヨウ素デンプン反応を示さず、ヒトは消化できません。 高校では「結合の仕方($\alpha$型と$\beta$型)が違うから」と説明されますが、$\alpha$型と$\beta$型の違いが具体的にどのような立体構造の差であり、それがなぜ物性の違いにつながるのかまでは踏み込みません。
次のセクションでは、大学で用いる立体化学の道具を導入することで、この「なぜ」に明確に答えられるようになることを確認します。
大学化学では、糖の構造を表すためにフィッシャー投影式とハワース式という2つの表記法を導入します。 これらは糖の不斉炭素における置換基の空間的な配置(立体配置)を正確に表す道具です。 この道具を使うと、高校では「$\alpha$型・$\beta$型」と名前だけ出てきた区別が、具体的な立体構造の違いとして明確に定義でき、デンプンとセルロースの性質の違いを分子レベルで説明できるようになります。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. フィッシャー投影式を読み、D-グルコースとL-グルコースを区別できる
2. グルコースの環化反応を追い、$\alpha$アノマーと$\beta$アノマーが生じる理由を説明できる
3. ハワース式でグルコースの環状構造を描き、$\alpha$/$\beta$の定義を述べられる
4. $\alpha$-1,4-グリコシド結合と$\beta$-1,4-グリコシド結合の立体構造の違いを説明できる
5. デンプン(らせん構造)とセルロース(直線構造)の物性の違いを、グリコシド結合の立体の違いから論理的に導ける
この道具を組み立てるために、まず鎖状構造における立体化学(フィッシャー投影式とD/L表記)から始めます。
グルコース $\text{C}_6\text{H}_{12}\text{O}_6$ の鎖状構造には、4つの不斉炭素(C2, C3, C4, C5)があります。 不斉炭素とは、4つの異なる置換基が結合した炭素のことで、 📖 第13章 §2 で詳しく解説しています。 不斉炭素が4つあるということは、立体異性体が最大 $2^4 = 16$ 種類存在しうることを意味します。 これらを区別するには、各不斉炭素における置換基の空間配置を明示する表記法が必要です。
フィッシャー投影式は、エミール・フィッシャーが糖の立体化学を研究するために考案した表記法です。 炭素鎖を縦に並べ、最も酸化された炭素(アルデヒド基やカルボキシ基)を上端に置きます。 各不斉炭素について、横方向の結合は手前に向かって出ており、縦方向の結合は奥に向かって伸びているという約束です。
D-グルコースのフィッシャー投影式を具体的に見てみます。 炭素に番号をつけるとき、アルデヒド基の炭素をC1とし、下に向かってC2, C3, C4, C5, C6と番号を振ります。
D-グルコースのフィッシャー投影式では、各炭素に結合した$\text{-OH}$と$\text{-H}$の位置は次の通りです。
| 炭素番号 | 左側の置換基 | 右側の置換基 | 上下の結合 |
|---|---|---|---|
| C1 | $\text{CHO}$(アルデヒド基、最上部) | — | |
| C2 | $\text{H}$ | $\text{OH}$ | 上:C1、下:C3 |
| C3 | $\text{OH}$ | $\text{H}$ | 上:C2、下:C4 |
| C4 | $\text{H}$ | $\text{OH}$ | 上:C3、下:C5 |
| C5 | $\text{H}$ | $\text{OH}$ | 上:C4、下:C6 |
| C6 | $\text{CH}_2\text{OH}$(最下部) | — | |
ここで重要なのは、C2の$\text{OH}$が右、C3の$\text{OH}$が左、C4の$\text{OH}$が右、C5の$\text{OH}$が右、というパターンです。 この配置こそがD-グルコースを他の16種のアルドヘキソースから区別するものです。
糖のD/L表記は、最も番号の大きい不斉炭素の$\text{OH}$基の位置で定義されます。 アルドヘキソースの場合、それはC5です。
フィッシャー投影式において、最も番号の大きい不斉炭素の$\text{-OH}$が右側にあればD体、左側にあればL体と定義する。
これは人間が定めた規約であり、自然法則ではありません。 歴史的にはグリセルアルデヒドの右旋性(+)の異性体をD体と定義し、それとの立体的な対応関係で他の糖のD/Lを決めました。 D/Lは光学活性(旋光方向)とは直接対応しない点に注意してください。D-グルコースは右旋性(+)ですが、D-フルクトースは左旋性($-$)です。
D-グルコースではC5の$\text{OH}$が右側にあるのでD体です。 もしC5の$\text{OH}$が左側にあれば、それはL-グルコースであり、D-グルコースの鏡像異性体(エナンチオマー)にあたります。 天然に存在する糖のほとんどはD体です。
誤:D体は右旋性(+)、L体は左旋性($-$)である。
正:D/Lはフィッシャー投影式における$\text{OH}$の位置で決まる規約であり、旋光方向は実験で測定して初めてわかる物理量です。D-フルクトースは左旋性($-$)であり、D体だからといって右旋性とは限りません。
ここまでで、鎖状構造の立体化学をフィッシャー投影式で表す方法と、D/L表記の定義を確認しました。 しかし、グルコースは水溶液中では鎖状構造ではなく環状構造をとります。 次のセクションでは、鎖状構造から環状構造への変換(環化)を追い、そこで$\alpha$アノマーと$\beta$アノマーが生じる仕組みを見ていきます。
グルコースの水溶液中では、鎖状構造はごくわずか(約0.003%)しか存在せず、大部分は環状構造をとっています。 これは、C5の$\text{OH}$基がC1のアルデヒド基に分子内で求核付加して、6員環(ピラノース環)を形成するためです。 この反応は分子内ヘミアセタール形成と呼ばれます。
アルデヒド基への付加反応は 📖 第14章 §3 で扱った求核付加反応の一種です。 アルコールの$\text{OH}$がアルデヒドのカルボニル炭素を攻撃し、C-O結合が形成されます。
ここで重要なことは、C1はもともとアルデヒド基のカルボニル炭素であり、平面的な $sp^2$ 構造をしていたという点です。 C5の$\text{OH}$がC1に付加するとき、C1は$sp^3$ に変わり、四面体構造になります。 $\text{OH}$基はカルボニル平面の上から攻撃することも下から攻撃することもでき、その結果、C1に新しく生じた$\text{OH}$基の向きが異なる2種類の環状構造が生じます。
環化によって新たに不斉炭素となったC1をアノマー炭素と呼びます。 アノマー炭素に結合した$\text{OH}$基の向きによって、2つの異性体が区別されます。 これらをアノマーと呼び、互いにアノマー対の関係にあります。
ハワース式において、D-糖のアノマー炭素(C1)の$\text{-OH}$が環平面より下側($\text{-CH}_2\text{OH}$と反対側)にあるものを$\alpha$アノマー、上側($\text{-CH}_2\text{OH}$と同じ側)にあるものを$\beta$アノマーと定義する。
これはハワース式での約束です。より一般的には、アノマー炭素のOHと、D/L表記の基準炭素(C5)の置換基が環平面に対してtrans(反対側)にあるのが$\alpha$、cis(同じ側)にあるのが$\beta$です。
ハワース式は、糖の環状構造を描くための投影式です。 6員環(ピラノース環)を手前が太い線の五角形+酸素として描き、環平面に対して置換基が上にあるか下にあるかを明示します。
D-グルコピラノース(D-グルコースの6員環形)のハワース式では、各炭素の置換基は次の位置にあります。
| 炭素番号 | $\alpha$-D-グルコピラノース | $\beta$-D-グルコピラノース |
|---|---|---|
| C1(アノマー炭素) | $\text{OH}$:下、$\text{H}$:上 | $\text{OH}$:上、$\text{H}$:下 |
| C2 | $\text{OH}$:下、$\text{H}$:上 | |
| C3 | $\text{OH}$:上、$\text{H}$:下 | |
| C4 | $\text{OH}$:下、$\text{H}$:上 | |
| C5 | $\text{H}$:下、$\text{CH}_2\text{OH}$:上 | |
$\alpha$体と$\beta$体の違いはC1の$\text{OH}$の向きだけです。 C2以降の置換基の配置は両者で同じです。
水溶液中では、$\alpha$-D-グルコースと$\beta$-D-グルコースは鎖状構造を経由して相互変換します。 この現象を変旋光(mutarotation)と呼びます。 平衡状態では、$\alpha$体が約36%、$\beta$体が約64%、鎖状構造が約0.003%の比率で存在します。 この比率は実験で測定された値です。
$\beta$-D-グルコースではすべての大きな置換基($\text{OH}$や$\text{CH}_2\text{OH}$)がいす形配座でエクアトリアル位を占めるため、立体反発の観点からは$\beta$体のほうが安定です。実際に平衡では$\beta$体が多数を占めます。
しかし$\alpha$体も36%という無視できない割合で存在します。C1の$\text{OH}$がアキシアル位であるにもかかわらず$\alpha$体がある程度安定であることは、単純な立体反発だけでは説明できません。この安定化はアノマー効果と呼ばれ、環の酸素の非共有電子対とC1-O結合の$\sigma^*$軌道との超共役的な相互作用で説明されます。詳細は有機化学の発展的なトピックですが、「$\alpha$体にはアキシアルOHを安定化する電子的効果がある」という点を押さえておくとよいでしょう。
ここまでで、糖の環状構造におけるアノマーの概念を理解しました。 C1の$\text{OH}$が下向き($\alpha$)か上向き($\beta$)かという、わずか一つの$\text{OH}$基の向きの違いが、次のセクションで見るグリコシド結合の立体化学を決め、最終的に多糖の物性を支配します。
二糖や多糖は、単糖どうしがグリコシド結合で連結されたものです。 グリコシド結合は、一方の糖のアノマー炭素(C1)の$\text{OH}$基と、もう一方の糖の$\text{OH}$基が脱水縮合して形成される共有結合です。 高校では「脱水縮合で$\text{H}_2\text{O}$が取れてつながる」と学びますが、大学ではこの結合の立体化学に注目します。
グリコシド結合の命名には、3つの情報を含めます。
マルトース(麦芽糖)は、2分子のD-グルコースが$\alpha$-1,4-グリコシド結合でつながった二糖です。 具体的には、一方のグルコースの$\alpha$アノマーのC1と、もう一方のグルコースのC4の$\text{OH}$基が脱水縮合しています。
$\alpha$-1,4-グリコシド結合では、C1の$\text{OH}$がもともと環平面より下側($\alpha$配置)にあった状態で結合が形成されます。 この結合の幾何学的な特徴は、つながった2つのグルコース環が同じ向きに並ぶことです。 ハワース式で描くと、2つの六角形が同じ方向を向いて並び、結合部分が環の下側にあります。
アミロース(デンプンの直鎖成分)は、このα-1,4-グリコシド結合がグルコース数百〜数千個にわたって繰り返されたものです。 $\alpha$-1,4結合の結合角の特性上、グルコース環は約6個で1回転するらせん構造(ヘリックス)を形成します。 らせんの内部は疎水的な空間であり、ここにヨウ素分子 $\text{I}_2$ が入り込むことで、ヨウ素デンプン反応の青紫色を生じます。
セロビオースは、2分子のD-グルコースが$\beta$-1,4-グリコシド結合でつながった二糖です。 一方のグルコースの$\beta$アノマーのC1と、もう一方のC4のOHが結合しています。
$\beta$-1,4-グリコシド結合では、C1のOHがもともと環平面より上側($\beta$配置)にあった状態で結合が形成されます。 この幾何学的な帰結として、隣り合うグルコース環は交互に反転した配置をとります。 ハワース式で描くと、1つ目のグルコース環に対して2つ目が上下逆さまになり、3つ目は再び元の向きに戻ります。
セルロースは、この$\beta$-1,4-グリコシド結合がグルコース数千〜数万個にわたって繰り返されたものです。 交互反転の配置により、セルロースの鎖は全体として直線的に伸びます。 らせん構造をとらないため、ヨウ素分子を取り込む空間がなく、ヨウ素デンプン反応を示しません。
$\alpha$-1,4-グリコシド結合:隣り合うグルコース環が同じ向きに並ぶ → 鎖全体がらせん構造をとる。
$\beta$-1,4-グリコシド結合:隣り合うグルコース環が交互に反転する → 鎖全体が直線的に伸びる。
この違いは、アノマー炭素C1の$\text{OH}$が下向き($\alpha$)か上向き($\beta$)かという、たった一つの立体化学の違いに起因します。
グリコシド結合にはもう一つ重要な帰結があります。 アノマー炭素のOHが結合に使われると、そのC1はもはや鎖状構造のアルデヒド基に戻ることができません。 したがって、グリコシド結合に関与したC1側の糖は還元性を失います。
マルトースでは、一方のグルコースのC1がグリコシド結合に使われていますが、もう一方のグルコースのC1は遊離しています。 この遊離したC1は鎖状構造のアルデヒド基に戻ることができるため、マルトースは還元性を示します。
一方、スクロース(ショ糖)は特殊です。 グルコースのC1とフルクトースのC2がグリコシド結合で結ばれており、両方のアノマー炭素が結合に使われています。 そのためスクロースには遊離アノマー炭素がなく、還元性を示しません。 高校で「スクロースには還元性がない」と学んだ事実は、このようにグリコシド結合の構造から論理的に説明できます。
ここまでで、グリコシド結合の立体化学と、それが還元性にどう影響するかを理解しました。 次のセクションでは、この知識を使って、デンプンとセルロースの巨視的な物性の違いを体系的に説明します。
アミロース(デンプンの直鎖成分、$\alpha$-1,4結合)はらせん構造をとるため、以下の物性が導かれます。
アミロペクチン(デンプンの分岐成分)は$\alpha$-1,4結合の直鎖に加えて、$\alpha$-1,6結合による分岐を持ちます。 分岐によりらせんの長さが短くなるため、ヨウ素デンプン反応では赤紫色を示します(アミロースの青紫より短波長側にシフト)。
セルロース($\beta$-1,4結合)は直線的に伸びた鎖をとるため、デンプンとは対照的な物性を示します。
デンプンとセルロースの物性の違いを、グリコシド結合の立体化学から一覧にまとめます。
| 性質 | デンプン($\alpha$-1,4結合) | セルロース($\beta$-1,4結合) |
|---|---|---|
| 鎖の形状 | らせん構造 | 直線構造 |
| 分子間の相互作用 | 弱い(個々の鎖が独立) | 強い分子間水素結合 |
| 水溶性 | 温水に溶ける(コロイド) | 水に不溶 |
| ヨウ素反応 | 青紫色 | なし |
| ヒトによる消化 | アミラーゼで分解可能 | 分解不能 |
| 機械的強度 | 低い | 高い(繊維として利用) |
| 構造上の原因 | 隣接環が同じ向き → らせん | 隣接環が交互反転 → 直線 |
この表のすべての物性の違いは、最終行にある「隣接するグルコース環の向きの違い」に帰着します。 そして、環の向きの違いは、グリコシド結合が$\alpha$型か$\beta$型かという、C1の$\text{OH}$のたった一つの立体化学の違いから生じています。
デンプンとセルロースはどちらもグルコースの多量体ですが、物性は完全に異なります。
その原因は、グリコシド結合のアノマー炭素C1の$\text{OH}$が$\alpha$配置(下向き)か$\beta$配置(上向き)かという一点に集約されます。$\alpha$なららせん、$\beta$なら直線。これが水溶性・ヨウ素反応・消化性・機械的強度のすべてを支配しています。
この立体化学の違いを、具体的な数値で確認します。
アミロースの$\alpha$-1,4-グリコシド結合では、C1-O-C4の結合角は約117度であり、グルコース環の連続的な回転により左巻きらせんが形成されます。 らせん1回転あたりのグルコース残基数は約6個で、らせんの直径は約1.3 nmです。 $\text{I}_2$分子の直径は約0.53 nmであり、らせんの内径(約0.5 nm)にちょうど収まります。
セルロースの$\beta$-1,4-グリコシド結合では、同じC1-O-C4の結合角でも、グルコース環が交互に反転するため、鎖は直線的に伸びます。 セルロースの繰り返し単位(セロビオース単位)の長さは約1.03 nmであり、これが規則的に繰り返されます。 隣接するセルロース鎖は約0.8 nm間隔で平行に並び、鎖間に1残基あたり3本の水素結合が形成されます。 この密な水素結合ネットワークが、セルロースの水不溶性と高い引張強度(約1 GPa)の原因です。
Q1. フィッシャー投影式において、D-糖とL-糖はどのように区別されますか。
Q2. $\alpha$-D-グルコピラノースと$\beta$-D-グルコピラノースの構造上の違いを、ハワース式に基づいて説明してください。
Q3. スクロース(ショ糖)が還元性を示さない理由を、グリコシド結合の構造から説明してください。
Q4. デンプン(アミロース)がヨウ素デンプン反応を示し、セルロースが示さない理由を、グリコシド結合の立体化学から説明してください。
以下の糖について、(a) 単糖・二糖・多糖のいずれか、(b) 還元性の有無、(c) 構成単糖を答えてください。
(1) マルトース
(2) スクロース
(3) セルロース
(4) ラクトース
(1) マルトース:(a) 二糖、(b) 還元性あり、(c) グルコース + グルコース($\alpha$-1,4-グリコシド結合)。一方のグルコースのC1が遊離しているため還元性を示します。
(2) スクロース:(a) 二糖、(b) 還元性なし、(c) グルコース + フルクトース。グルコースのC1とフルクトースのC2がともにグリコシド結合に使われ、遊離アノマー炭素がないため還元性を示しません。
(3) セルロース:(a) 多糖、(b) 還元性なし(実質的に)、(c) グルコース($\beta$-1,4-グリコシド結合)。鎖の末端に遊離アノマー炭素が1つありますが、分子量が非常に大きいため、1個のアルデヒド基による還元性は実質的に検出されません。
(4) ラクトース:(a) 二糖、(b) 還元性あり、(c) ガラクトース + グルコース($\beta$-1,4-グリコシド結合)。グルコース側のC1が遊離しているため還元性を示します。
セルロースの分子量が $4.86 \times 10^5$ であるとき、このセルロース1分子を構成するグルコース残基の数 $n$ を求めてください。 グルコースの分子量は 180、水の分子量は 18 とします。
セルロースは $n$ 個のグルコースが脱水縮合したものなので、$(n-1)$ 分子の水が脱離しています。
$$M = 180n - 18(n-1) = 180n - 18n + 18 = 162n + 18$$
$$4.86 \times 10^5 = 162n + 18$$
$$162n = 4.86 \times 10^5 - 18 \approx 4.86 \times 10^5$$
$$n = \frac{4.86 \times 10^5}{162} = 3000$$
よって、このセルロース1分子はグルコース残基 3000 個からなります。
$n$ が十分大きいとき、$162n + 18 \approx 162n$ と近似できます。グルコース残基1つあたりの質量は、グルコースの分子量 180 から水1分子分の 18 を引いた 162 です。これは脱水縮合のたびに $\text{H}_2\text{O}$ が1分子失われることに対応しています。
D-グルコースの水溶液を調製した直後の旋光度は $[\alpha] = +112{}^\circ$ を示しましたが、 時間が経つと $[\alpha] = +52.7{}^\circ$ で一定になりました。 $\alpha$-D-グルコースの比旋光度を $+112{}^\circ$、$\beta$-D-グルコースの比旋光度を $+18.7{}^\circ$ とするとき、 平衡状態における$\beta$体の割合を求めてください(鎖状構造の割合は無視できるものとします)。
$\beta$体のモル分率を $x$ とすると、$\alpha$体のモル分率は $(1-x)$ です。
平衡状態の旋光度は各成分の旋光度の加重平均として表されます。
$$+52.7 = (+112)(1-x) + (+18.7)x$$
$$52.7 = 112 - 112x + 18.7x$$
$$52.7 = 112 - 93.3x$$
$$93.3x = 112 - 52.7 = 59.3$$
$$x = \frac{59.3}{93.3} = 0.636$$
よって、平衡状態における$\beta$体の割合は約 63.6% です。
調製直後に $[\alpha] = +112{}^\circ$ を示したのは、純粋な$\alpha$体を溶解したためです。時間の経過とともに変旋光(mutarotation)が進行し、$\alpha$体と$\beta$体の平衡に達します。この計算結果($\alpha$体 36.4%、$\beta$体 63.6%)は、$\beta$体のほうがすべてのOHがエクアトリアル位にある安定な配座をとれることと整合しています。
グリコーゲンはアミロースと同じ$\alpha$-1,4-グリコシド結合を主鎖に持ちますが、 アミロペクチンより高頻度(8〜12残基ごと)に$\alpha$-1,6結合による分岐を持ちます。
(a) グリコーゲンがアミロースより水溶性が高い理由を、構造の特徴から説明してください。
(b) グリコーゲンが動物体内でエネルギー貯蔵物質として適している理由を、構造と関連づけて論じてください。
(a) グリコーゲンは高頻度の分岐を持つため、個々のらせんが短く、分子全体は球状の樹状構造をとります。球状構造では分子表面に多数のOH基が露出しており、水分子と広く水素結合を形成できます。一方、アミロースは分岐がないため長いらせんを形成し、らせんどうしが絡まって水和が妨げられやすくなります。したがって、グリコーゲンのほうが水溶性が高くなります。
(b) エネルギーを素早く供給するには、多糖を速やかにグルコースに分解する必要があります。グリコーゲンは高度に分岐しているため、分岐の末端(非還元末端)が非常に多数存在します。グリコーゲンホスホリラーゼなどの酵素は非還元末端からグルコース残基を順に切り出すため、末端が多いほど同時に多くの酵素が働くことができ、グルコースの供給速度が高くなります。さらに、球状でコンパクトな構造は細胞内での貯蔵効率が高く、肝臓や筋肉に大量のグルコースを高密度で蓄えることができます。